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    ya_rayshan

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    ya_rayshan

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    GEGODIGSUMMER2 開催おめでとうございます🎉
    こちらの展示品ですが、作者体調不良のせいで書きかけとなっております。
    大変申し訳ありません。

    書き上がり次第適宜追加してまいりますが、後日改めて全文をピクシブにアップするので、まとめて読みたい方はそちらをどうぞ!💦💦

    #夏五
    GeGo
    #女体化
    feminization

    華燭の契り 曖昧な風景の中、見知った誰かと向かい合っている。

     いつも通りの穏やかな顔を前にして、紡がれる己の声は弾むように。


    ──じゃあ約束だからな!

    ──うん、約束。だから忘れないでよ?悟。

    ──傑こそ、忘れるなよ!


     まるで幼い子供のような約束の言葉。
     それは遠い日の、淡い春の記憶。




    + + + + + + + +



     ぱちり。と瞼が上がる。

     部屋はカーテンから漏れる明かりで仄明るく照らされていて、ベッド横のデジタル時計は、目覚ましが鳴る数分前を指していた。

     むくりと起き上がって今日も役目を果たせなかったアラームを切ると、そのままベッドの上で思い切り伸びをする。それなりに広い部屋に、女性にしては低めの唸り声が響いた。

    「……………なっつかし〜夢………」

     行儀悪く胡座をかきながら呟いた言葉は、誰に聞かれることもなく消えた。





    +


     なんだか随分と懐かしい夢を見た。

     五条がまだ呪術高専に生徒として通っていた頃、同級生であり、親友である男と約束をした。
     きっかけなんて覚えていない。
     忘れてしまうほど些細なことだったのか、あるいは約束自体が衝撃で忘れてしまったのかはわからない。

     ただ、交わした約束だけは、今も胸に刻み込まれている。

    【お互いが三十路になっても未婚で、決まった相手がいなかったら結婚する】

     そんな子供の約束を、後生大事に抱いているのだ。

     だが、現実はいつだって甘くない。
     約束を交わした相手──夏油傑は、呪術界の悪辣さと無知故に無恥な非術師を助け続けることに辟易して、卒業後は任務の中で保護した双子の少女を伴って、高専とは一線を引いた付き合いをしている。
     そして五条も、特級呪術師、高専教師、五条家当主という三足の草鞋は五条の時間を擦り減らし、夏油とは折をみて連絡を取り合う間柄ながら、やはりどこか疎遠になってしまった。

     しかし、フリーの呪術師となろうと特級は特級。
     さらに夏油自体が目立つ男であるので、その噂は意識せずとも耳に届く。
     夏油に女の影がちらつく度、周囲の女性達は一喜一憂し、望もうと望むまいとその詳細を知ることができた。
     やれ女と腕を組んで歩いていた、二人っきりで食事をしていた、夜の街へと消えて行った──
     そして共にいる女性は、近い時期の噂であっても特徴が一致しないこともままあり、その度に五条は「お盛んなこって」と呆れていた。

     そうして呆れるふりをしながら、夏油はもうとっくに、縛りですらない約束など忘れているのだろうと、性懲りもなく疼くモノを押し殺した。



     しかし、それももう終わりにしなければならないだろう。





     30歳まで一年を切り、五条家の年寄り共がますますもって五月蝿くなってきた。
     山のような釣書をしつこく送り付けてきては、子供を生むことを考えれば今年中に結婚して子作りをと、余計で下世話なお節介ばかりの連中にもほとほと嫌気が差していた。

    「あんな夢見たのもそのせい?
     僕ってば意外に繊細だったのネ。」

     ふざけた口調で独り言を零しても、苛立ちは大して紛れない。
     当主を襲名した以上、世継ぎを望まれるのは仕方のないことと、五条自身も理解している。
     だが、自分より弱い男に組み敷かれるなど到底納得出来ず。また教育者として、特級呪術師として東奔西走しているところに『家の為の子供』を求められること自体が、心底不愉快で堪らない。

     そして何より、未だ割り切れぬ感情が、五条にそれを良しとさせなかった。

    (結ばれたいなんて望まない。ただ……、せめて一度だけ、この感情を伝えたい。

     その後なら、例えどれだけ不愉快でも、納得行かなくても、家の為の婚姻を受け入れるから…………)

