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    ksrg08871604

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    ksrg08871604

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    書き初め!ムルの弟子設定夢!
    旧ムルのうっかりで死にかけたりするのでなんでも許せる人だけ

    果てがないのは君の夢
     
     ・ネグレクトっぽい描写があります
     ・回想パートで出てくる旧ムルがかなりろくでなしです
     ・水分をとっている場合餓死に至るまで実際はもっと猶予があるかもしれませんが捏造フィクションなので事実を捻じ曲げました


    [#改ページ]

     のどかな晴れた日の午後。私は西の国での怪物討伐のお礼にケーキを届けたらすぐに魔法舎から退去するはずだった。しかし、気づけば西の魔法使い達と賢者様のお茶会に巻き込まれていた。
     
     ことの発端は入口で顔見知りのシャイロックさんに声をかけたこと。心地よい文句で誘われて、あれよあれよという間に優雅なアフタヌーンティーの席についていたのだ。礼をするはずの5人全員を相手に逆にもてなされるのは申し訳ないが、ここで断る方が失礼だろう。それに、シンプルながら美味しそうなサンドイッチとスコーンの乗ったハイティーセットは大変魅力的で、ちょうど私が持ってきたお土産を頂上に乗せれば完璧。その様子は豊かの街のホテルに勝るとも劣らない美しさだ。何より西の魔女は誘惑とキラキラしたものに弱い。申し訳ない、と言いつつ喜色を隠せずに私は早速、賢者様の注いでくれた紅茶に口をつけた。アールグレイ独特の香りは華やかな気持ちにさせてくれる。おいしいお茶とセイボリーやスイーツたちに心潤されながら賢者様と赤毛のクロエさん、若い二人のおしゃべりに耳を傾けた。
     ようやく20そこそこという齢の若者達が語る世界は、よく晴れた日の湖面のようにキラキラしていて、相槌を打つだけでも楽しい。他の三人も同じ気持ちのようで、あのムルでさえ大人しくスコーンを食べながら茶々も入れずに聞き役に徹していた。しばらくしてから賢者様は私たちから投げかけられた見守るような視線に気づき、恥ずかしそうに、慌てながら今度は私に話題を振った。
    「そういえば、初めたての魔法訓練ではシュガーを作るのが定番と聞きました。マリーさんもそうですか?」
     テーブルの上にあるシュガーポットを見て思いついたのだろうか、可愛らしい質問だ。しかし、記憶を辿ってみると師匠であるムルのやらかしや、ある意味スパルタな訓練のことばかり覚えていて、シュガー作りの練習なんてささやかで穏やかなことは全く思い出せない。シュガーを作ることはもちろんできるから、作り方を教えられなかったわけじゃないのだろうが。
    「ううん、随分と昔のことだから覚えていませんね。師匠もこんなんになっちゃったのできっと忘れてますし。」
     フォークでピッ、と口いっぱいに食べ物を頬張っているムルをさすと咀嚼しながら彼は笑った。
    「うん!わふぁんあい!」
     後半は聞き取りづらかったが、わからないといいたいんだろう。ムルの行儀の悪い所作に真向かいに座っているシャイロックさんの眉間に皺が寄った。指摘するのは怖いのでそのまま見なかったふりをしておこう。
    「ほらね?」
