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    tomahouren

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    tomahouren

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    ファウネロ利き小説企画様に寄稿させて頂きました。キスしかしてないから全年齢です。

    『初デート』 魔法舎のキッチンの入口から、ファウストがひょこりと顔を覗かせたので、人の気配に気付いたネロはすぐに振り返って声をかけた。
    「ああ、ファウスト。なに? ソーセージの切れ端?」
     ファウストは隠しているつもりだが、彼が魔法舎に集まってくる猫たちにエサを与えているのはもう誰もが知っていることだった。
    「今日は、きみに用事」
     言いながら、ファウストはネロのすぐ側までとことこと近寄ってきた。
    「なに?」
    「付き合って欲しい」
     ネロは他意もなく、ただファウストがどこかに行きたいのだと思って軽く頷く。
    「はは、またおこちゃま達のお守りかよ。いいけどさ。今度はどこ?」
     すると、ファウストは眉を寄せて、少し身長の勝るネロを見上げた。
    「そういうことじゃないよ」
    「ん? じゃあなに?」
    「……ネロ、きみとデートがしたい」
     唐突にそんなことを言われて、今夜の夕食用に火炎ジャガイモの皮を剥いていたネロは、中途半端に剥いたそれを手からごとんとシンクに落としてしまった。
    「……は?」
    「きみと、お付き合いしたいってこと」
     おつきあい……おつきあい!?
     理解した瞬間、信じられない思いで、ネロは赤くなった顔を隠すためにそっぽを向いて、濡れた手の甲で口元を押さえた。
    「デート……って、あの、デートかよ」
     デートと言っても、たとえば賢者とカナリアが女性同士、街まで買い物に行くのを「デートです!」だとか言うのとは訳が違う。
    「明日は訓練も、今のところ任務もない休日だろう。11時に、魔法舎の玄関で待ち合わせ。いい? それとも他に用事がある?」
    「……ないです」
    「じゃあ、待ってるから」
     言うだけ言って、ファウストはキッチンを出て行ってしまう。
     取り残されたネロは、包丁を握ったままへたり込んだ。
     デート……デートだって!?


