「ええ、知っています」 馥郁とした香がスルタンの寝所に漂っている。寝台に腰掛けたスルタンの足元にひれ伏したままの人物。それは彼の疑惑を買った夫に差し出された妻、のはずだった。
「何故、おまえがここにいる?」
スルタンの問いに顔を上げたのは彼の代わりに残酷なゲームを行っている男だ。彼は女物の絹越しに端正な顔を歪めてスルタンを見上げる。
「あなたはこの行為を色欲でしかないとおっしゃいました。妃を娶るものではない、と」
ならば男でもいいでしょう。
熱量のある囁きにスルタンは思い至る。この男が何度も金の妃がいない時に金の色欲カードを持ってきていた事を。
スルタンはその度に、あのゲームを長く行いながらまだルールを覚えていないのかと嘲笑ったものだが。男はいつも曖昧な笑みを浮かべていた。
男が被っていた絹を落とす。数々の決闘を熟したその体は不思議と女物の衣が似合っている。
沈黙に香が流れた。
「おまえが今持っているカードは何だ?」
スルタンの問いに男は真実を語りました。
「金の殺戮カードです」
笑い声が寝所に響き男の足から靴が落ちる。寝台に転がされた男の上で、スルタンの金鎖がシャラシャラと揺れた。
「そのカードでは私は殺せぬ」