     肩をすくませて苦笑いすると口の中のものをごくんと飲み込んだムルが口を開いた。シャイロックさんの咎めるような視線を受けてほっぺの中を空にしたのだろうが、口の隅にスコーンのかけらがついているのが、気になる。ナプキンを手にして食べかすを払ってやろうかと近づく前に彼の方から寄ってきた。前触れもなく右耳に触れられて肩が跳ねた。
    「うひゃ!?」
    「でもね、このピアスについてるサファイアが覚えてるって!これ、随分昔に俺があげたやつでしょ?」
     たしかに、細いチェーンからぶら下がる雫のような形の宝石は確かに弟子になって日も浅い頃、彼から譲り受けたものだった。
    「ああ、そういえばなんかのお詫びだとかなんとか。あの人にしては殊勝すぎて気味が悪かったのは覚えているけど。」
    「じゃあ、この子に聞いてみよう!俺が記憶を探るから、マリーはみんなにそれを見せるようにして!」
    「ムルが読み取った記憶をそのまましゃべればいいんじゃないの?」
    「きっと見た方が早いよ。過日鏡はここにないけれど、君なら俺に合わせて似たような役割ができるでしょ?」
     挑むような瞳が言外にまさかできないとは言わないだろう?と挑発してくる。ムルの、会話相手の感情を逆撫でする才能は未だ健在だ。しかし、私も500年は生きた魔女。身内以外の前で感情的になるのは避けたい。ちょっとした抵抗のつもりで私を追い立てる緑色の瞳から視線を逸らした。
    「全く、人の煽り方だけは一丁前に覚えてるんだから。憎らしい男。」
     これ見よがしにため息をつくとムルは意に介さぬといった様子でにいっと笑った。
    「じゃあ、毎度律儀に乗せられるマリーは可愛い女だね!」
     我ながら単純すぎて呆れる。しかし、その一言は焚き火の炎を風が煽るように腹の底で感じた苛立ちを大きくした。この男は私にした仕打ちなんて全て、どこかに散らかした欠片に宿して忘れた癖に、それでも彼は私の踏んづけかたを誰よりよく知っている。わかっていて引っかかる自分の浅ましさと目の前の男の無遠慮な言葉選び、双方が腹立たしい。
    「は?ムカつくんだけど」
     思わず乱暴な物言いが飛び出した。しまった、と片手で口を押さえるが後の祭り。唐突に変わった私の口調に賢者様とクロエさんが目を見開いてポカンとしている。シャイロックさんは慣れたようにやれやれとため息をついた。ラスティカさんは──新しい歌詞かな?と呟いた。いや、それってどういう反応?
    「あっはは!猫被りが剥がれてるよ!君が被っていた猫はどんな猫なんだろう?雑種?血統書付き?色は?模様はついてるかな?」
     しかし暴言をぶつけられた当の本人は、私の怒気などなんのその。どんどん顔を近づけ、遊びにはしゃぐ子供のように矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。
     そんなムルの態度への苛立ちを下唇を噛んで堪えた。彼の魂が砕ける以前から、この魔法使いの捲し立てる問いかけにいつまでも翻弄されていては自分が損をするだけと、嫌になるぐらいに分かっていた。分かってたってついさっきみたいに不快になるものは仕様がないのだが。
     仕返しにその広いおでこにぐりぐりと人差し指を突き立てた。痛い!なんてムルは口を尖らせたが、私はわざわざ爪がめり込まないようにしてやっているのだ。その気遣いに感謝して欲しい。
    「話題が逸れてる。さっき言ってたのやんないの?サファイアの記憶を見るんでしょ。」
     フン、と鼻を鳴らして言い放つと、また興味の対象を移したらしいムルは素直にうん!と頷いて片手を私の耳元に、もう片方の手を私の手に置いた。
     
