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    neruco_s

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    ファッヘラ恵につきあってあげるゴの伏五

    #伏五
    volt5

    かえりはいちご味「はぁ?まだ帰ってないの」

     報告した伊地知は目線を泳がせ、僕の青い目玉を見ようとしなかった。
    「帰りましょうと促したのですが、ここに残ると」
    「伊地知さぁ、ソレ眠らせるくらいできるっしょ。今でも」
    「ですが。すみません…」
     僕が今でだって不定期だけども稽古してやってるんだ。見つかると七海にも硝子にも怒られるが、伊地知の術はパーペキだ。
    「で?あいつ何してんの」
     堪能していたチュッパが可哀想にバキバキ音を立てて噛まれていく。
     あーぁ、僕のプリン味。次はいちごが食べたい。
    「洗い流すんだと、近くの水道から水を運んでいます」
    「あらう?」
    「あそこにひとり居ました、一般人の痕を洗っています」

     来たときは早朝だったのでここまで蝉はうるさくなかった、なんて言えば「最近の蝉はいつでも鳴いてますよ」とか言う。うざいったらないよね。
     瞼を閉じて巻いても、包帯なんて何の役にも立たない。暑いのは湿度か気温か目玉の熱か。
     答えの出ている問いを考えつつ山を登っていくと、ばしゃり、ばしゃりと水が撒かれる音が聞こえてきた。
    「ねーぇ。壊れるのもうやめにしな」
     日が昇る前にこどもを連れてここにやってきた。低級の呪いを祓う訓練、というのは嘘で二級の下の案件だった。
    「まだきれいじゃないので」
    先に帰ってください。

     こどもは無事に呪いを祓った。しかし、祓う寸前ことの顛末を見ていたらしい人間が興奮し奇声をあげて草影から飛び出してきて、呪いはそれを道連れにし、こどもの目の前で人間と共に破裂した。
     僕が覚えている限りその出来事はこどもにとってこれまででも、数あるひとつ。経験済みの光景だったはずだ。
     ばしゃり、とこどもはまた錆び付いたバケツで辺りに水を撒いた。こどもの、恵が着ている春に新調したばかりのクリーム色の制服は、どこもかしこも体に張り付いている。

     ばしゃり。
    「だからさぁ、壊れてないんだから壊れんのやめなって言ってんの」
    「壊れてないのでやめないです」
    「お前めんどくさいよ。あぁなったら何も残んないって知ってるでしょ」
    「知っています」
    ばしゃり。
    「でも、よごれているので」
    ばしゃり。
    「ここに、ひとは居たので」
     蝉がうるさい。あぁうるさい。昔コンビニでどうしてもこれがほしい、とうずくまり泣き叫んでいた子供を跨いだことがあった。そしたら子供も親も目を丸めて黙ったので言ったのだ、「静かになって良かったですね」。

     ばしゃり。また水は投げられた。あのときは確か、そうだ。同じような位置から頭と、少し下のみぞおちに拳が飛んできたんだ。いてぇよ、なにすんだよ。

    「恵、帰ろう」
    「まだ、きれいじゃないので」
     祓えていないので。
     ばしゃり。水が土に弾かれる。
    「恵」
    「きれいじゃないので」

     空のバケツが転がり、弾かれ消えた。
     恵がバケツを手離したのは僕が彼の胸ぐらを掴んでいるからだ。
     蝉はいつまでもうるさい。ただ、恵は静かだった。
     恵のワイシャツからボタンがひとつ壊れ、散らばっていく。恵の破片は僕の手の甲に張り付くことなく土へと落ちていった。

    「『僕』に欲情するくせに、普通ぶってんじゃねえよ」

     胸ぐらとは別に恵の股間をボトムごと掴んだ。恵は逆立てたくせ毛のままで汗だくで、僕に胸ぐらを捕まれて動かなくなったが、しかし揉みこめばそこは硬く膨らんでゆく。
     恵はどうしたって僕に、僕の身体に素直に出来ている。
     そうやって僕がつくったのだから当たり前だ。

    「ねーぇ?ここ蝉うるさいよ。ね。かえろうよ」
     一緒にシャワー浴びようよ。ここだって綺麗にしてあげるよ。
     あぁ。
     恵はひとつ、短く叫んだ。まるで泣き声のような声だった。
    「…尻おれに洗わせてください」
    「恵、掃除屋でもはじめたの?うける。まぁいいけど。で?帰るよね」
    「……帰ります」
     洗い続けるにもバケツはもう無い。
     山を降りていくなか、掴んだ恵の手首は細く、身体からは草と土と汗と涙と僕のにおいがした。
     そう、恵は僕のにおいがするのだ。かわいそうなくらいに。

    「なんでもいいけどさぁ、僕を置いていっちゃ嫌だよ」
    「俺、きっとあんたより先に死にます」
    「何ばか言ってんの。老後の僕のおむつ替えるんだよ恵は」
    「ぜってぇ嫌だ」

     泣きじゃくる恵が夏だって春だって冬でも秋でもかわいいことを僕は知っているし、掴んでいる手首をあとどれくらい力を込めれば壊せるかだって知っている。
     それと、君が僕のことを好きなのはずっと前から知っているが、いつからそれを知っているは覚えていない。
     けれど、それが君にとってのすべてだということは、知っている。
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