     取り留めもない思考がグルグルと渦を巻きながらも、五条悟は問題なく任務を熟し、戻るべき場所へと戻る。

    「ねえ、聞いた?あの話!」

     ふいに聞こえてきた声に、つい足が止まったのは疲れていたからだろうか。

     薄い壁越しの休憩室には、数人の女性の気配があり、女性特有のキンキンとした声が頭に響くというのに、何故か足が動かない。

    「もしかして、夏油術師の話?」
    「そうそう!」

     五条の優秀な脳が嫌な予感を告げている。

    「えー、アレってマジなの?
     ショックー、狙ってたのに」
    「え、なになに、夏油術師がどうしたの?」

     聞きたくないのに、手も足も動かない。

    「こないだ知り合いの補助監督の子が言ってたんだけど、



     夏油術師が女と一緒にジュエリーショップに入ってくとこ見たんだって!」



     その瞬間、五条の中で何かがぷつりと切れた。



     休憩室の中では、補助監督の女性達がキャアキャアと盛り上がっている。
     人誑しでガチ恋製造機の夏油もついに年貢の納め時かと、ショックだと言いながらも楽しそうに、微笑ましそうに噂する補助監督たちの声は、分厚い壁をいくつも隔てたかのように現実感がない。

     さっきまで石のように固まっていた足はふらりと離れ、雲を踏むような心地で、五条はその場を離れた。

     ふらりふらりと遠ざかる足取りとは裏腹に、取り出したスマホを操作する手は淀みなく、また、掛ける言葉もハッキリとしていた。

    「───あ、爺や? あの話、受けるよ」



    + + + + + + + +



    「最近、随分と忙しそうだな」

     任務の合間に立ち寄った医務室で、気怠げにそう声を掛けられた。
     振り向いた先には、いつも通り、ダウナーな雰囲気を纏った白衣の美女。
     普段よりほんの少しだけ険しい顔をした、家入硝子が立っていた。

    「そりゃね。
     なんたって僕、最強でご当主様な先生だからさぁ。毎日目が回るくらい忙しいのよ。
     硝子だって知ってるでしょ?」

     目隠しの下にヘラっとしたいつもの笑顔を貼り付けて、なんでもない、当たり前のことを口にする。五条の立場や忙しさはほとんど周知の事実であるし、こう言っておけば、殆どの場合余計な詮索はされないと知っていた。
     しかし、付き合いの長く遠慮のない関係の家入は、全て分かった上で五条の引いた線を無視する。

    「それでも、それなりに要領よく回してただろ。伊地知脅してテキトーな会議は後回しにさせたりさ。
     なのに近頃は、任務も会議も大して文句も言わずに出てるみたいじゃないか。伊地知も気味悪がってたよ」
    「はぁ〜〜!???
     なにそれ失礼すぎない?伊地知マジビンタなんだけど!!」

     キャンキャンと喚いて見せる五条は、冷静な表情を崩さない家入を見て、観念したように息を吐いた。

    「……いい加減当主としての責を果たせって、ウチのジジイどもが最近煩くってさぁ。
     ほら、僕もそろそろイイ歳じゃん?
     早く後継ぎ産め産めって催促されまくってんの。
     ほんっともううっとーしくって!」

     一息でそう言い切って舌を出して見せる五条に、家入は眉を寄せて、不審そうな、不快気な表情を浮かべた。

    「……そんなくだらない圧力、いつも鼻で笑って一蹴してたじゃないか。
     なんで今回に限って大人しく従う気になったんだ」

     イライラとした言葉に、ほんの一瞬五条のニヤけた雰囲気が無くなった。それは、付き合いの長い家入や恩師、此処にはいないもう一人の同級生くらいにしか気付かれないくらいの些細な変化だったが、二人の間には十分すぎるほどの隙だった。

    「………ま、どーでもいいけど、ヤケは起こすなよ。
     あと、ヒスって私に迷惑かけるな。お前らのフォローなんて面倒極まりないんだから」
    「僕がヒスなんて起こすわけ無いって知ってるでしょ。………ほんと、硝子にはかなわないなぁ……」
    「それこそ今更でしょ?」

