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    tomahouren

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    tomahouren

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    至千を、至さんの同期で席が斜め前のモブ♀A子さん視点から。

    あるA子の告解(至千) 初めまして。A子といいます。某商社に勤めてます。
     性格は真面目と言われる方で、自分ではあんまりそれを良いと思ってはないんですけれど、新卒でこの会社に入ってから自分なりに仕事にきちんと取り組んできたつもりです。残業時間n時間オーバーとか、いつものことですけど。
     最近、悩みがありまして。仕事に集中出来ないんです。
     それと言うのも、私の斜め前の席。同期の茅ヶ崎至くん。とにかく顔がいい。すごい。芸能人みたい。遠くで見てもイケメンなんですけど、半径1メートル以内に入った時の破壊力が凄い。彼がフロア通るだけで女性社員の視線ぜんっぶ釘付け。
     いえ、別に私が茅ヶ崎くんに見惚れてるから、とかじゃないんです、仕事に集中出来ないのって。本当に。逆に視界に入れないようにしてるまであるので。見惚れてたら仕事にならないので。
     さっき芸能人みたいって言いましたけど、茅ヶ崎くん、ある日突然演劇始めたんです。舞台人になっちゃった。スカウトだったらしい話は噂に聞いたんですけど、そりゃそうですよねって納得しかないです。
     で。ある日、先輩の卯木千景さんが、茅ヶ崎くんの席に来たんです。チケット一枚買わせてくれない? って。
     その時、私もあんまり卯木先輩を近くで見た事なかったので、「わー、卯木先輩だー……」なんてちょっと盗み見ちゃいました。卯木先輩、海外出張が多くて社内にあまり居ない人なんですけど、とにかく仕事も出来て、人望厚くて、さらに茅ヶ崎くんとは系統の違うイケメンという。身長もかなり高くて、すらっとしてて、眼鏡の似合う涼しげな顔立ち。整ってる! という感じ。
     私がふと茅ヶ崎くんを見ると、茅ヶ崎くんが、なんだからしくなく緊張してるみたいでした。戸惑っているというか。割と、どれだけ社内の偉い人と話しててもゆるっと笑って余裕っぽく見えてたんですけど。その時は「意外だなー」くらいでした。
     その後も、茅ヶ崎くんの所の劇団が公演する度に、卯木先輩はチケットを買いに来てる感じで。卯木先輩って演劇好きなんだー、と勝手に思ってました。
     そうしたら、いつの間にか卯木先輩も茅ヶ崎くんの所の劇団に入ったそうで。その時も「へー、卯木先輩、演劇好きっぽかったしなー」と思ってました。
     その後しばらくして……なんかおかしくなったんですよ。そりゃあ、茅ヶ崎くんと卯木先輩、同じ劇団員になったなら、それなりに距離も縮まって当然と言えば当然なんですけど。なんていうか、茅ヶ崎くんの様子が。というか、卯木先輩も。
     卯木先輩って、残業もほとんどしないし、飲み会も来ないし、プライベート大事にしてるんだね、とか言われてたんですけど。あんまり会社で特別に親しい人を作ってるイメージも無かったんです。広く浅く、みたいな。
     正直それって、茅ヶ崎くんもちょっと似た雰囲気あったなって思ってて。他の同期の男の子達とかってもっとべたべたしてる感じあるんですけど。みんなで仕事して、仲良く飲み会行った後も、なかなか帰らないような雰囲気。でも、茅ヶ崎くんはほどほどの所で割とさりげなく帰ったりしてて。茅ヶ崎くん、仕事もちゃんとしてるんですけど、でも彼の人生で仕事より大切なことがあるんだな、ってそれとなく私は感じてました。
     で。なんか、そのあんまり会社でベタベタしない感じ代表だった二人が、連れ立ってランチ行くようになったんですよ。いえ、私の穿ち過ぎかもしれないんですけど……午前中とか「あれ? 今日、茅ヶ崎くんちょっとテンション高め? ご機嫌?」みたいな日って、決まってお昼に卯木先輩がフロアに顔出して。それまで嬉しいの10%くらいに抑えてた茅ヶ崎くんが、ぱっと笑って嬉しさ100%抑えきれないオーラで「先輩、今行きます」……とか。あれ? 茅ヶ崎くん、卯木先輩にはそういう感じ? ってなりました。誰にでも雰囲気柔らかく接しているけれど、他の先輩とかにはそういう態度、見せた事なかったので。まあ、仕事出来るし格好いいしの卯木先輩だったら、茅ヶ崎くんも話しやすいとかあるのかなとは思いましたけど。ほら、劇団でも付き合いがあるわけですし。
     茅ヶ崎くん達の劇団で、茅ヶ崎くんが主演で、卯木先輩が準主演の舞台やるらしい……とか聞いた後くらいから、そのおかしさに拍車がかかりまして。
     その日、茅ヶ崎くんが重い急ぎの仕事を課長に言いつけられて、お昼休みの時間までかかっていて。チャイムが鳴った後も、忙しそうにしてたんですね。なんとか一区切りつけなきゃって感じでした。そうしたら、フロアに入って来た卯木先輩が、お昼になった事に気がついてない茅ヶ崎くんに歩み寄って、すぐ斜め後ろに立ったんです。
    「忙しそうだね、茅ヶ崎」
     あれ? って思いました。なんか、声が甘い? ような?
    「わっ!? ちょ、せんぱ……びっくりさせないで下さいよ。気配消してたでしょ」
     あれ? って、また思いました。なんか……茅ヶ崎くんの声も甘い……ような。
    「はは、ごめんごめん。頑張ってるから、邪魔しちゃ悪いなと思って」
     私がそろりと二人の方を見ると、卯木先輩の目が優しく茅ヶ崎くんを見ていたんです。座ったまま見上げる茅ヶ崎くんは、ちょっと拗ねたみたいな……甘えた顔をしていて。なにその顔、って驚きました。
    「邪魔じゃないですよ。あ、外行きますよね? いつものとこですか?」
     ……いつもなんだ。私が自分の昼食のパンを食べながらそっと心の中で思うと、卯木先輩が「いや、いいよ」と言ったんですけど。その瞬間、茅ヶ崎くんがショック受けたみたいな、もう絶対楽しみにしてたのになんでそんなこと言うの!? みたいな顔をしてて。私は衝撃すぎて、かぶりついていたパンを誤飲しそうになってました。
    「茅ヶ崎忙しそうだから、テイクアウトしてくるよ。外出るより時短になるだろ? いつものやつのお弁当でいい?」
     ……いつもなんだ?? と窒息寸前の中で私が思うと、茅ヶ崎くんが「え、でも」と追い縋ろうとしてて。え、なんか、茅ヶ崎くん、捨てられた子犬みたいな顔してる……と驚きました。ほんとに。