     結局、その日は悩みすぎてろくに眠れないまま当日の11時を迎えたネロは、ラフな私服で魔法舎の玄関ロビーに向かって階段を降りていた。
    「はぁ……」
     思わずため息が出てしまう。たとえば、東で料理屋をやっていた時に幾度か女性から声をかけられた事があった。その度にそれとなく距離を取って断ったりしていた。
     なのに、なぜ自分は今、馬鹿正直に玄関に向かっているのだろう。
     そんな答えの出ない考えが頭をぐるぐるしているうち、玄関の扉の前に着いてしまった。
    「ファウストは……まだか」
     人気のない玄関ロビーで、壁に寄りかかる。
     待ち人を思って、ネロはカーディガンのポケットに手を入れる。ファウストとは、晩酌を共にするようになってしばらく経つ。最初は「互いに黙っていればひとりで飲むのと変わらない」なんて角の立たない事を言っておきながら、もう二人で飲むと弾む会話も、その空気も楽しくて、「また明日」なんて言ってしまうのだ。
     深入りしすぎたかな……。
     今更になってそんな事を思うネロの耳に、階段を降りる足音が聞こえた。
     階段の上方の壁に取り付けられたステンドグラスの光を背に受けて、ファウストが降りてきたところだった。
     その、普段とはあまりに違う姿にネロは目を見開いた。
     白を基調とした、形のシンプルな、けれど胸元の装飾にドレッシーさもあるスーツを身にまとい、癖のある髪を後ろで一つにまとめている。普段「呪い屋だ」と自称しているのを体現するような瞳を隠すサングラスも、黒い帽子もなくて、彼の美しさを隠すものは何もない。
     ぼんやりと見惚れたネロに、ファウストが首をかしげる。
    「ネロ? 待たせたね。……どうかした?」
    「……あんたって、ほんとに美形なんだな」
     今更なネロの言葉に、ファウストが気まずそうに視線を逸らす。
    「似合ってないか」
    「え!? いやいや、似合ってるっていうか……似合いすぎ。どうしたの? それ」
    「クロエに」
    「ああ、仕立て屋くんか」
     納得の名前に、ネロは頷いた。
    「きみとデートだと言ったら、張り切って、寝ないで作ってくれた」
    「はぁ!?」
    「きみの分もあるよ。《サティルクナート・ムルクリード》」
     ぽん! と祝砲のような音を立てて、ネロの着替えが一瞬で終わる。
    「え!?」
     クロエの仕立てだとわかる着心地の良さがあって、胸元を見れば髪の色に合わせた薄い水色の生地。ファウストと対になるようにデザインされていた。
    「よく似合ってる」
     ファウストが手を伸ばして、ネロの髪を撫でる。お陰で、ファウストと同じように後ろでひとつに纏められた髪にネロは気付いた。
     赤くなった顔を隠す間もなく、ファウストに促されるまま玄関を出れば、魔法舎の前には馬車が用意されていた。
    「これ……!?」
    「たまには、陸路も悪く無いだろうと思って。……今日は僕がエスコートするよ」
     一体どういうことなんだ、と思いながら手を引かれて乗り込めば、窓から下がる白いレースのカーテンもどうやら一級品のようだ。ファウストとネロがふわふわの座席に腰掛けてドアを閉めると、御者の鞭打ちで馬車が動き出した。
     そりゃ、誰ともまったくデートをしたことがないとは言わないけれど。こんな扱い、したこともされたこともない。
     緊張から口が聞けなくなっているネロの手を、ファウストがそっと包む。
    「そんなにかしこまらなくていい」
    「……いや、だってさ」
    「きみへの想いに、恥ずかしくない一日にしたかった」
     そんな口説き文句を突然言われて、ネロはさらに絶句してしまう。
    「ネロ、きみに、感謝しているんだ」
     するり、とファウストの頭が近付いて、ネロの肩にファウストの額が触れる。
     迷って、ネロはファウストの手を重ねられた手で、緩く握り返した。
     そのままふたりとも、無言でしばらくいると、馬車が止まった。中央の国、栄光の街でも有名なレストランの前だ。ネロは入ったことが無かったが、噂だけは東の国でも聞いていた。
    「シルバーを懐に入れるような事はするなよ」
     そう、見上げてきたファウストが冗談のように言って、しかし釘を刺しているのだろうな、と思ったネロは、なるべく重くならないように「へーへー」と返事をした。
     端的に言えば、レストランの食事はネロにとっても新鮮だった。
    「シェフの舌に敵ったかな?」
     最後、デザートのケーキにフォークを入れながらそうファウストに問われて、ネロは苦笑した。
    「まぁ……職業病みたいなもんかな。どうしても、ただ純粋に『うまい』ってだけじゃいられないからさ。でも、うまかったよ」
     ネロがそう言うと、ファウストは目を細めた。紳士の身なりで微笑むファウストはレストランの格にふさわしく思えて、ネロは自分だけが場違いのように思えた。
     レストランの後は、馬車で少し移動して、有名らしいトランペット奏者のコンサートだった。どうやってチケットを取ったんだ、と思うほど上等な席で、ネロは不覚にも居眠りをしてしまった。
     アンコールも終わった後に、ファウストに肩をちょんちょんと突かれて起きた。
    「わ、悪い……」
     さすがに戻った馬車の中で恐縮するネロに、ファウストは笑った。
    「素晴らしい音楽を聴いて眠くなるのは自然なことだよ。それに、きみ、昨夜眠れなかった?」
    「え……」
     なんで、と聞く前に、目の下の涙袋の辺りをやわく撫でられる。
    「隈が出来てるよ」
     そのまま頬を撫でられて、ネロはばれてしまっていたことに申し訳なくなる。
     言い訳をしようとすると、馬車が止まった。
    「降りよう」
     促されて場所を降りれば、栄光の街の川縁だった。小さな舟が見える。
     なるほど、川遊びをしようという趣向らしい。夕暮れを迎えて、空は薄紫色、街灯の灯る時間は、きっと恋人達をロマンティックな気分にさせてくれるものだ。
     ネロはやはり、ファウストに先導されて小舟に乗り込んだ。慣れない揺れを不安定に感じたのは最初だけで、川に漕ぎ出せば不安は無くなった。
     船頭が、オールでゆっくりと舟を動かしながら愛の唄を歌う。
     河の塀から見知らぬ人間に手を振られて、ファウストがゆっくりとそちらに手を振りかえす。
     そんな様子を見て、ネロは「余裕だなぁ」と悔しくなる。普段は「先生」と呼んで半ば揶揄うようにしているが、実際はネロ方が年上なのだ。しっかりしているか、と問われれば、ネロは育ちも素行も褒められたものではないのだけれど。
     あまり熱心にファウストを見ていたので、ファウストが苦笑してネロを振り返った。
    「そんなに見るほど、おかしかった?」
     バレていたことに、ネロは恥ずかしくなって俯くと、ファウストの指先に顎を取られた。
    「ま、って……」
     キス、される。そう思った。思わず、近づいていたファウストの胸元を緩く押し返す。こんな弱い力では、無理やりされたって言い訳出来ない。それなのに。
    「きみと、ふたりきりになれる所にいきたい」
     ファウストの言葉にじわ、と熱が上がって、ネロは瞳が潤んでしまう。
     仲間、なのに。友達、なのに。
     察したように、小舟は元来た河岸へと進路を向ける。思わず、ネロは逃げ出す場所もないのに顔を背けた。
     いや、逃げることなんていつでも出来た。魔法使いなのだから、箒で飛んで逃げることだって出来たのに。
     再び馬車に乗り込んで、たどり着いたのは中央の国、一番の高級ホテル。
     あまりの事に、ネロは目を見開いてしまう。
    「ま、って」
     ネロが迷った瞳で「するの?」と疑問を投げかけると、ファウストは困ったように口元に手を当てた。
    「……いきなり、しないよ。……ただ、キスだけ、許して」
     ぞく、と背筋を快感が駆け登る。
    「わか、……った」
     部屋は、最上階のスイートルームだった。ふたりっきりなんだから、こんなに広くなくていいのに、と扉をくぐって思ったネロは、ファウストに手を取られてリビングを進み、広すぎるベッドルームの中央に鎮座するベッドに座らされた。
    「……っ」
     かあ、と体温が上がる。
     肩を押されて、ファウストがネロのことをベッドの上に押し倒した。
    「ファウ、スト……ッ」
     頭がぐらぐらして、上手く呼吸ができない。見上げた先で、ファウストが赤い顔をしていた。
    「キスだけ、だから……嫌がらないでくれ」
    「あっ……」
     すり、と鼻先を擦り合わせられたと思ったら、互いの唇が触れた。ちゅ、と優しく塞がれて、一度離れて、またキスされる。
     ファウストとキスしてしまった。しかも、全然嫌じゃない。その上、もっとしたいと思っている。ネロは自分に愕然とした。
     馬鹿馬鹿馬鹿。ファウストのことを「友達」とか賢者さんには言っておいて。
     胸元のタイをファウストに外されて、ボタンもひとつずつ外されて、胸が空気に触れる。首筋からなぞるようにファウストの唇が降りて、鎖骨にちゅう、と痕を残される。
     嬉しい。
     なのに、言葉は可愛くないばかりのものが出る。
    「し、しないって、言った、のに」
     胸元に吸い付くファウストの頭を両腕で抱きこんで、もっととねだっているくせに。
     すると、ファウストは律儀に顔を上げた。酒で酔った時より、よほど真っ赤だ。
    「キスだけ……だから」
     ネロも、ファウストの香りに酩酊していた。「キス、だけ……なら」とよくわからない譲歩で頷く。ジャケットも、シャツも、スラックスも、靴も、下着すら脱がされて、ネロは全身にファウストのキスを浴びた。
     足の指の間にまで舌を這わされて、もうこれ、恥ずかしい、と泣いた。
     反応している身体を見られたくなくてうつ伏せになれば、うなじも、背中も、尻にまでキスされる。「ネロのおしり、かわいい」と、ファウストは飽きずにキスを繰り返して、やがて満足したのかネロに沿うように横になり、唇を吸った。
     こんな状態にさせられて、キスしかされないなんて、とネロは半泣きだ。
    「いきなり、は……しないんだろ」
     恨言のように言えば、本職の呪い屋は「最初のデートはキスまでだよ」と言うのだ。
    「……じゃあ、何回デートしたら抱いてくれんの」
     逃げるようにふかふかの枕に顔をうつ伏せてネロがそう聞けば、ファウストはネロの耳を食みながら言った。
    「三回目のデートで……きみを抱くよ」
     不承不承ながら、ネロは頷くしかなかった。
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    tomahouren