     さっさと魔法を使う音頭を取ろうとして、そこでようやく他の人たちの了承をとっていないことを思い出した。
    「賢者様、シャイロックさん、クロエさん、ラスティカさん。少し私たちに付き合ってもらってもいいでしょうか?」
     もう形だけの伺いになってしまうな、と苦く思いながら問いかけると、快く4人は頷いてくれた。それを見とめて私が安堵の息を漏らすと、測ったようにムルは重ねた手に力を込めて微笑んだ。
    「それじゃあ始めるよ!せーの、《エアニュー・ランブル》!」
    「《エンドローズ・トロイム》」
     そういえば、シュガーを初めて作った瞬間もだけれど、初めて食べ味も覚えていないな。
     
     ふっとよぎった考えを最後に、目の前は過日鏡を映し出す壁のようにいつかの光景に塗りつぶされた。


     
    [#改ページ]

     それは空に月のいない、新月の夜だった。愛しい月に目見えることができない不幸を忘れるほど、ムル・ハートは一つの論について熟考していた。実を言うと、彼が机に向かってから丸五日が経とうとしている。飢えれば手元で作ったシュガーで凌ぎ、渇きは机に乗せられた水差しに直接口をつけて満たすような有り様だ。華やかで物あふれる西の国、その市街地に居ながら、しかも生活に困らぬ財を持っていると言うのに彼の様子は傍目に巣篭もりする獣の様を呈していた。
     一方、気まぐれを出して手元に置かれた少女は死にかけていた。“もうちょっといい景色で死にたかったな。“なんて思いながら書斎机の足元から仰向けになって彼を見上げている。
     彼女は彼がこうなる直前に、これまた気まぐれで口を開けないよう魔法をかけられていた。なんでも"会話の有無が子供に及ぼす影響について"観察してみたいと彼は言っていた。きっかけはきっと、他愛もない噂話を教えたことだろう。"一言も言葉をかけられず育まれた赤ん坊は言葉を知る前に死んでしまうらしい"嘘か真か分からない、童話じみた話をなんの気無しに伝えたのはこんなふうになる一日前だった。
     疑問に思ったら、倫理に抵触する事ですら、本当に実行してしまうのがムル・ハートの恐ろしいところだ。己の知らないことで興味の向くことは招く結果の如何に関わらず全て試行する。この魔法使いの悪い癖だった。
     ぼんやりとした表情をしながら心の中ではまだ力強く少女は男を批難した。こいつが私の実の親で、私がもっと幼く、あるいは人間であったなら間違いなく犯罪者だ。そうであれば法廷で証言して牢屋にぶち込んでやるのに、と。残念ながら仮定は全て当てはまらない。少女とムルは血が繋がっていないし、彼女の年齢は二桁は超えているし、何より彼女は魔法使いだ。おかげで口を封じられてからもなんとか魔法を駆使して鼻から水を突っ込むことでギリギリ今日まで五日生き延びた。しかし、食物を同じように無理やり突っ込むことは躊躇われたため、飢えで意識がしだいに朦朧としているところだった。
     朧げになる意識の中で少女の非難はまだ続く。
     何という育児放棄だ。成人するまで面倒を見るとはっきりと約束させればよかった。それでも自分が石になり、彼が魔法を使えなくなるだけかもしれない。けれど、約束もしていない、このままじゃ報復は祟りという不確かな方法しかない──。
     ただの人間相手ならばともかく、自分よりうんと長生きで思いも寄らないほど頭のいい魔法使いを、間違いなく呪う自信を彼女は持ち合わせていなかった。つい一ヶ月前までは魔法は心で使うものだなんて常識さえ知らず泡の街の片隅で物乞いをしていた子供が、五百年は生きている長生きの魔法使いに敵うはずがないのだ。

     それからまた数刻が過ぎた。登る朝日が部屋を橙に染める頃、ようやくムルは書き物を終え、大きく伸びをした。椅子をひき、立ち上がろうとした彼は、蹴飛ばしかけてようやく子供の存在を思い出した。少女はもはや恨みがましい視線を向けることもできない。あとはもう命の日が消えるのを待つばかりという様子で気を失っていた。
    「そういえば、こんなものを拾ったんだった。」
     そう呟いたムルは屈んで少女な様子を観察した。一目見てわかるほど衰弱しきっている。原因については思い当たる節がないものの、ここでガラクタのようなマナ石になられてはせっかく拾った意味がない。そう考えた彼はその薄い背中と床の間に腕を差し入れて抱き起こした。ぐったりとした少女は青褪めて目を開く気配もない。
     少し思案して、ムルは数粒のシュガーを作って彼女の口に押し当てた。その時、ようやくただ意識がないにしては、硬い唇の感触に気づき、自分の所業に思い至った様子だった。ああ、と誰にいうでもなくつぶやいたムルがパチリと指を鳴らす。
    「すまない。君が未熟すぎる魔法使いということを忘れていた。これぐらいの拘束も解けないとは、予想外だったよ。──《エアニュー・ランブル》」
     呪文が唱えられると見えない戒めが解けたのか、少女の唇が薄く開いた。そのまま人差し指でシュガーを押し込んでみたが、それはあっけなく落ちる。彼はころりと床に転がったシュガーを、横目でチラリと見てから腕の中の少女に再び視線を戻した。
    「自分で嚥下する気力もないのか?石になるのも時間の問題だな」
     そう言って机上の水差しを掴み、ぐいと中身を一口含んだ。背中を支えていた腕をずらして首を支える体制に入る。少女に覆い被さるように顔を近づけると、血の気を失って冷たくなった彼女の唇と自分のそれを合わせて、舌でこじ開け、水とシュガーを口移した。なんの感傷もない表情で口を離した彼は嚥下反射による彼女の喉の動きを確認した後、面倒そうに少女を横抱きにして立ち上がった。コツコツと硬い靴音を鳴らして彼は部屋の外に去っていく。
     最後にギィ、バタンと古めかしい扉の閉まる音がした。


    [#改ページ]


