きゅうけいじかん、のあと.
.
.

　国に、もとい、陛下に命じられたならば何でもこなして見せるけれど、僕にだって得意な仕事と、少し苦手な仕事がある。整理整頓がそうだ。不可解なほどに必然的に、僕の周りは散らかってしまう。書類の仕事ならば、散らかったものは書類になる。

　幸い、処理し終わった後にそれぞれまとめてから提出することは問題なくできているし、僕のせいで何か書類の間違いが出たことは一度もないので、特に咎められることもない。

　陛下以外の人には。


「ろーぜ！」
「っ陛下！　いつの間に」

　やや小難しい案件と睨めっこしていると、ひょっこり、突如視界に太陽のような輝きが差し込んだ。高さが僕の腰辺りしかない小さな陛下は、その身長でありながら、王としての威厳を少しも欠けていない。むしろ、体型で更に愛嬌が増して、親近感が沸くほどだけれど、僕が言うと何故かいつも怒らせてしまうようで、最近は思っても口に出さないようにしている。

　陛下のご来訪に気付けなかった失礼に失礼を重ねないよう、急いで御前で跪き命令を待つ。視線がほぼ同じ高さになった時、美しい黄金色に乗っている王冠が日の光をキラリと反射した。

「ノックはしたぞ。おまえがしょるいにぼっとうしているから、きづかなかっただろう」
「大変申し訳ございません。あっ、王冠、お直しします。」
「む、ありがとう」

　王族の血を継ぐ者の特徴として、頭上に三角形のもふっとした耳を持つ陛下は、いつもと同じく王冠を斜めに被ってはいるけれど、休憩時間後にご自身で上手く被れていなかったのか、いつもと５ミリほどズレていたので、僭越ながら調整をさせて頂いた。

「電話一つ頂ければすぐに駆けつけましたが」
「じかんによゆうがあったから、いい」
「何か書類をお探しでしょうか？」
「そうだが……そのようすでは、みつかりそうにないな」

　僕の後ろの机一面に散らばった紙やファイルを陛下はつま先立ちで覗くので、いつものように、より見やすい高さに慎重に抱え上げた。

「お探しの書類の内容をご教示頂ければすぐにお渡し致します」
「ちらかしたことは、あやまらないんだな」
「散らかしはしても、最後には必ず元に戻しますので！」
「ひらきなおるな。む……まだはんぶんしか、かくにんできていなかったからな……」

　書類の内容を思い出しているように黄金色の頭が少し傾き、髪の毛と同じ色の尻尾はゆらりと揺れた。

「りんこくとの、ごうどうさいてんのけん、だが」
「隣国との合同祭典に関する連絡書ですね。こちらのものかと存じます」
「はやっ」
「ふふふ。すぐにお渡しすると約束したので」

　お役に立てて思わず得意げな表情になってしまったのか、ぽふっ、と撫でられたのか叩かれたのか分からない力加減で、僕の頭に小さな手が乗ってきた。

「ありがとう。だがもうにどとちらかすな？？」
「畏まりました」
「それぜんかいもきいたぞ」
「え～～っと……これから向かう場所までお供します！」
「じぶんであるける！　おろせ、おまえはしょるいをつづけろ」
「そんな……」
「ざんねんがるな。おわるものもおわらないぞ」

　陛下をこうしてだっこ（と言うと怒られる）している間が自分へのご褒美の時間みたいなものなので、大変名残惜しいけれど、命令を受けたならば従わないといけないので、ゆっくりとその柔らかいお体を床に下ろした。

「ごごのかいぎも、よろしくたのむ」
「はい！　お任せください！　時間になったらまたお迎えに上がります！」
「うむ」

　音を立てずにしながらも、とてとてとオノマトペが具現化するような可愛らしい歩き姿を、角を曲がれて見えなくなるまで見送った。