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    shinyaemew

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    shinyaemew

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    ロゼxねこ王

    ##ねこ王

    王たる者 2



    「ひとりで、かんがえたいことがあるんだ。さがってくれないか」

     そう言って僕に背を向け、窓辺へ歩いていった司くんの、いつもは元気にピンと立っている黄色い耳は力をなくし、ぺしょりと伏せている。

    「……畏まりました」

     ……いつもなら、その可愛らしい耳に元気を取り戻してもらうために、僕の最善を尽くしているけれど。できることなら、その心細そうに体に巻きついている黄金色の尻尾を優しく撫でながら、彼を懐に入れて、僕はここにいると、告げたいけれど。

     ギラリと、彼の王冠が容赦なく反射する灼熱とした光が、これ以上近寄れば身を滅ぼすだろうと警告するように僕の目を眩ませる。  

    「っ…… 失礼します」

     持ち上げた重たい足がコツン、コツンと地につくたび、僕の中から何かが抉り出されていった。小さくなった彼の後ろ姿が瞼の裏に焼き付き、事務室のドアを閉じた頃には、今までずっと僕を満たしていたものはもう穴だらけで、吐き出したくても吐き出せない悲鳴が喉につっかえて、息苦しかった。







    「……これで、よかったんだ。これで」

     繰り返し唱える呪文で、暴れ出しそうな心を縛り付けながら、自分の事務室に戻れば、さっきまで使っていた付箋と、近隣国の王室や貴族の資料がまた目に入った。

    ――『ロゼ様。次回の王室会議ですが、陛下も満二十歳になられたので、婚約者を決める頃合かと存じます。我が国の慣習では、ロゼ様にご提案頂いた候補者の中から、陛下に一人選んで頂く、といった流れとなります』

     死ぬ時は、司くんと同じ墓に入りたい。なんて、冗談では言えるものの、現実はというと、例え光栄にも同じ墓穴に入れてもらえたとしても、僕は「婚約者」ではなく、「側近」でしかない。僕はこの命、生涯を陛下に捧げた者だけれど、この関係は一方的で、僕と同じ誓いを交わす義務は陛下にはない。

     ましてや僕は人間で、男で。世襲制が長年続いたこの国では、彼に継承者を作ってあげられない者は、候補者になる資格もないだろう。それは、ロゼを目指すと心に決めた日から想定できた、いずれくる未来で、むしろ、この世で二番目に近い場所で彼と共に過ごせたら十分、と、わきまえていたはず、だけれど。

     それでも、彼の笑顔を見れば、同じ笑顔を返してしまうのは。彼が落ち込むと、手を伸ばしてしまうのは。いつか彼を傷つけることになると分かってても尚、甘い蜜で誘い込んでしまうのは、

    ――『……このことを、ロゼは、どうおもうんだ』

     僕の業であり、きっと、一生を尽くしても償いきれない罪。

    「……っ、……あんな寂しそうな声を聞くために、ロゼになったんじゃ、ないのに……っ!!」

     拳を作る、力んだ左手の小指がじんわりと、痛み出した。

    「……っ」

     手袋の下、指と手の甲の繋ぎ目に、小さな傷痕がある。

    「……つかさ、くん」







    『今の所凄くよかったよ司くん!』
    『ほんとうか!? よし、このちょうしで、もういっかい……』
    『陛下、稽古中に申し訳ありませんが……』
    『む?』

     司くんに抜擢されてから一年、実績を積んだ僕もついに王宮での職位を手に入れた。アドバイザーという職で、これまで約束した時間だけではなく、余裕があれば、僕達はショーについて話し合ったり、演技の練習をしていた。

     前よりも楽しい時間は増えたけれど、彼は僕の役者である前にこの国の王であり、急な用事で稽古から抜けることが多い。

    『……すまない、るい。オレがいかないといけないようだ』
    『気にしないで。今日練習した所は別に急いでないし、そろそろカラクリ人形の確認に入ろうと思ってたんだ』
    『……おわったら、すぐにもどってくるからな!』
    『ふふ、大丈夫だよ。仕事、頑張って』
    『うむ!!』

     そう言って、とてとてと可愛らしい動きで、肩の小さなマントを靡かせながら大臣について行った彼を見送る。胸の奥からもわっと湧いてくる寂しさをなくそうと頭を数度振ったら、人形の確認に移った。僕は司くんに任された、僕にしかできない仕事をこなすんだ。

     ギギギ、骨組みを牽引され、土を蹴りながら左に右に歩き回る人形が変な動きをしないかチェックする、重要だけど単調な作業だ。それを何度も繰り返したら、ついに集中力が切れてしまった。