     ムルが私を抱えて退場したところで、サファイアの語る物語は終わった。視界が白く弾けた瞬間、麗かな、午睡にぴったりの中庭に私たちは戻ってきた。降り注ぐ柔らかな日差し、囀る小鳥の声、柔らかな木々の緑。平穏を体現したかのような景色だ。
     始まる直前によぎった私の思念のせいか、予定とは少し違うものを見せられてしまった。あれは恐らくシュガーを初めて食べた日だった。
     あんな状況では私がその味を覚えているはずもない。このサファイアは見殺しかけた謝罪だったというわけだ。きっといつか、私がモノから記憶を垣間見て憤慨するところまで日に透かした翡翠のような瞳で彼は見抜いていたわけか。全く、何かにつけて抜かりない男だ。
     それにしても、師匠の好奇心の巻き添いで殺されかけるようなことは何度もあったが、こんな弟子になりたての時も死にかけたとは。できれば忘れていたい話だった。なんとなく傷んだ気がした側頭部を抑え、悪夢のような記憶に盛大にため息をつくと、ふわりと誰かに抱きしめられた。いや、誰か、なんて惚けた言い方か。
     さっきまで手を握っていたムルが立ち上がって私を抱きしめているんだろう。子供をあやすように撫でられるなんて悪い冗談みたい。
    「可哀想!餓死ってかなり苦しいんだって。気絶しちゃうほどお腹がペコペコってどんな気持ちだった?」
     ギョッとするほどの優しさに構えた瞬間、いつもの無遠慮なムルが顔を出して安心した。ため息をつきながら自分の頭より少し高い位置にある彼の腰を抱きしめた。今はなんだか顔を見られたくない気分だったから。
    「覚えちゃいないけど、愉快な気分じゃなかったことは確かね。」
     淡々と感想を伝えると、愉快そうにムルはあっけらかんと言い放った。
    「君の師匠はひどい保護者だ!よくここまでちゃんと大人になれたね!えらいよ、マリー。」
     そう言って私の髪がぐちゃぐちゃになるのを無視して混ぜっ返すように頭を撫でた。
    「自分で言ってちゃ世話ないでしょ。」
     そう言いつつ、ぐりぐりと彼の腹に額を押し付けた。ちょっとは内臓が圧迫されて苦しむがいいと思っての行為だったが、うめき声ひとつも漏れない。賢者の魔法使いとして日々各国を巡っている彼にとっては羽虫が刺したほどの刺激でもなかったのだろう。次は確実にダメージを与えるために頭突きでもしてやることを決めた。
    「確かにあんたは理想的な師匠なんかじゃなかった。成人するまでは他に身寄りのない私に行き場なんてなかったしね。」
    「ありがとう!」
    「褒めてない。でも、大人になってからも秘書の真似事をして一緒にいたのは私の意思だから、あんたの責任なんかじゃない。」
     どうせ気にしちゃいないだろうけれど、一応のフォローは入れておいた。西の魔女の矜持において嫌々誰かと数百年も一緒にいたなんて思われては看過できない。それに、どんな目に遭ったって結局ムル・ハートという魔法使いを厭うことなどできなかったこと改めてこのムルに表明しておくべきだと感じたから。
    「うん!知ってる!マリーは俺のこと、大好きだもんね!可愛そうで可愛い、俺の弟子!」
     もうこの男、記憶の有無に関わらず一回しばいてもいいんじゃないだろうか?
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    ksrg08871604

    DOODLEイカれた夫婦(出典:サブスポエピ)の式で乾杯の音頭を取るシャイロック
    飽きてなかったら後で茶々入れるムルまで書く
    新たな門出、祝福の日。とある魔法使い夫婦の結婚式でその人は主役たちよりも人目を引いた。
    「では、僭越ながら私から乾杯のご挨拶を」
     シックでシンプルな礼服を纏っていたがむしろそれは彼の美しさを引き立たせていた。シャンパングラスの足をそっと摘んだ指さえも優雅だ。男女問わず多くの人々が見惚れている。そんな中、主役夫婦はというと、二人ともがうっとりと彼を見つめている。バージンロードで見つめあった時や、誓いのキスを交わした時より熱っぽい視線だ。彼らの馴れ初めを知らずその上壇上の男に酔いしれていない幾人かは戸惑いを隠せないのは当然だろう。
     しかし二人の事情をよく知る者──つまり、俺を含むベネットの常連は動じていなかった。
     いや、より正しい表現をするのであればシャイロックで頭がいっぱいになっている様子ではないごく少数の常連は、だ。
     抜け目のないシャイロックは考えた文章は全て頭に叩き込んだ様子。にこりと今が盛りの薔薇にも優る艶やかな笑みを浮かべた。
     一番後ろの席からは会場全体が見渡せる。今の一瞬で5人は頬を染めて俯いた少女がいた。太ももを抓る配偶者持ちの中年も二人。会場の3割以上の魔法使いが 793