    「会議室空いてるとこ予約しといて。じゃ、買ってくるから」
     卯木先輩はそう言うと、長い足でさっとフロアから出て行ってしまいまして。食道を圧迫する小麦に痛みを感じながら、私がちらっと茅ヶ崎くんの方に視線を戻すと……あーー、茅ヶ崎くんめちゃくちゃ追ってるもう見えなくなっても先輩の背中、目で追ってるーーー! そんなに卯木先輩とランチ行くの楽しみにしてたのーーー!? だからあんなに頑張って作業進めてたのーーー!? 状態です。
     私は信じられない思いの中、パンをなんとか胃まで飲み込みました。茅ヶ崎くんがやっていたのは私が手伝える業務では無かったんですけど、私が出来る事があれば作業を引き継いで卯木先輩とランチに行かせてあげたいくらいでした。
     むぅー、と膨れっ面した茅ヶ崎くんはモニタ睨んで、ちょっと雑に強めのタイピングし始めて。私は心の中で、きっと卯木先輩すぐ戻ってきてくれるから大丈夫だよ……と思ってました。卯木先輩が戻ってきた時の茅ヶ崎くんの顔は凄かったな……。
     その後も、卯木先輩が茅ヶ崎くんの机横に来ると、いやもう甘い所じゃなく、二人の会話に花が咲いてるんですよ。別に長話してるわけでもないんですけど。二人の言葉のひとつひとつに、ぽんぽんってお花が咲いてる。春〜ッ! って感じの。
     私自身の恋愛とかは置いとくとして、やっぱりそういうの気になってしまうというか。いやでも茅ヶ崎くんと卯木先輩が? って思わなくも無かったんですけど。なんかもう確信でした。付き合ってるんだろなって。付き合ってなくても両想いだろなって。
     ある日、給湯室で私がポットからカップにお湯を入れていたら、女性の先輩が二人雑談しながら入ってきて。あ、お疲れ様です、なんて挨拶したら。二人が、目配せした後、すすす……って私に接近してきて。
    「ねねね。茅ヶ崎くん、どう思う?」って突然聞いてきたんです。
     どう、とは? って私、固まってしまって。
    「えっと……?」と言い淀む私の頭には、親しげに話す茅ヶ崎くんと卯木先輩のすがたが浮かんでいました。私は『いやもうこれ二人付き合ってますよね?』とは思ってますけど。
     なんか、あんまりそれを話題にするのもな、と。なんというか、茅ヶ崎くんの見た事のないような様子から、邪魔したり茶々を入れたくないというか……例えば、種から芽吹いた初々しい双葉が育って、花開くまでただそっと見守っててあげたいな、というか。それを興味本位で雑に突きたくないような感じだったので。
     と思っていた私の前で、反応の悪い私に痺れを切らして先輩二人が言っちゃったんです。
    「茅ヶ崎くんと卯木くん、仲良いよね」
     わあ。ってなりました。バレてるよ茅ヶ崎くん。いや、私が気付くくらいですから、そりゃ皆さん気付きますよね。二人は少し頬を染めて、目をキラキラさせて続けます。
    「なんか、ね。ちょっと特別感あるよね」
    「卯木くんに駆け寄る時の、茅ヶ崎くんが可愛いよね〜! 犬みたい!」
    「卯木くんもじゃない? 後輩あんなに可愛がるの初めて見た。最初は意外〜って思ったな」
     わかる……と私は奥歯を噛み締めて、うやむやな笑顔のまま無言でマグカップを握り締めました。
    「どっちも、割と人間関係サラッとしてるかと思ってたのにね」
    「ね。やっぱり劇団で、寮が同室だと」
     ……同室!? 同室って、なに!? 茅ヶ崎くん、卯木先輩と同室だったの!? ていうか皆さん詳しいですね!?
    「なにか聞いてたりしない? 茅ヶ崎くん、同期にだったら、なんか言ってたりする?」
     混乱の最中、突然話題を向けられて、ぶんぶんと私は首を横に振りました。実際、本人から何も聞いてないので。
     「な、何も聞いてないです」とありのまま言うと、二人は「そっかー」とちょっと残念そうに顔を見合わせました。
    「言わないんだったら、まあ、現状維持だねえ」
    「でも、遠くから見守ってるこのむず痒さもいいんだよね。卯木くんがフロア来るたび、『今日ふたり進展あるかな!?』ってどきどきしちゃう!」
    「見過ぎだからー!」
     きゃっきゃと彼女達はそう笑い合った後、じゃ、お疲れ様〜って給湯室を出て行きました。
     はぁ、なんかちょっと緊張したな……と思っていたら、給湯室の入り口に突然、茅ヶ崎くんが顔を覗かせたんです。
     心臓が口から飛び出るかと思いました。
     茅ヶ崎くんは何も気にしてないかのようにふわっと笑って「お疲れ様」と言い、給湯室の入り口にある自販機に歩み寄ると小銭を入れました。
     さっきの会話を、聞いてたのか、聞いてなかったのか、私は怖くて聞けませんでした。すると、茅ヶ崎くんが言ったんです。
    「さっき、変に言わないでくれてありがと」
     感謝なんてしなくていいよー! と私は叫びたかったです。何も言えず私が首を横にぶんぶんと振ると、茅ヶ崎くんが自販機の方を見たまま、ぽつりと言いました。
    「俺、そんな分かりやすいかな」
     わあ。って思いました。そんな聞き方、なんかもう認めちゃってるけどいいのかな。というか、私にそんな話しちゃっていいのかな。
     私はマグカップを握り締めて、言いました。
    「その、気付く人は気付いちゃうかもしれないけど……でも別にうちは社内恋愛禁止じゃないし、度を越してるわけじゃないし、いいと思う」
     うっかり『社内恋愛』って単語を使ってしまって、あ、しまったって思ったけど、茅ヶ崎くんは少し微笑んで「そっか」と言うと、自販機で買った缶のココアを何故か私に渡してきて。つい受け取ってしまったけれど。お礼なら気にしなくていいよ口止め料とかもいらないよ、と言おうとした時、お昼休みを告げるチャイムが鳴りました。
    「あ、俺行くね。じゃ」
     言うと、茅ヶ崎くんがちょっと嬉しそうに、さっと踵を返して給湯室を出て行きました。
     直前に見えた表情から、あ、卯木先輩とお昼なんだね、と私は悟りまして。なんかもう、叫び出したくて。我慢したんですけど。
     学生時代、就活嫌だったけど、頑張ってこの商社入って良かった! って初めて思いました。
     ……なんだろう、こういう気持ち初めてで。茅ヶ崎くんと卯木先輩が話してるの見る度に、たまらない気持ちになるんですけど。胃のあたりが、そわっとするような、フワッとするような気持ちがして。
     こういうのって、どうしたらいいですかね?
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    tomahouren

