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    ksrg08871604

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    ksrg08871604

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    ムルとカジノとにょたシャイロックにイカれた男と巻き込まれ弟子 書きかけ

    道化の滑稽なトッカータ
     悲喜交交の喧騒、立ち込める煙の匂い、高い天井とぶら下がる煌びやかなシャンデリア。私は師匠の付き添いで西の国有数のカジノに来ていた。師匠の腰掛けた椅子の後ろに立ち、ずっと駆け引きを見守っている。師匠にしては珍しい、見ているだけで具合の悪くなるような胃が引き攣るような負け戦だ。数時間前の自分を呪いたい。なんで師匠を止めなかったのかと。
    「世紀の知恵者も幸運の女神に見放されちゃ終いだな!約束通りその指輪は俺のものだ!」
     喧騒の中でも、その男の外卑た笑い声ははっきりと耳に届いた。太い親指と人差し指が摘んでいるレッドベリルの指輪は師匠の魔道具だ。
    「ふむ、宝石箱をもう一つ持ってくるべきだったな。この短時間で魔道具も賭けることになるとは」
     そんな絶体絶命の危機でもムル・ハート──我がお師匠さまだ──はカフェで一服しているような余裕のある笑みを滲ませている。その頭の中では光が目に届くより素早く思考が巡っているのだろう。一体どんな手で相手を負かす算段をしているのか私には計り知れないが。魔法もイカサマも約束によって封じられたこの状況で彼の手札はその優れた頭脳のみ。普段であればそれで十二分に勝ち目があった。むしろもっとハンデがなければ相手が可哀想なくらいだ。しかし今夜の相手は並外れた幸運で信じ難いほど勝ちを拾う。師匠がこんなに負け続けるなんて初めて見たかもしれない。目の前の男から強い魔力の気配はしないから、何かしら魔法使いに力を貸してもらっているのだろう、もしかしたら生殺与奪権でも握って無理やり従わせているのかもしれない。用意した宝石が半分になるまでは私も手を考えていたけれど、悉く打ち破られてしまうものだからもうやめた。なす術なくことの成り行きを見ているのは胃に酸を投げ込まれるようで精神に悪いが、師匠を見捨てて逃げ出すわけにはいかないのだから仕方がない。
    「さあ、次は何を賭ける?宝石も尽きたろ?その高そうな燕尾服か?別にそんなもの俺は欲しかねえが、優男が素っ裸になるのは見ものだろうなあ!」
     大衆の前でパンツ一枚になった師匠を想像してみる。なかなか愉快だ。ついでに腹踊りでもしてくれないだろうか。
     一人の大人としての尊厳を奪われた師匠を想像してほくそ笑んでいたら、思いがけずムルは椅子の後ろに佇んでいる私を仰ぎ見た。
    「マリー、こちらへおいで。」
     失礼なことを考えていた気まずさもあって差し伸べられた手を素直にとる。すると、くん、と軽く引っ張られた。慣れないピンヒールのパンプスを履いていた私は敢えなくバランスを崩して彼の腕の中へ倒れ込んでしまう。高くない鼻をぶつける前に、彼は器用に私を横抱きにした。今日はタイトなドレスを着ているのにこんな格好にするなんて、どんな了見なんだろう!下着が周囲の野次馬に見られなかっただろうか。少しは私の羞恥心にも気を配ってほしい。
    「い、一体何を……。」
    「私の弟子を賭けよう。」
     必死で足を閉じ、裾を押さえる私の抗議を遮ったのは信じ難い言葉だった。
    「はぁ!?」
    「着飾ってよし、働かせて良し、抱いてよしの極上の魔女だ。」
     動揺する私の人権を無視したとんでもない物言いに平手か拳を見舞ってやろうかと親指を内側に握りこんだ。そもそもこの男とセックスなんてしたことがない。品質保証の文句に嘘が混じっているなんて、とんでもない詐欺師だ。
     しかし、沸騰した怒りはムルの口元に添えられた薬指の合図で冷まされた。これは話を合わせろという意味だ。何か策があるんだろう。もしこれが苦し紛れの時間稼ぎで、本当は無策、そのままボロ負けしたら今度こそこいつを石にしてやる。相打ちしたって構うもんか。フンと鼻を鳴らすにとどめて腕を組んで大人しくすることにした。
     その様子をみてテーブルの向こうの男は肘を突いて鼻で笑った。
    「生憎俺の好みは年下で従順な乙女でね。年増でずる賢い魔女なんぞスカートに手を入れる気にもならねえよ。」
     彼はそう言いつつも、私の頭の先から宙に浮いた爪先までを粘着質な視線でなぞる。ヒトの肉体を競市で値踏みするような目つきが気色悪すぎて先程煽ったギムレットが喉奥から飛び出してきそうだ。よし、こいつは師匠が勝とうが負けようが後で呪ってやろう。支配欲をひけらかす男にろくな奴はいない。数ヶ月かけて男根が腐り落ちる呪いがいいかな。
     私が今にも呪い出しそうな顔をしていたのか、ムルは私の耳元に口を寄せて「少し大人しくしていて」と嗜めた。あんたにだけは言われたくないと不満を視線で訴えたがすでに彼の目はこちらを向いていない。挑発的に片眉を上げて人の気持ちを逆撫でするような微笑みが相手を捉えていた。
    「おや、君の好みは天上に咲く花のような貴婦人が好みだと思っていたよ。」
     訳知り顔をするムルに、男が真っ赤な顔で喚き散らす。こんな人間、怒鳴ろうが怒ろうがどうだっていいけれど、汚い唾が飛んできそうだ。こっちを向かないでいてくれればそれに越したことはないが師匠に抱き抱えられている以上は無理だろう。少し思案して持て余していた扇の存在を思い出した。ポンと手元に取り出し、バリケード代わりにさりげなく顔の近くで広げる。これで唾液が直接顔にかかることはないだろう。
    「なんだと?デタラメも大概にしろよ魔法使い!」
    「先日王弟殿下の祝賀会で君が口説いた女性がいたろう?あれは俺の数少ない友人でね。」
     記憶を思い返すようにムルは斜め上に視線を投げて首を傾げた。対する男も思うところがあるようで、咄嗟に反論するでもなく顔を赤黒くして歯軋りしている。音が鳴りそうなほど奥歯を噛み締めて、そのうち圧力に耐えきれなくなった歯と歯がバッキリ折れてしまうんじゃないだろうか。
     ところで私は彼のいう"友人"に心当たりがあった。魅力的だが多くの問題を抱えた師匠。その友人は顔の広さと反比例して、そう多いものではない。親しみよりも憎しみを買うのが得意だからだ。しかも本人はそれを全く気に留めない。おかげさまで彼の助手として手帳に書き留めなければいけない人名は二ページ分もない。その中でとりわけ魅力的な人物といったら神酒の街で酒場を営む彼のことに違いない。
    「この子が季節外れの風邪で寝込んでしまっていたから、ちょっとした貸しの代わりにパートナーとして来てもらったんだ。」
     何をいけしゃあしゃあと。いつものことながら面の皮が厚くて呆れる。あの日、わたしはすこぶる健康だった。身支度をする直前になって、今日は他に当てがあるからと言い出したのは師匠だったじゃないか。では、あの日の付き添いをその数日前にチェスで負かしたシャイロックさんに付き合わせたというわけか。それならそうと言ってくれれば良かったのに。ただでさえ美しく蠱惑的なあのひとが完璧主義に則って、隙なく装った女性姿なら私も見たかった。知っていたら降って沸いた余暇を二度寝に回さずブローチにでも化けてついていったものを。ちょっとした権力や富を振りかざす人間が、世紀の天才に勝負を挑むくらいだ。それはもうお店で出しているどんな美酒も叶わないほど人々を酔わせたのだろう。それでいて主役の王弟夫妻を食ってしまわない完璧な振る舞いをしたのが目に浮かぶ。確かに、浅慮な人物であればこんな男の隣にあんな完璧な美人がいるのは腹立たしいだろう。もちろんそれは見当違いなやっかみに違いのないのだが。
    「あ、あの女性(ひと)がお前なんぞのパートナーだと!?」
    「ああ、そうだ」
     鼻息の荒い男に対してあくまでも余裕のある態度を崩さない師匠にヒヤヒヤする。
    「ちょっと、師匠」
     顔をテーブルの反対側から見えないように隠したまま小さな声でよびかけた。
    「何か?」
     済ました顔で返事をした師匠はちらりともこちらを見ない。
    「こないだ付き添いを頼んだのってシャイロ……んぐ」
     彼の友人の名前を言い当てようとしたら手で口を塞がれた。手袋から漂う香水が鼻をくすぐってくしゃみが出そうだ。いつもなら魔法で口を縫い合わせたように閉じるのに、こうするのはさっき魔道具を暴れたからか。
    「シッ、簡単に名前を明かしてしまっては彼にも彼女にも失礼だ。こういうものは然るべき褒賞として教えるものと相場が決まっている」
    「貴様ら何をこそこそと……」
    「いやなに、あ宴の後、彼女と見上げた星月夜がどれほど素晴らしかったか言って聞かせただけだよ」
     思い出に浸るように目を閉じたムル。全身の血が集中してるのではないかと思えるような顔色の人間。野次馬たちは関心を隠さずにいるが面倒ごとを予期して遠巻きにテーブルを囲んでいる。
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    ksrg08871604

