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    yanagi_denkiya

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    パラロス時空ベリファー、健全なところまで

     ベリアルはそのメッセージを道端で開いてしまったことを深く後悔した。大体は「終わった」だとか「迎えに来い」だとか「何ソレを買ってこい」だとか端的に急ぎの用事を伝えられるだけなのだが、今日はメッセージアプリが画像受信の通知を出してきたわけだ。軽い気持ちで通知をタップした瞬間スマホの画面に映し出された画像を見て、ベリアルは大慌てでポケットに突っ込んだ。
     今一瞬見えてしまったものは本当に現実なのかと何度も頭の中で自問自答しながら車に乗り込む。駐車場に他に誰も居ないことを確認してから恐る恐るスマホを引っ張り出した。スリープを解除し改めて画面を見つめる。
     そこに映っていたのは紛れもなくベリアルが愛する男、ルシファーだ。だがその撮影された場所と格好が問題だった。
     見覚えのない大理石のバスタブに目を惹く空色のタイル。クリスタルライトが幾つも灯り、金色の蛇口が行儀正しく頭を揃えている。何処からどう見てもバスルームとしか思えない空間で、湯を張ったバスタブの中に悠々とルシファーは横たわっていた。淡い紫色の湯は入浴剤を入れているのだろう。湯が泡立っているのは泡風呂なのか、横着してバスタブの中で髪の毛を洗ったからなのかは定かではない。
     自撮りをしているので当然だが、上げられた右手側の乳首が湯の外に出ており嫌でもベリアルの目を惹いた。思わず生唾を呑み込んでしまう。その表情もいつもの仏頂面ではなく、まるで画像の送り先――ベリアルを誘うように蠱惑的な笑みを浮かべているのだから始末に負えない。湯で上気した頬に潤んだ目元が色っぽく、薄く開いた唇は今にもそこに吸い付いて欲しいと言わんばかりだった。
     これはルシファーが気まぐれで行う『謎解き』だ。彼が滞在しているホテルを探し当てれば部屋に招き入れて貰えるし、もし探せなければルシファーは悠々と巨大なダブルベッドに一人で寝転がるだろう。
     基本的にインドア派なルシファーだが、不意の思い付きでこういうことをする爆発力があるのが困りものだ。しかも大体は公共交通機関を使わずバイクを飛ばすので行き先が絞りづらい。
     だが今日の問題はかなり簡単だ。浴室に目の覚めるような青色のタイルが張られたホテルなんて数えるほどしか心当たりがないし、その中でルシファーのコネが使える場所となればかなり絞りこめるだろう。
     つまり彼は期待をしているのだ――なんて都合の良いことを考えながら、ベリアルは確証を得るためにウェブブラウザを開いた。
     十分後、ベリアルはたっぷりと熟考の上回答を送信した。ちなみに回答は一度のみしか受け付けて貰えない。あとはどれだけメッセージを送ろうが電話を鳴らそうがスルーされる。
     そしてベリアルは人気ロックバンドのヴォーカルという一応私生活に気を遣わねばならない存在であるという自覚は持っているのでホテルへの確認の電話も厳禁だ。あくまでも他人を巻き込まぬ形で調査を行い回答は一回だけ。
     こういう後がないギャンブル性のあるスリルはベリアルの大好物だ。しかも正解の景品はベリアルが絶対に手に入れたいものが宛がわれている。こんなの何をどうしたって燃えるに決まっているのだから、ルシファーがベリアルの嗜好を理解して仕掛けてきているとしか思えない。
     ――これはまあ都合のいい解釈でしかないのだが。
     何せルシファーの気紛れ具合は群を抜いている。従僕に餌を与えているつもりなのか、単純に自分の享楽の為なのか――何にせよ鼻先に新鮮な肉をぶら下げられた狼は素直に飛び掛かる以外の選択肢を持たない。
     画面を開いたまま今か今かと返信を待っていると、正解の言葉も称賛もなく、ただ部屋番号が伝えられたのだった。