     何か、もっと司くんの近くで、彼と一緒に過ごせる方法はないか。

    『…………』

     ぼんやりしていたら、ギギッ、バタンッと、十回ほど往復した人形が急に倒れてしまった。

    『あっ』

     急いで様子を見に行ったら、人形は倒れたが、足の動きは続いていた。

    『重心がズレてしまったのかな……どれ…… ……っ!? いたっ……!』

     油断して素手で骨組みの中をいじってたら、人形を稼働させる動力部の金属板に引っ掛かってしまった。

     反射で人形から抜き出した左手の小指に、赤い液体が糸を引き、手の甲に沿って流れていった。

     それはまるで、愛し合う二人を繋ぐ赤い糸のようで。

    『……結婚……』

     婚約でも結べば、ずっと、ずっと彼の側にいられるだろうか。ふと浮かんだその発想に、不思議と少しも嫌だと思わない。それどころか、ずっと探していた答えに出会えたような高揚感があった。

     けれどすぐに理性が僕の歪んだ空想を叩き壊した。そんなこと、できるはずがない、と。ぽた、と指から滴った赤い液体は途切れていて、糸にはなれないし、彼の指へ繋ぐこともできない。

     もう、ずっとこの中途半端な距離を保つしかないのだろうか。切れた傷跡も痛むはずなのに、それも気にならなくなるほど胸の奥がずんっと重くて、思わず右手で押し当てた。

    『るい!!?! そのてはどうしたんだ!?!』
    『わっ』

     ひょこっと、急に視界に眩しい黄金色が現れて、はっとなった。そういえば猫族は足音があまりしないんだった。

    『え、おかえり……? 今日は早かったね』
    『すぐもどるといったからな! ……ではなくてだな!!! て!!! ちがでてるじゃないか! こっちへこい!!』
    『あっ』

     僕の無事の右手を引っ張って走り出した彼についていったら、医務室へ案内された。

    『いっ……』

     消毒水を塗られて、麻痺していた痛みがまた戻ってきた。

    『そりゃあいたいだろうな!? あんなにちがでていたんだぞ……!!』
    『驚かせてしまったねぇ……』
    『まったくだ。るいのてはまほうのてだぞ。もっとだいじにしてもらわないと、こまる』
    『……魔法の手?』

     医務官に包帯でくるくる巻かれた僕の手を司くんが受け取り、僕より少し小さい手で覆った。

    『ああ。オレのだいじなこくみんを、このくににきてくれたきゃくを、みんなを、えがおにしてくれる、まほうのてだ』
    『……っ』

     ゆらり、視界の隅で黄金色の尻尾が揺れた。司くんに握られた手の温度が、少し上がった気がした。

    『……ねぇ司くん。司くんに、一番近い職位って、どれだい?』
    『む?? そうだな……いまはだいじん……そうだ、オレが18になると、「ロゼ」をきめるんだ』
    『ロゼ?』
    『ああ。オレにかかわる、すべてのじむを、ロゼにまかせることになる』
    『……それって、何年間続けられるんだい?』
    『きげんはない。ロゼかオレがしぬときまで、だ』
    『……!!!』

     それ、だ。

    『いきなりどうしたんだ?』
    『………よ』
    『む?』
    『僕が……司くんの「ロゼ」になるよ』

     赤い糸で繋いでもらえないのなら、その指、その手、その身を、僕の手で繋いでみせよう。







    「……なんて、気が迷ったんだろうね。繋いだからって、陛下は僕のものには、ならないのに」

     もう消えそうになった指の傷跡を撫でる。そろそろ夢から覚めるべきだ、と言われたみたいだ。

    「……もっと早く、僕がちゃんと現実を見ていれば、あんなに傷付けること、なかったのに」

     ……傷付けたところは、どうしたって痕は残るけれど、せめて痛む時間が短くなるよう、かさぶたで隠せたら。僕の愛の歪んだ部分は伝えられないけれど、それでも、僕はこれからも彼の側にいたい。

    ーー『さがってくれないか』

    「……!!」

     「僕」はそう思う、けれど、彼はどうだろう。

     思わせぶりなことをしておいて、いざとなった時にまた距離を取る、自分勝手な僕のようなロゼなど、彼はこれからも、死ぬ時まで、傍に置きたいと思うか?

     それこそ、ここから追放されても、おかしくないのでは?

