アナクトガーデンではペットを固有番号で管理しているアナクトガーデンではペットを固有番号で管理している。入園時点では呼称を持たないペットが大多数であるためである。
ティルは数少ない呼称を持って入学したペットだった。
他の子どもたちは何の疑問もなく固有番号で呼び合うなかで、独りストレスを溜めていた。
毎朝のバイタルチェックで必ずストレス値にチェックがつけられて、扱いにくいペットのラベルを貼られた。
固有番号はペットが生まれた際に割り振られるもので、固有番号は上二桁がペットの性別・下四桁が出自を表しティルの010525は[第5ファーム出生の男児ペット]を示す。男女が分かれて暮らすアナクトガーデンでは性別の記号にさしたる意味はなく、下四桁の番号を呼称とするのが慣例となっている。
皆が『525』とティルを呼ぶ。
けれどもイオが呼んでくれた名前をティルは持っている。大切な思い出であるが、イオがどんな優しい声色で呼んでくれていたのか、その記憶はおぼろげになっていた。
誰か呼んでくれないかなとティルは思っていた。
義務遊びの時間に独りでいる310(※イヴァン)に声を掛けてみた。
「なあ、ティルって言ってみて」
「謎かけは嫌いだ」
「ちがっ…なぞなぞじゃなくてっ!」
ティルは大きく頭を振って抗議するが、思い出すこともある、そういえば310はなんでも難しい方に取るやつだった。
「ティルって言ったら遊んであげるから」
「疲れるからいやだ」
「じゃあ、とびきり綺麗な花冠は?」
「キミは他の特別にも花冠を遣ってたろ」
「うー……、今日のデザート、は?」
「はははっ!いいよ!」
ものすごく苦しげに絞り出すティルの様子が310のお気に召したようだった。
つと顎に手を添えて耳元に優しく囁く。
「『ティル』」
310(※イヴァン)の声音はイオのものとはちっとも似ていない。でも不思議なことに響きはすごく似ているようにティルは感じた。
310自身も戸惑っていた。今までにこんな甘い響きを帯びた声を出したことなどなかったから。