     今すぐにでもハンドルを切ってホテルに向かいたかったが、ベリアルはルシファーに対してだけは過剰な程に気を回す男であるのでバイクを積める大きな車を借りた。どうせ帰りは運転手がいるならと助手席で眠るだろうし、ベリアル自身ルシファーと一時も離れたくないという気持ちがあった。勿論帰りもバイクで走るというのならばそれはそれだ。ベリアルはルシファーの意志を原則的に尊重する。そこに『愛』が関わらない限り、だが。
     あれから一切メッセージの来ない助手席に放ったスマホをたまにチラチラと横目に確認しながら、悶々とした気持ちで車を走らせる。
     だが予想外にも道中の半分くらいの所で追加の画像が送られてきた。画像ということは用事の申しつけではないだろうからホテルについてから見れば良いだろうに、ベリアルはわざわざ車を停めて確認する有様だった。ちなみに細長いカクテルグラスに絡みつくルシファーの指が映っているだけの写真だったが、最早彼の指が這うグラスがペニスに見えてしまう有様だった。心底見なければ良かったと後悔しながら、少々動かしづらくなった足でアクセルを踏む。
     急くばかりの気持ちはどんどん前のめりになるばかりで、理性の糸がどんどん引き絞られていく感覚だ。荒々しく駐車場に車を停め、震えるスマートフォンをポケットに押し込む。もういい加減にしてくれという気持ちでホテルの専用フロントに向かい遅れてきた旨と部屋番号を伝えると、身分証の提示と部屋への電話確認が行われようやくベリアルは部屋への案内を受けられる段階までやってきた。流石はルシファーの周到さだと舌を巻く。だが今は焦らされているようにしか思えない。
     荷物を持とうとするベルスタッフに遠慮してもらい(そもそも殆ど荷物なんてないようなものだ)、カードキーを受け取ってベリアルははやる気持ちを抑えながらエレベータのボタンを押下した。
     常ならばもう少しドアの前で呼吸を整えたり身だしなみを確認したりするがもう無理だ。ドアロックを解除し、まるで警察が現場に突入するような勢いで部屋の中に踏み込む。格式高いホテルの芸術的な内装など最早目に入りはしなかった。
     テーブルセットの置かれたリビングスペースにルシファーの姿はなく、奥まったベッドルームにその姿はあった。ベッドから対角線上に置かれたソファの上で悠々と読書を楽しんでいるようだった。着替えるのが面倒だったのか――それともどうせ脱ぐからと思っているのか、バスローブを適当に羽織っただけでだらしなく足を伸ばしている。
     サイドテーブルには半分ほどあいたワインボトルと空になったグラスが置かれている。傍らのケーキと併せてルームサービスで頼んだものだろう。
     写真で送られてきたカクテルグラスはなかったので、既に下げられたか別の場所で飲んでいたのかもしれない。
     足音に気付き顔を上げたルシファーは、珍しくも頬を緩めて此方を見上げた。きっと、全てが思惑通りに進んだことに満足しているのだろう。
    「何だ、飢えた獣のような顔をして。その形相ではフロントで厳重に身分確認をされたのではないか?」
    「それはファーさんの手回しだろ。そもそもこのクラスのホテルで芸能人の部屋を預かるならこのくらいフロントの判断で勝手にやるもんだし!」
     ペラペラと余計な事を口にしながら覆いかぶさるような形でソファの背に手を掛けると、ルシファーは顔を顰めてベリアルの胸を押す。
    「先に風呂に入って来い」
     その言い方は遠回しな合意だ。やはり彼は欲求不満だったのだ。どこまでも都合よく解釈しながら彼の膝の上に置かれた本を閉じてテーブルに置くと、その流れのままにルシファーの細腕を纏めて掴み上げる。
    「ここまで煽っておいて獣が我慢できるとでも?」
     抵抗をねじ伏せて鼻先まで顔を近づけると、ルシファーは諦めたように浅い溜息を吐いた。
    「部屋を汚すと後が面倒だ。ついでに済ませるから連れていけ」
     先程までは抵抗を示していた両手が一転して背中に回される。それは全面的な許しと身体を委ねるという意味に他ならない。
     そのまま抱き締めるように横抱きにして、ベリアルは足早にバスルームへと向かう。
    「随分と余裕がないな」
    「だからファーさんの所為だってば。何重にも、畳みかけるように煽って来ただろ?」
    「さあな」
     楽しそうに笑いながら話をはぐらかす姿に、ベリアルは絶対に泣かすと決めた。いつもはルシファーが嫌がるくらい丁寧にしつこく優しくしてやるが、今日はもう好き放題にやってやる。
     暗く凶暴な決意を胸に、大きな鏡台が置かれた脱衣所でルシファーの身体を下ろす。
     雑な手つきでジャケットを脱いで床に放り、Tシャツを一息に脱ぎ捨てる。だがこういう時に限ってベルトが変に噛んでしまってなかなか外れない。ガチャガチャと荒々しい音を立てながら外していると、ルシファーは呆れたように肩を竦めた。
    「愚か者め」
    「もうこうなった男はセックスの奴隷になるんだってば」
    「理解出来んな」
    「ファーさんはエスコートが必要だからね。性欲を引き出すにもさ」
     軽口を叩きながら何とかベルトを外し、下着ごとボトムスをずり下ろす。殆ど蹴るようにして足を抜くとようやく邪魔だった衣服を全部脱ぐことが出来た。
     ルシファーは先程の言葉が大層気に障ったのか恐ろしい形相をしていたが大人しく待ってくれていたらしい。
    「ありがとう、ファーさん」
     思わず漏れ出た言葉に怪訝そうな顔をしているので、本当に自分の自分の行動のちぐはぐさが目の前の獣をいかに肯定してしまっているかを理解していないのだ。ベリアルは「やっぱりファーさんは絶対に手放したらいけないな」と、改めて決心するに至ったのである。
     抱きしめると見せかけてバスローブを剥ぎ取り床に放ると、ルシファーは忌々しげに「獣め」と吐き捨てた。


    続きはいずれピクシブで
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