     ありがと。という精一杯の言葉は、らしくもないかすかな響きで零れ落ちた。



    + + + + + + + +



     家が選んだ相手との見合い。
     五条は、今までののらりくらりと躱してきたそれを受けることにした。
     五条がそう口にした瞬間から、善は急げとばかりにお相手探しが始まった。気が変わらぬうちにと必死だったのもあるだろう。
     五条自身に強い希望もなかったことから、今まで送りつけられていた大量の釣書きからさらに厳選に厳選を重ねることにしたらしい。
     その様は、まるでゲームか家畜の交配のようだなと考えて、五条は自分の思考に思わず失笑した。

     選ばれたのは五条の分家の嫡男。顔はそこそこ、呪力は並で術式は凡。見合いと言いつつ、”家“の選んだ相手とあらば、余程のことがなければこの男と結婚することになるのだろう。誰かさんとは比べるべくもないが、彼と結ばれないのならどんな相手であれ同じこと。
     御三家の当主として、六眼と無下限の抱き合わせとして。結婚という契約が避けられないのなら、家の連中が納得する相手と、さっさと形だけ整えてしまえばいい。子供だって、跡取りは実子である必要はないし、五条悟の直系が欲しいなら、最悪、現代には体外受精だってある。
     諦め半分、やさぐれ半分。そんならしくもない気分で受け入れた見合い話は瞬く間に呪術界に広まった。

     一応親しい間柄の人間には見合いをすることを五条の口から報告した。
     恩師や脱サラ系後輩はなにか言いたげな苦々しい顔をしていたが結局口を噤んだし、家入に至ってはもはや眉一つ動かさなかった。唯一気弱が服を着て見える後輩だけは声をひっくり返していたので、盛大に笑ってやった。

     そして自らが後見人を務める子供たちは、心底納得行かないと五条に詰め寄ってきた。
     後見人は変わらず務めるし、二人の生活に影響は出さないと言えば、烈火の如く怒られた。
     特に恵は、もともと良いとは言えない目つきを極悪人のそれにして五条を睨みつけては、「本気ですか」「アンタはそれで良いのかよ」と何度も繰り返した。
     常に我が道を行く五条が家の言いなりになるのがそんなに受け入れ難いのかと思っていたが、どうやら高専の他の生徒たちからも同じような言伝を受けていたらしい。
     そして津美紀はといえば、もうほとんど泣いていて、こちらが罪悪感を感じるほどに落ち込んでいた。
     長い付き合いの二人には、どうやら五条の気持ちは筒抜けだったらしい。

     優しい子供たちだ。可愛い生徒たちだ。
     例え結婚して子を持つことになっても、高専の教師を辞めるつもりはない。そんなことを求められたら、誰であろうと赫でふっ飛ばしてしまう。

    「ありがとうね」

     そう言って伸ばした両の手のひらは、叩き落されることなく、感触の違う黒髪を暫く撫で続けた。


     そして、最後に。

     自分にとって唯一無二の親友へも、勿論五条は報告した。
     ただ、どうしても顔を見る自信がなくて、メッセージアプリで済ませた。幸いここ最近はお互い忙しく、任務の都合でなかなか顔を合わせる時間がないので、怪しまれることはないだろう。
     そしてどんな返信が来るのか見たくなくて、通知を切ってしまった。





     外の世界を知らなかった頃。女として消費されることに、五条はさして違和感も嫌悪感も抱かなかった。
     一族悲願の術式と六眼を併せ持ち、いずれは当主を継ぐことになると決まっていても、女は女。どんなに自分を崇め、丁重に扱われようが、聡い五条には家の者たちの考えが透けて見えていた。
     即ち、『女は男に従うもの』。あるいは『女は子を孕むためのイキモノ』。
     けれどそれこそが、幼い五条にとっての”普通“だった。
     いずれ血を残しさえすれば、婚姻を結ぶタイミングも相手も、ある程度は自由にできる。それに他の御三家に比べれば、五条家のソレはまだ幾分マシだと知っていた。そのうえで余計なエネルギーを使ってまで拒絶するほどの積極性を五条は持てず、『そういうものか』と受け入れた。。
     疑問を差し挟む余地など、年端も行かぬ幼子にはみつけられなかったのだ。

     だからこそ、呪術高専に入学してからは驚きの連続だった。

     自分よりずっと弱いはずなのに、力強く生を謳歌する少女たち。
     五条の家で見る女達は皆等しく影を背負い、いつもどこか息を潜めるようにしていたというのに、家の女達より若く拙い彼女たちは、そこらの男どもよりも余程強く見えた。