    DOODLEイカれた夫婦(出典:サブスポエピ)の式で乾杯の音頭を取るシャイロック
    飽きてなかったら後で茶々入れるムルまで書く
    新たな門出、祝福の日。とある魔法使い夫婦の結婚式でその人は主役たちよりも人目を引いた。
    「では、僭越ながら私から乾杯のご挨拶を」
     シックでシンプルな礼服を纏っていたがむしろそれは彼の美しさを引き立たせていた。シャンパングラスの足をそっと摘んだ指さえも優雅だ。男女問わず多くの人々が見惚れている。そんな中、主役夫婦はというと、二人ともがうっとりと彼を見つめている。バージンロードで見つめあった時や、誓いのキスを交わした時より熱っぽい視線だ。彼らの馴れ初めを知らずその上壇上の男に酔いしれていない幾人かは戸惑いを隠せないのは当然だろう。
     しかし二人の事情をよく知る者──つまり、俺を含むベネットの常連は動じていなかった。
     いや、より正しい表現をするのであればシャイロックで頭がいっぱいになっている様子ではないごく少数の常連は、だ。
     抜け目のないシャイロックは考えた文章は全て頭に叩き込んだ様子。にこりと今が盛りの薔薇にも優る艶やかな笑みを浮かべた。
     一番後ろの席からは会場全体が見渡せる。今の一瞬で5人は頬を染めて俯いた少女がいた。太ももを抓る配偶者持ちの中年も二人。会場の3割以上の魔法使いが 793