    ksrg08871604

    REHABILIムル夢
    鯖よろしくムルハートに着地を任される弟子
    例のごとく口論相手の傷口に塩を塗って激高させた師匠は、背は低いが恰幅のいい男に突き飛ばされて、たたらを踏んだ。いつに増して最悪なのはここが見上げるほど高い塔のらせん階段ということ。ぐらりと傾いで師匠の体は真っ逆さまに中央に空いた穴へ落ちていく。
    「師匠! 」
     息を飲んで追いかけるように飛び降りた私を見て、愉快そうに彼は微笑んだ。そんな悠長な反応と持ち上げられるような感覚で胃が苦しい。だというのにあの野郎、能天気にも言い放った一言がこれだ。
    「着地は任せたよ」
     耳は風を切るびゅうびゅうという音で使い物にならなかったけれど気まぐれに教えられた読唇術がしっかりと役に立った。
     何が”任せた”だ試すように命を預けやがって! 
     広がるマントは一見翼の様だけれど、彼の落下速度低下の一助になっているかは怪しい。自由落下じゃ追いつけない。どうしよう、考えている間に底が見えてきた。地下室の床だ。石造りのあそこに叩きつけられれば並みの強度しかない師匠の体は取り落としたプディングより悲惨なことになる。いや、魔法使いだから粉々の石くずになるだけか。
     そう思い至って私は肝心なことをようやく思い出した。
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    ksrg08871604

    REHABILIムルとご飯を食べてる弟子のSS「こんなに食事を師匠と共にしているのだから、そろそろいい加減私も、もっと頭が良くなってもいいと思うんだよね」
     本気とも冗談とも言い難いフラットな声音でマリーがそう言った。ムルは口の中にある玉ねぎと鯛の切り身をゆっくり咀嚼した。ビネガーを効かせた酸っぱめのカルパッチョはムルのリクエストで彼女が作ったものだった。
    「君の想定している"頭の良さ"と俺と同じ献立を口にすることにどんな因果関係があるんだ? 」
     さして興味もなさそうに返された言葉にマリーは口を尖らせた。
    「だって、細胞って食べたモノから成るんでしょ。一年以上あなたに師事してるし肉体の構成要素としてはあなたとかなり近しくなってるんじゃないかなって」
    「君は俺と同じになりたいの? 」
    「どうかな、師匠の賢くって博識なところは羨ましいけど。人から嫌われたり好かれたりが自分でも把握できないくらい激しいところは疲れそうだし短い寿命でもないのに延々と得体の知れないものに片想いしてるのもなんだかなって感じ」
    「つまり同一化願望ではないわけだ。ならば結構。同じモノがいくつもあるなんてつまらないからね」
     そう言ってムルはシャンパンを口に含んだ 745

    ksrg08871604

    TIREDムルの弟子がベネットの酒場の軒先でシャと喋ってるだけそういえば数か月師匠を見かけて居ない。

     厄災を眺めながら晩酌をしているとき、ふとその事に気づいた。
     しかし特にどうということもない。常に世界中を飛び回り、気の向くまま行動している彼は数年消息を絶つこともざらだからだ。さすがに安否を確認したほうが良いんじゃないかと思い始めると西の天才がやらかしたという噂を耳にし、拍子抜けするというのが常だった。今もどこかで研究に没頭しているのだろう。慣れというのは恐ろしい。師匠の元を離れて初めの百年は今度こそ石になってしまったんじゃないかと泣きながら方々探し回り気の休まる時間の方が少なかったが、今じゃ何の憂いもない。全く気がかりではないと言えば嘘になるけれど、数ヶ月連絡が途絶えたくらいじゃ四六時中心配するなんてことはなくなった。
     きっと今も世界のどこかであの厄災に性懲りもなく愛を囁いているのだろう。熱っぽく夜空を見上げる師匠を思い浮かべながらオリーブを口に入れた。数百年前出会ってから今日まであの人が変わらず情熱を傾けることと言ったらその厄介な恋慕くらいのものだから。
     しばらく舌で転がした丸い実をかみつぶしたら思ったよりも酸っぱすぎて眉間に皺が寄 2535

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