    MAIKINGシトロニア幼少時に、ザフラに潜入してる千景さん(女装・偽名は鈴蘭)の話。続きます。
    『オイディプスの鈴蘭』1(シトロン、千景)鈴蘭の花、触ってはいけないよ
    毒があるから

    青い宝石、見惚れてはいけないよ
    不幸を呼ぶから


    『オイディプスの鈴蘭』


     晴れ渡るザフラの青い空に現王の誕生日を祝う白い花びらが舞っていた。花の多いザフラが、一年で最も花の咲き誇る芳しい季節。王の産まれた日である今日は国の祝日として制定されており、街の大通りを王が馬車に乗って盛大なパレードを執り行う事が毎年の慣例になっている。
     王の乗る馬車、その隣の座席に座らされた幼いシトロニアは、ザフラ首都一番の大通りを埋め尽くす人々、そして建物の窓からも花に負けないほど華やかな笑顔で籠から花びらを撒く人々に向けて、王族として相応しい柔らかな笑顔を浮かべ手を振った。
     シトロニアの実父であるザフラ王は芸術をとても愛していると諸外国にも広く知れ渡り、国をあげて芸術文化を奨励していた。先頭を歩く国家おかかえ楽隊のマーチに合わせて、王に気に入られようと道端から歌声自慢の男が馬車を見上げ祝いの歌声を響かせる。王に捧げられた歌に、馬車から王は満足そうに微笑んで見せる。
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