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    ya_rayshan

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    ya_rayshan

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    萌芽のおまけ、その②
    娘たちが寝静まった後の夫婦の会話。
    多分今日中に今まで書いた小話を纏めて支部に上げられるはず………

    #夏五
    GeGo

    夜が深まり、月がとっくに中天を過ぎた頃。
     傑は上層部のゴリ押しで入れられた任務から帰ってきた。
     疲れ切った体で自室に向かえば、そこには天使の顔が三つ。どうやらうまく仲良くなれたらしい。
     寄り添って、穏やかな寝顔を晒す三人は可愛い。例え自分のベッドを占領していても。

     少し軽くなった体でそっと浴室に移動しながら、夕方届いたメールを思い出す。

    【美々子と菜々子にクソジジイが接触した。】
    【怪我はない。けど、怖い思いはさせちまった。】
    【ごめん。】

     簡素な文面から滲む後悔を汲み取れぬ傑ではない。
     あの五条悟が、不器用ながらもきちんと双子の少女の“親”になろうと藻掻いている様を知っていれば尚更に。

     熱いシャワーを被りながら、腹の底からじわじわと湧き出てくる怒りを懸命に呑み下す。

     金と権力で肥え太るばかりの老害が、懸命に生きようとする幼子と、若者の努力を踏み躙ろうとした。
     それも自身の無二の親友、最強の半身が、人であろうと足掻いた結果をだ。

     どうにも人間味の薄かった悟が、自分以外の、それも圧倒的な弱者に対して興味を持ち、あまつさえ庇護しようと行動する成長を、傑はいつも奇跡を目にしているように感じていた。
     今まで弱者を軽んじ、呪術界の常識の中で歪に育てられた悟が、人間として成長し自分の意志で選んだ初めての“守るもの”。それを身勝手で薄汚れた欲で穢そうなどーー

     到底、赦せることではない。

     だが、と一呼吸おき、傑は努めて頭に上りかけた血を制する。
     いつの間にか固く握られていた拳を、意識して解いた。
     ここで分かりやすい力に訴えることの無意味さを傑はよく知っている。下手を打てば今までの自分や悟の努力が、それこそ水の泡になってしまう。
     その思いだけで、傑はなんとか冷静な思考を回していた。

    ーーその思考が、物騒でないわけはなかったが。

     きゅっ、という音とともに、シャワーが止まる。
     傑はひとつ大きく息をして、浴室を後にした。




    「ずいぶんゆっくりだったじゃん」

     部屋に戻ると、悟はベットの端に腰掛けていた。

    「……すまない、起こしてしまったかな」
    「気にすんなよ。むしろお前のこと待ってたんだからちゃんと起きれてよかった」

     潜めた声で短くやり取りをすると、スッと隣の部屋を指差した悟に従って部屋を出る。

     極力音を立てないように隣ーー悟の部屋へと移ると、二人は自然とベッドへ向かう。
     とはいえ、色っぽい雰囲気は皆無だ。単純にそこ以外に座る場所がないだけ。
     いつも通りに並んで腰掛けると、部屋には沈黙が落ちた。

     傑は静かに言葉を待った。
     隣に座る親友兼恋人が、思った以上に落ち込んでいることに気付いていたので。片膝を立てて胡座をかき、右手で真っ白な髪をぐしゃりと搔き乱す様を横目に、そっと身を寄せるに留めた。

     触れ合う肩の温度がどちらのものかわからなくなった頃。悟はゆっくりと口を開いた。

    「………悪かった。今日二人を危険な目に合わせたのは、俺が目を離したからだ」
    「……うん。」

     普段の“五条悟”からは信じられないほど小さく、静かに零される言の葉を、一つ残らずすくえるように、傑は全霊を傾ける。

    「悟は、なんで二人から目を離したんだい?」

     こてりと傾けた頭を擦り付けて、“責めていないよ”と伝えると、悟の纏う空気がホッと和らいだのを感じた。

    「……補助監督がさ、次の任務について伝えに来たんだ。機密事項もあるからって別室に移ることになって、二人にはこの部屋出るなって言ってから移動した。」
    「そうか……。それで、戻ってきたら居なくなってた?」
    「うん……。離れてたのは10分ちょっとくらいかな。でも視た感じ、俺達が部屋外してすぐ出てったんだと思う。」

     そこまで言うと、悟は全身の力を抜いて凭れかかっきた。ぐっと増した重さを受け止めて、傑はそっと肩に腕を回す。

    「………ごめん」
    「もう謝らないで。きちんと“出ていくな”と伝えられたのに、言うことを聞かず出ていった二人も悪かったんだ」

     悟の頭を撫でながら、「次が無いように、きちんと言い含めておこう」と慰める傑に、じわりと込み上げてくるものを誤魔化す。

    「俺さ、あんなガキンチョふたりを守るのなんてヨユーだと思ってた。
     教室に結界張って、入ってくる奴に気を張ってれば大丈夫って……」

    「でも、ダメだった。また間違えた」

    「……人を守るって何でこんなに難しいんだろうな…」

     ぽつぽつと溢される言葉頼りなく、まるで迷子のような様子に、心臓がぎゅっと縮こまる。
     衝動のまま悟を抱き締めて、傑は口を開いた。

    「物と違って、意思のある人間を守るのが難しいのは当然だ。それでも美々子と菜々子を縛りつけるような事をしなかったのは、悟がキチンと二人と向き合って、心から守ろうと考えた結果だろう?
     それが失敗して悩んだり、悔やんだりするのは当然の事だ。
     当たり前の、ことなんだよ……」

     そろりと背中に手が回るのを感じ、悟を抱き締める手に力を込めた。
     まるい頭が埋められた肩の熱さは、敢えて無視した。

    「それに、前に言ったろ?
     間違ったなら正せばいい。失敗は一緒に乗り越えて行けばいいんだ。
     君も私も独りじゃない。私達は二人で、最強なんだから。」

     服の背がギュッと握られたのを感じながら、悟の熱い息が治まるまで、傑は優しくその背を撫で続けた。


    +


    「さて、それじゃあそろそろ、愉しい話をしようか」

     バツの悪そうな顔でそろりと身体を離した悟に、そう言って傑はニコリと微笑む。
     掛け直されたサングラスの奥の目の赤さや、自身の湿った肩口などは無視だ。

    「愉しいことって……」
    「もちろん、私の大切な家族を傷付けたお馬鹿さんへの報復についてさ」

     それを聞いた悟の目にキラリと光が灯る。
     そのままニンマリと目を細め、ワクワクとした様子で再び傑に身を寄せる。

    「で?傑がそう言うってことは、もう大体プランは考えてあんだろ?」
    「まあね。
     報復ついでに実験もできる、一石二鳥なプランさ」
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