     そして何よりの驚きは、「女性は大切にすべき、優しくすべき」という価値観と、それを大真面目な顔で語る男の存在だった。
     誰もが”最強“と崇め恐れる自分を、当たり前に”一人の女性“として扱った男に、ナメられたと感じて初対面でそこそこの喧嘩をやらかした。
     最底辺の機嫌のまま煽り散らかす五条に、最終的には男女がどうのと言っていられなくなった派手な喧嘩を終えたあと、ようやく落ち着いて話を聞けば、その価値観は彼の生まれ育った環境では程度の差はあれ当たり前のものであり、対象が男であれ女であれ他人の意思や人権を蔑ろにする者は人でなしのクズ──というのが、外の世界の『普通』であると教えられた。

     そうして、自分の生まれ育った世界が、いかに歪で醜悪かを思い知った。

     呪術界の歪さなど、とうの昔に理解していたつもりだったが、夏油たちに言わせればそれでも足りなかったらしい。
     『六眼と無下限術式を併せ持つ次期当主』や『次世代を孕む胎』ではなく、『五条悟という個人』を尊重し大切にされる感覚は新鮮で、悪くないものだった。

     夏油と家入を筆頭とする己への雑な扱い。そしてその中に感じられる仄かな親愛と確かな信頼。
     夜蛾の普通の子供を叱るようなゲンコツ。
     自分に容赦なく喰らいついてくる歌姫や、マイペースを崩さない冥冥。屈託も遠慮もない後輩たち。
     彼らと触れ合い、呪術以外のことを学ぶうち、五条はまた一つの『常識』を知った。

     すなわち、『結婚とは愛しあう者同士で行うものである』ということを。

     衝撃だった。
     結婚という契約が個人の感情を基盤にして行われることも、女性側にも選択の自由があることも。
     五条の『常識』と同じように、家同士を繋ぐためや、血を繋ぐための結婚も【政略結婚】として残っていたが、とうに一般的でなくなり、どちらかといえば忌避されるものだということも知ってしまった。

     だから、憧れてしまった。

     街角の恋人たちや、テレビの向こうや任務先で時折見かける幸せそうな花嫁たちに羨望と憧憬を抱き、自分には縁遠いものとしりながら夢想した。
     その儚い”もしも“を思い浮かべる時、自分の隣りにいる人影はいつだって同じだった。
     叶わないと知っていたのに。
     なのに、期待を持ってしまった。

     当時から最強として大人顔負けのどころか、大人以上の力と責任を負わされていた2人が交わすにはにはあまりに稚い約束。
     それでも五条には掛け替えのない約束だった。五条悟に残された唯一の幼さだった。

    ──でも、それももうおしまい。

     伏せていた目を開けば、粧し込んだ女がいた。



    +



    「いやぁ、まさか私が悟様のお相手に選ばれるとは…!光栄の至りです!
     それにしても、お噂はかねがね耳にしておりましたが、本当にお美しい……!」

     五条家の一室で相見えた”見合い相手“は、五条の美しさと、自らが選ばれたという高揚感でいっぱいになっていた。
     自らとは対照的に、温度も色もない五条の表情にはこれっぽっちも気付かず、上滑りする中身のない美辞麗句と自らがいかに優秀な男かを一方的に捲し立てるばかり。
     顔を合わせて早々、五条はすでに嫌気が差していた。今日のために仕立てられた白縹の着物も、結い上げられた白糸を彩る天色の髪飾りも。これ以上なく似合っているはずなのに、どこか“五条悟”の無機質さばかりを引き立てている様にも見えた。

    (アイツ、僕のこの格好見たら、なんて言ったかな……)

     未練がましく思い描いた姿に、思わず口の端を歪めたが、向かいの男には微笑みとして受け取られたようで、ますます調子に乗る男を本気で嗤ってやろうかと思った。

     ある程度男が満足して口を閉ざすと、いよいよ婚姻の話に移った。

    「まず改めての確認になりますが、この婚姻、ひいては結婚生活の主体は、五条本家のご当主であらせられる悟様であること、ご理解頂きたい。」

     仲人でもある爺やが口火を切った。

    「妾などは基本的には持てませんし、持つ際は悟様のご許可が必要となります。

     また、子作りについても同様に、悟様の意思が最優先となります。
     当然のことですが、悟様の意思を無視した行いには相応の対応を取らせていただきますので、お覚悟下さいませ。」