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    REHABILIムル夢
    鯖よろしくムルハートに着地を任される弟子
    例のごとく口論相手の傷口に塩を塗って激高させた師匠は、背は低いが恰幅のいい男に突き飛ばされて、たたらを踏んだ。いつに増して最悪なのはここが見上げるほど高い塔のらせん階段ということ。ぐらりと傾いで師匠の体は真っ逆さまに中央に空いた穴へ落ちていく。
    「師匠! 」
     息を飲んで追いかけるように飛び降りた私を見て、愉快そうに彼は微笑んだ。そんな悠長な反応と持ち上げられるような感覚で胃が苦しい。だというのにあの野郎、能天気にも言い放った一言がこれだ。
    「着地は任せたよ」
     耳は風を切るびゅうびゅうという音で使い物にならなかったけれど気まぐれに教えられた読唇術がしっかりと役に立った。
     何が”任せた”だ試すように命を預けやがって! 
     広がるマントは一見翼の様だけれど、彼の落下速度低下の一助になっているかは怪しい。自由落下じゃ追いつけない。どうしよう、考えている間に底が見えてきた。地下室の床だ。石造りのあそこに叩きつけられれば並みの強度しかない師匠の体は取り落としたプディングより悲惨なことになる。いや、魔法使いだから粉々の石くずになるだけか。
     そう思い至って私は肝心なことをようやく思い出した。
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    REHABILIムルとご飯を食べてる弟子のSS「こんなに食事を師匠と共にしているのだから、そろそろいい加減私も、もっと頭が良くなってもいいと思うんだよね」
     本気とも冗談とも言い難いフラットな声音でマリーがそう言った。ムルは口の中にある玉ねぎと鯛の切り身をゆっくり咀嚼した。ビネガーを効かせた酸っぱめのカルパッチョはムルのリクエストで彼女が作ったものだった。
    「君の想定している"頭の良さ"と俺と同じ献立を口にすることにどんな因果関係があるんだ? 」
     さして興味もなさそうに返された言葉にマリーは口を尖らせた。
    「だって、細胞って食べたモノから成るんでしょ。一年以上あなたに師事してるし肉体の構成要素としてはあなたとかなり近しくなってるんじゃないかなって」
    「君は俺と同じになりたいの? 」
    「どうかな、師匠の賢くって博識なところは羨ましいけど。人から嫌われたり好かれたりが自分でも把握できないくらい激しいところは疲れそうだし短い寿命でもないのに延々と得体の知れないものに片想いしてるのもなんだかなって感じ」
    「つまり同一化願望ではないわけだ。ならば結構。同じモノがいくつもあるなんてつまらないからね」
     そう言ってムルはシャンパンを口に含んだ 745

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    TIREDムルの弟子がベネットの酒場の軒先でシャと喋ってるだけそういえば数か月師匠を見かけて居ない。

     厄災を眺めながら晩酌をしているとき、ふとその事に気づいた。
     しかし特にどうということもない。常に世界中を飛び回り、気の向くまま行動している彼は数年消息を絶つこともざらだからだ。さすがに安否を確認したほうが良いんじゃないかと思い始めると西の天才がやらかしたという噂を耳にし、拍子抜けするというのが常だった。今もどこかで研究に没頭しているのだろう。慣れというのは恐ろしい。師匠の元を離れて初めの百年は今度こそ石になってしまったんじゃないかと泣きながら方々探し回り気の休まる時間の方が少なかったが、今じゃ何の憂いもない。全く気がかりではないと言えば嘘になるけれど、数ヶ月連絡が途絶えたくらいじゃ四六時中心配するなんてことはなくなった。
     きっと今も世界のどこかであの厄災に性懲りもなく愛を囁いているのだろう。熱っぽく夜空を見上げる師匠を思い浮かべながらオリーブを口に入れた。数百年前出会ってから今日まであの人が変わらず情熱を傾けることと言ったらその厄介な恋慕くらいのものだから。
     しばらく舌で転がした丸い実をかみつぶしたら思ったよりも酸っぱすぎて眉間に皺が寄 2535

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