    「……っ」

     今まで考えもしなかった最悪の状況にようやく気が付けた。優しい彼のことだから、臣下を死刑にするなんてことは絶対にないだろうけれど、僕にとっては死ぬことよりも、生きているのに彼にもう会えないことのほうが、何倍も。

    「っ……それ相応のことを、してきたからね……」

     僕が消えることで、彼の傷に蓋をすることができるのなら、それを実行する義務が僕にある。今日にでもこの、ロゼを象徴するブローチを返上することになったとしても、僕は「畏まりました」以外、許される返答がないんだ。

    「……それならせめて最後に、少しでも彼の負担を減らせるなら……」

     そう思いながら、机に残っている書類に手を付けたが、無情にもそれが終わらないうちに、時刻を知らせる鐘が鳴った。昼食の時間だ。







    「……陛下、昼食の用意ができました」

     声は震えてないだろうか。腹をくくってきたつもりだが、もしかしたら、と思うと、やはり恐怖が前に出てしまう。追放されたらどうしようか。彼のいない世界など死んだほうがましとすら思うけれど、いくら自分を裏切った者でも、そうされてしまっては、彼はきっと罪悪感を覚え、苦しむだろう。

    「……いまたべられないから、ちゅうぼうに、とっておいてもらえるか」
    「……!」

     ……僕より、司くんの声のほうが、断然、震えていた。

     もしかしたら、思う以上に、彼は僕の罠に深く陥ってしまっていて、今もまだ闇の中で、僕をどうするかなんて考える余裕もなくて。

     彼を引っ張り出せるのは、罠に誘い込んだ僕しかいなくて。

    「……っ、……陛下、……いや、司くん、僕っ、」

     いや違う

     言うな

    「……っっ」

     今更何言ったって、最初から存在しなかった糸を繋ぐことはできない。まだ血も止まっていない傷口を、更に広げてしまうだけだ。

    「…………っ、申し訳、ありません。お召し上がる際は、いつでもお呼び下されば、」
    「わかった」
    「……では、僕は……事務室に、おりますので」
    「…………」
    「……」
    「………るい、まだいるか?」
    「! い、いるよ!」

     ここから離れるのが一番、今の彼のためになりそうと思った頃、聞こえるか聞こえないかの細い声で、呼んでもらえた。

    「……るいは、ろぜになって、よかったって、おもうか?」
    「……! 勿論、勿論、だよ……!」

     できることなら、許されるなら、これからも、ずっと、一生、君の側に、いさせてほしい。と、言えたら、いいのに。

    「……しぬときまで、ろぜ、つづけたいか?」
    「!! ……もし、もしできるのなら……!」
    「……わかった。ちゅうしょく、たべるときはよぶから」
    「畏まりました……!」

     不思議だ。何も伝えられなかったはずなのに、司くんは僕の恐れていたことを見抜き、僕のほしい言葉をくれた。思えばショーをする時だってそうだ。小さい体ながら、彼以上に僕のほしいものをくれる者は他にいない。

     婚約を結ぶことはできない僕達だけれど、少なくとも気持ちは、少しは通じ合えたのかもしれない。





     そう、思ったのが数時間前の事。

    「ロゼ様!!」
    「どうしたんだい、そんな慌てて……」
    「へ、陛下が、陛下が、部屋の中で倒れてて……!!」
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    recommended works

    じろ~

    PAST昔出した倫慎本に載せた小説です。支部に載せているものと同じですがせっかくなのでこちらでもポイポイしておきます!
    最果てに咲く 今日もいつも通りの時間に目が覚めた。ベッドから起き上がり、体温を測る。もう何年も身体の心配をされる生活を続けてきたため、朝に体調確認をする癖がついていた。今日は平熱で、頭痛も何もない。健康そのものだ。
     良かった、今日も無事に訓練が出来る。そう思い、慎は手早く準備を済ますと合宿所に向けて出発した。何も変わったことのない、いつも通りの一日が始まった。
     この時は、そう思っていた。
     
     
     誰よりも早く訓練施設につき、準備運動を始める。慎は他のヒーローと比べて訓練期間が大幅に遅れている。少しでも皆に追いつくために、訓練日は早く来てグラウンドを走ったり、筋トレを行うなど、体力づくりを自主的に行なっていた。
     朝のルーティンワークをこなしている間に、他のヒーローが次々と集まってくる。良輔と挨拶を交わした後、「あんまり朝から飛ばすと大変だぞ。無茶するなよ」と釘を刺され苦笑した。良輔は今でも慎の体調をよく心配してくれる。その優しさに感謝しながらも、良輔自身ランニングをしてきたのか既に薄ら汗をかいてるのを見て、敵わないなぁと慎は胸中で軽くため息をついた。彼のようになるには、何倍も努力が必要なのだ。自分も、もっと頑張らなくては。
    10911