隠しきれなかった気持ち.
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音楽の授業で閃いた世紀の大作……のプロットを一刻も早く類に伝えようと、教室へ戻る足をいつもの二倍ぐらいの速さで動かす。
「お!いたいた。おーいる……」
「神代先輩、来週俺たち4人で参加するイベントについて、少し意見を伺っても大丈夫でしょうか」
「もちろん。どんなことだい?」
「こちらが当日のセットリストですが……」
遠くから呼ぼうとしたら、類の近くにいる冬弥が先に声をかけた。先月のエキストラ代役の一件を経た二人は、だいぶ親睦を深められたようで、先輩でも友人でもあるオレもとても喜ばしく思う。冬弥たちはよくライブに参加しているようだから、その演出で類が役立つことも多いだろう。
「二人して演出の話か?」
「司くん!そうだよ。ライティングの演出で少し困っているみたいでね」
「この間一回神代先輩のアドバイスを取り入れてみたら、今までよりも観客を沸かせることに成功したので、今回も見てもらおうと思ったんです」
「ふむふむ!」
「司くんは僕に何か用事かい?」
「オレは急がないからいいんだ!気にせず続けてくれ」
「そうかい?すぐ終わらせるから少し待ってて」
と、類は言ったが、何やらライブハウスの設備の制限がなんちゃらで、二人の話は予想以上に長引いてしまった。オレが一旦教室に戻って教科書を置いてきても、まだ終わらないほどに。もうすぐ次の授業が始まるから、二人に身振りでそれを伝えて、オレは先に席へついた。
予鈴が鳴って間もなく、廊下を早足で渡っていく冬弥が見えた。直後に類が窓越しにオレを覗いてきたが、「教室へ戻れ」と手を振って返した。新しいプロットはまた昼にでも披露すればいい。
……と思ったら、昼はやや予想外なことに、彰人と風紀委員の…確か白石か。が類のところへ訪ねてきて、またもやオレの入る余地がなかった。朝みたいに話に割り込んでも気にされないとは思うが……何となくそうする気が起きず、オレはランチボックスと、プロットを書き込んだノートを持って、独りで屋上へと向かった。
「教室にはいなかったから、ここかなと思ったら、大当たりのようだね」
「……類。彰人たちの話は終わったか?」
「ん?ああ。青柳くんの件の続きだったよ。委員会で忙しい青柳くんの代わりに来てくれたみたいだ」
「そうか」
「司くん、今朝何か用事があったんじゃないのかい?昼食を摂りながら聞いても?」
「……いいや、大したことじゃなかったから、気にするな」
何で素っ気ない態度を取ってしまったんだオレは。大事な大事な用事があるんだろう。オレたちにとって、一番の。だが、昼までいい感じに仕上げたプロットも、今のオレにはなんだかつまらなく思えてきたから、もう少し練ってから伝えるか。
「……?」
「……」
いつも、二人しかいなくても賑やかな屋上に、珍しく沈黙が流れた。
「司くん」
「ん?なんだ?」
「……今朝から話す機会もなくて、ちょっと寂しくなったんだ。よかったら暫くの間、抱きしめてもいいかい?」
「な、なんだ急に。恥ずかしいやつめ」
「だめかい?」
「お前またそれを……はぁ、どうぞ?」
「フフフ」
ちょうど食べ終わったランチボックスを横に置いては、類の方向へ両腕を開いたら、ゆっくり抱きしめられた。
「…………」
ざわついていた心臓が、少し穏やかになった気がした。手を類の大きな背中へ回しより体を密着させたら、類の体温に包まれて、それがまた心地よかった。
「おや、そこに置いてあるのはいつもプロットを書いているノートかな?」
「……ああ」
「新作は思いついたかい?」
「……まだかきかけだが……」
「かきかけでも構わないから、よかったら読ませてほしいな」
「…………おう」
気持ちいい体温から離れ、オレは渡すのをやめかけていたノートを取り、類に渡した。