    MAIKINGシトロニア幼少時に、ザフラに潜入してる千景さん(女装・偽名は鈴蘭)の話。続きます。
    『オイディプスの鈴蘭』1(シトロン、千景)鈴蘭の花、触ってはいけないよ
    毒があるから

    青い宝石、見惚れてはいけないよ
    不幸を呼ぶから


    『オイディプスの鈴蘭』


     晴れ渡るザフラの青い空に現王の誕生日を祝う白い花びらが舞っていた。花の多いザフラが、一年で最も花の咲き誇る芳しい季節。王の産まれた日である今日は国の祝日として制定されており、街の大通りを王が馬車に乗って盛大なパレードを執り行う事が毎年の慣例になっている。
     王の乗る馬車、その隣の座席に座らされた幼いシトロニアは、ザフラ首都一番の大通りを埋め尽くす人々、そして建物の窓からも花に負けないほど華やかな笑顔で籠から花びらを撒く人々に向けて、王族として相応しい柔らかな笑顔を浮かべ手を振った。
     シトロニアの実父であるザフラ王は芸術をとても愛していると諸外国にも広く知れ渡り、国をあげて芸術文化を奨励していた。先頭を歩く国家おかかえ楽隊のマーチに合わせて、王に気に入られようと道端から歌声自慢の男が馬車を見上げ祝いの歌声を響かせる。王に捧げられた歌に、馬車から王は満足そうに微笑んで見せる。
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