11月11日「ゆなぁ〜」
語尾がふにゃふにゃしてる時の仁は、大抵、ろくなことを考えてない。
「何だい、今から風呂入って……」
「ポッキー、食べないか?」
「いやだから、今から風呂……」
人の話も聞かず、ポッキーを一本咥えると、こちらに突き出してきた。
「ん?んーっ!」
「ポッキーゲーム?」
「ん、ん!」
本当に、ろくなことしか考えてないんだから。むしろ、そんな間抜けな顔されると、ゲンナリするんだけど。
「ちょっと待って」
口に含んでいるところがふやけたせいか、重量に引かれてるそれに手をかけた。その後を期待してるのか、仁の顔がちょっとにやけている。目をつぶったままの、タコみたいなキス顔。
……なんか、イラッとする。
指に軽く力を入れた。程なく、軽く小さな破壊音がした。
「ゆ、ゆにゃっ!」
あっさり割れた。手には、折れたポッキー。先にチョコがついてる方だったのは、彼なりの優しさなんだろうけどさ。
「プリッツの方がいい」
それだけ言うと、手に残ったものを食べながら風呂へと向かった。
しばらくして。下の階に響くのを心配する位の足音の後、鍵が閉まった。多分、プリッツを買いに行くんだろう。
どんだけポッキーゲームしたいんだよ、アイツ。
あんなことしなくたって、キ、キス……くらいするっての。
流石に外に出たら、頭も冷えるだろう。もうちょい、いつもみたいにスマートに誘導してきたら、誘いにのるか。
湯船の中で、さっきのアホ面を思い出しながら、ゆっくりと浮力に身を委ねた。
三十分後。
「ゆーなー、プリッツ食べないかぁ?」
……あたしの中で、仁の学歴詐称疑惑が浮上した瞬間だった。
【終】