ビマヨダが森で鬼ごっこする話 ドゥリーヨダナを怒らせたので俺は森を走っている。
陽の光も届かないほど鬱蒼とした森は木々が生い茂り真っ直ぐ走ることも難しい。その上、
くすくすと笑い声が響き、背後から木の実がぶつけられる。振り返れば人影が木々の合間に消えていった。笑い声は重なり、垣間見える人影はひとつではない。
「ドゥリーヨダナ」
呼びかけに返答はなく、ヤツの弟達の笑い声が木霊した。
そもそもの発端は全面的に俺が悪かったことにある。
マスターや他のサーヴァント達がドゥリーヨダナの話題で盛り上がっていたのを聞きかじって奴が何かをしでかしたと早合点したのだ。
それは俺と恋人になってから大人しくしていたドゥリーヨダナがそろそろ騒ぎを起こす頃だと思っていたからだったが、ドゥリーヨダナは真実無実で、マスター達が話していたのはただの与田話だった。
俺が問い詰めても知らないとしか答えなかったドゥリーヨダナは、謝ろうと探した時はこの微小特異点に閉じこもっていた。
頼み込んでカルデアから帰還命令を出す代わりに、俺が迎えに来たのだが。
待ち構えていたのは森の中での鬼ごっこだ。
「ドゥリーヨダナっ!」
叫んでも怒鳴ることは出来ない。風で木々を薙ぎ払う事も可能だが、そんなことをすればドゥリーヨダナは俺の前に姿を現さないだろう。
俺は辺りを見回した。百王子達の気配は近くにある。
俺はそのひとつにあたりをつけて走り出した。
人影が逃げ出すが、条件が同じなら身体能力で上回る俺の方が有利だ。みるみるうちに距離を詰め、その背中に手が届こうかというところで、
視界にノイズが走る。
横合いから土を投げつけられたのだ。思わず立ち止まった俺から笑い声が遠ざかる。
そうだった。
幼い頃、力任せの俺に対してこいつらは数で対抗していた。俺がドゥリーヨダナにかかりきりになる度に誰かが邪魔をしに来たものだ。
俺は息を吐いた。
ドゥリーヨダナはどこだ?
あいつさえ捕まえれば百王子達は無力化する。指示する奴がいなくなり連携が緩むのだ。
俺は再度辺りを見渡した。
駆け出す。
その方向に百王子達がざわめいた。立ち尽くす人影を通り過ぎ、俺は一本の木に拳を打ち付けた。
轟音をあげて木が折れる。
その様に驚いたのか、木の向こうで霊体化していたサーヴァントが実体化した。
「ドゥリーヨダナ」
兄を守ろうと掴みかかってきた百王子達を振り払って俺は叫んだ。
「すまねぇ!!」
「そんな謝り方があるかっ!馬鹿ビーマ!!」
いつもと同じように怒り出したドゥリーヨダナに俺は笑った。