     神妙な顔で告げられた言葉に、男もまた真面目ぶった顔で頷いた。しかし口端をひくつかせてはニヤけ面を取り繕いきれてはおらず、男からの下卑た視線には、”五条悟という女“を好きにできるという思考が見え隠れしていて、五条はまた一段と気分が沈んだのが分かった。

    「質問などはございませんか?
     ……よろしい。ではこちらの契約書にサインを。
     国の正式とするものではありませんが、これをもって事実上の婚姻成立とし、婚姻届はまた後ほど提出に参ります。」

     机上に差し出されたのは二枚の書類。うち一枚はプリントコピーされた、公的な書類然とした婚姻届。そしてもう一枚はあきらかに手書きと分かる、達筆な毛筆で記された契約書。
     後者の方が国の公的な書類よりも優先されることが当たり前のように話されていて、もはやその滑稽さを笑う気力も消え失せた。

     男が意気揚々と筆を執り、契約書に署名する。五条の六眼には、その瞬間から男と契約書の間に呪力による繋がりができたのが見えた。
     そうして自分の方へと回されてきた筆を見て、これで署名をすれば、それだけでこのつまらない男との婚姻が成立することを再確認してもなお、もはや五条にはなんの感慨も浮かばなかった。
     冷えた心のまま筆を執り、契約書に筆先を近付け──



     不意に爆音が轟いた。



    +



     爆音は五条屋敷を覆う結界の一部を大破させ、その直下の建造物等も吹き飛ばしたせいらしい。

     音に直ぐ様反応し、発生源を確認した五条に、六眼はそのような情報を返してきた。そして、もう一つの情報を知覚して、五条は動けなくなってしまった。

     普段静謐の中に呪いを湛えている五条家の本家が、今は蜂の巣を突いたような大騒ぎ。恐らくは家人総出で侵入者を迎撃しているだろう。
     その真ん中を、真っ直ぐに、悠々と向かってくるのは慣れ親しんだ呪力の塊。
     スパン!と音を立てて開けられた障子の先に居たのは、誰あろう夏油傑その人であった。

    「ああ、悟。よかったすぐに見つかって」

     あまりに朗らかに、いつも通りに声を掛けてくる夏油に、五条は言葉を失う。
     ポカンとした五条に構わず、夏油がぐるりと周囲を見渡せば、先程まで五条と向かい合ってダラシない顔を晒していた男は、想定外の襲撃にあってとっくに腰を抜かして、壁際へ向かってみっともなく床を這っていた。

     夏油は、そんな『五条悟の婚約者』になるはずの男を睥睨し鼻を鳴らす。大いに侮蔑が込められたそれに、平時であればキャンキャンと噛み付いたであろう血統だけは良い男は、ますます縮み上がった。
     そして、その一瞥で男への興味を失ったように視線を外した夏油は、五条の傍らに膝をつくと、視線を合わせて綻ぶように微笑んだ。

    「約束を果たしにきたよ、悟。」

     五条を含めた誰もが呆然とする中、自然な仕草で五条を横抱きにした夏油は、スッと息を吸い込むと、「悟は私が妻にもらう」と宣言した。

    「………は?」
    「元々私達の間には長く深い付き合いと絆がある」
    「ちょ……」
    「そんじょそこらの男女より、よっぽど上手く夫婦関係を築けるし、悟のワガママだって誰より上手くいなしてやれる」
    「おい」
    「特級術師であり、【六眼と無下限の抱き合わせ】たる”五条悟“に対して、半端な血筋と術式を混ぜるのが嫌なのはそちらだろう?
     その点、私は悟と同じ特級で、術式もそれなりに貴重だそうじゃないか」
    「聞けや」

    「五条悟に相応しいのは私だ。
     私だけが彼女の伴侶に相応しい。」

     張り上げているわけでもないのによく通る声でそう言い終えると同時に、夏油の足元から出現した呪霊に乗って、五条は夏油に抱えられたまその場を離れることになった。
     飛び去る直前、屋敷は再び大騒ぎになっていたようだったが、五条にはそこに思考を割くだけの余裕は既になかった。




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