はじめてのソーダ味「アンデルセン、半分食べない?」
真っ二つに割ったアイスの片割れを差し出してマスターが言った。
元々二人で分けて食べる仕様であるらしいソーダバー。何の嫌がらせかは知らないが、俺には縁がないにもほどがある食べ物だ。
「俺はいらん。マシュにでも分けろ」
このクソ暑いのにそんな頭の茹ったイベントに首を突っ込んでいられない。
「じゃあ食べたい人にあげようかな」
俺がマシュをわざわざ指定した甲斐もなく、マスターは近くにいたサーヴァントにアイスを分け与えるのだから、まったくもって何も分かっていない。……揃いのソーダバーを口に運ぶ二人の姿が目に入る。
「――気が変わった、お前のを一口よこせ」
「えっ……!」
掠め取るようにソーダバーに齧り付く。
目の前には一気に減ったソーダバーを信じられないものを見る目で凝視するマスター。
「もう、アンデルセン!」
「騒ぐな。大体アイスならそこの冷凍庫にまだ夥しい数が入っているだろう」
「それもあるけど、そうじゃなくて、」
動揺する彼女はアイスを食べた甲斐もなく、熱に浮かされたような有り様。
彼女が気にしているのはもちろん、アイスの残量ではない。しかし食べかけを奪ったくらいでこれは、あまりに免疫がなさすぎやしないか。
「――味見程度で騒がれても困る」
「あ、味見ってなに」
「それくらい自分で考えてみたらどうだ?」
まぁ目を逸らす彼女を見るに、読み解けていない訳ではなさそうだ。
人であふれかえったこの場所で、メインディッシュにはまだ早い。
頭の中は食堂から彼女を連れ出す言い訳を考えるのに忙しいばかりだった。