一般人アシュくんと富豪のヨダナさん それはそれとして、寒くてオフトゥンに戻ったので現パロの富豪ヨダナさんと一般人アシュくんの話をするね。
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大学で知り合ったふたりはまだ友人。アシュくんはヨダナさんがお金持ちだと薄々気づいているけど気にせずに付き合ってた。
そんなアシュくんは長期休みの時にヨダナさんに「本邸」に泊まりに来ないかと誘われる。
あ、書く順番間違えたけど、これアシュヨダね。
本邸?と思いつつ地図を送ってもらうと、ちょっと田舎だけど電車でいけそう。
日にちも都合がつくし、アシュくんがOKするとヨダナさんは嬉しそうに「迎えを寄越そうか?」と言うけど駅からそう遠くないのでアシュくんは断った。
という話を家に帰って父のドローナさんにお泊りの報告ついでにすると、お父さんは真面目な顔でアシュくんにお金を握らせた。
「悪いことは言わないからタクシーで行きなさい」
アシュくんのお父さんとお母さんはいいところの子供だったのだけど、お互いの親に結婚を反対されて駆け落ちしているんだよね。
アシュくんが生まれて双方の家との関係が回復はしているけど、両親は庶民ぐらしが性に合っているからとこの生活を続けていた。
しかし、そうは言ってもお母さんが専業主婦してて、アシュくんはヨダナさんが通うような大学にいけているあたり、裕福ではある。
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そうして当日、お土産を持って駅についたアシュくんはいやに整備された駅の車止めを眺めながら考えていた。
地図を見て、風景を眺めればヨダナさんの家があるっぽい丘の上の住宅街が見えている。
充分歩いて行けそうな距離だった。
やっぱりタクシー代もったいないな、とアシュくんはスマホを片手に歩き出したのであった。
それが致命的なミスとも知らずに。
天気はよく、お泊りに浮かれたアシュくんは軽やかに足を運んだ。
丘に近づき、しばらく歩いていると、アシュくんは塀にぶち当たった。
塀といってもアシュくんの背の高さまで生け垣とその合間合間に設置された街灯に、監視カメラ。
私有地かな?とアシュくんは生け垣に沿って歩きはじめます。
しばらく歩くとアーチ型の大きな門と、その前に守衛さんがふたり立っていました。
スマホの地図を確認すると、ヨダナさんのお家は閉ざされた道の先です。
もう一度アシュくんは、地図を見て門を見ました。
トラックが通れそうな大きな門は閉じられています。両側は生け垣の壁が連なっていました。
繰り返し確認してもヨダナさんのお家はその奥です。
アシュくんは覚悟を決めました。
アシュくんの姿を見たときから胸元で何かを握っている守衛さんに話しかけます。
「すみません、ここはドゥリーヨダナの家で合ってますか?」
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30分後、ヨダナさんの本邸ちょっとした講堂より広い玄関ホールにヨダナさんの爆笑が響いていました。
アシュくんはそれを身体を小さくして聞いていました。顔は真っ赤です。
あの後、守衛さんから連絡を受けたヨダナさんがアシュくんの身元を保証し。
ヨダナさんが迎えによこしたなんかアンティークな自家用車に乗せられて、10分程林の中の私道を通り、アシュくんはやっとヨダナさんのお家に着いたのでした。
「ここに歩いてきた奴など、わし様初めて見た!」
ヨダナさんはまだ笑っています。
本邸に招かれるような人の殆どは自家用車で来るので、歩行者用の出入り口などないそうです。
「そうだ!今度、カルナを招いてやろう!あやつなら走ってくるかもしれん!!」
わくわくしているヨダナさんにアシュくんは顔を上げます。
「カルナはここに来たことねぇのか?」
「大学の友ではおまえが初めてだな」
と、笑いすぎて涙が滲んだ目元を拭いながら、ヨダナさんは答えます。
アシュくんは何故が胸がドキドキしました。その理由が分からず胸に手をやるアシュくんにヨダナさんはスマホを投げます。
危なげなくキャッチするアシュくん。
「ここにいる間はそれを持っておけ。来る途中に見た林も全部うちの敷地だ。鍵の掛かっていないところはどこでも行っていいが、よく迷子になる奴がおる」
「GPSか?」
「リモコンのアプリとかも入っているぞ。敷地内はどこでもWi-Fiがあるから好きに使え」
ヨダナさんの言葉にアシュくんは考え込みます。
もしかして、駅から見えた丘の上の住宅街は、全てヨダナさんの敷地だったのだろうか。
そんなアシュくんにヨダナさんは質問します。
「ところで、おまえ。洋風と和風。どちらが好きだ?」
アシュくんは食事のことだと思いました。そしてヨダナさんの金持ちっぷりも理解してきたので、ここで和風と答えると会席料理が出て来るのでは?と思い
「…洋風かな?」
と無難に答えました。ヨダナさんは頷きました。
「うむ、洋風か。案内しろ」
レディースのパンツスーツを来た使用人がアシュくんに頭を下げます。
「アシュヴァッターマンさま担当のアターラと申します。お手元のスマートフォンの短縮に入っておりますので、御用の際はお申し付けください」
「18?」
アターラとはヒンディー語の18という意味だとアシュくんが指摘するとヨダナさんが口を挟んだ。
「うちのスタッフは有能過ぎてな。恋に落ちる者が続出するのだ」
「ストーカー対策か」
にこにこ笑っているアターラさんは確かに美人ではあるのですが、アシュくんの好みではないのです。
アシュくんの好みは横で何か悪巧みをしてにやにや笑っているヨダナさんなので。
アターラさんはアシュくんを見ます。そしてアシュくんが肩に下げている荷物には触れずに口を開きました。
「では、ご案内いたします」
「わし様もついていくぞ」
わくわくとした顔を隠しもしないヨダナさんと、荷物を女子に持たせなくて済んだと胸を撫で下ろすアシュくんを連れて、アターラさんはエレベーターに乗り、長い廊下を進みます。
本館から別館に進んだような感じがしました。
アターラさんが足を止めます。
「こちらになります」
開かれたドアの真正面。大きなリビングの奥には一面に窓が広がっており、そこから花々が広がるイングリッシュガーデンが一望出来ました。
「旦那ぁ!!!」
「なんだ?」
絶叫したアシュくんにヨダナさんは悪戯が成功したかのように笑っています。
「まさか洋風ってのはっ!?」
「この風景のことだな。ちなみに和風なら日本庭園だ。そちらにするか?」
アシュくんは無言でぶんぶんと頭を振りました。
もう勘弁してほしい。
落ち着いて見回せばこの部屋はいくつかの部屋に分かれているようです。
なんとか落ち着いたアシュくんを、アターラさんが案内してくれましたが、リビング、ウォークインクローゼット、寝室、パウダールーム、バス、トイレ、ベランダとホテル並みです。アメニティもたくさん。
招かれた時に「荷物は最小限でいい」と言われた意味をアシュくんは理解しました。
そんなアシュくんをにやにや眺めていたヨダナさんは、満足したように言います。
「夕食にはまだ時間がある。食べられないものはあるか?」
「特にねぇよ」
「うむ、では楽しみにしておれ」
楽しそうなヨダナさんとアターラさんが退出すると、アシュくんはベッドに倒れ込みました。心地よい反発に思わず唸ってしまいます。
ごろりと仰向けに転がると、柔らかな模様が描かれた高い天井が目に映りました。
「俺とあんたじゃ、こんなに住む世界が違うのかよ」
アシュくんの呟きは誰にも届きませんが。これはアシュヨダなので、ちゃんとくっつきます。