牡丹、縁日、二人きり。ドン、という音が聞こえて、三月はふと車窓の外へ目を向けた。
「わぁ、綺麗だね」
前の運転席に座っていた万理が三月に声をかける。パッと視界に映ったのは小さな花火だ。どこか遠くでやっているのだろう。だが、雲一つないおかげで綺麗な花が夜空に咲いている。
「すごいですね!今年初めて見ました」
「三月くん、最近忙しかったもんね。俺は何回か見れたけど、こんなに綺麗なのは久しぶりだなぁ」
万理がそう言いながら、後部座席の窓を少し下げる。高速を走る車のエンジンに紛れて、火薬の打ち上げる音が少し大きく聞こえた。
「どこの花火大会ですかね」
「ここから見えるってことは、隣の県なんだろうけど……うーん、どこなんだろうね」
他愛もない話をしながら、次々打ちあがる花火をボーっと眺める。遠くからではあるが、暗闇を照らす色とりどりの花はどれも美しい。今年初となれば尚更だ。
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