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    acocco1111

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    acocco1111

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    ホラープロペシです
    ハロウィンということでホラーにしましたが特にハロウィン要素は無いです🙇💦💦

    #プロペシ
    propeci

    とある彼女のレポート綺麗に磨かれ整えられた爪の乗る親指が赤いボタンを押す。
    ピッ、という音と共に録音がスタートされた。ため息ばかりが出て「うぅん……」「えっと…」と数秒口籠った後、やっと言葉を紡ぎだした。






    『何から話したらいいのかしら……私は……いえ、私のことなんかどうでもいいわね……大学に通う普通の女子生徒よ。具体的な場所や名前は伏せるわ。……友人と、そのパートナーの話をしたいの。彼とは……そうね……「ペッシ」。友人をそう呼ぶわ。最後に自分でそう名乗っていたから……パートナーの彼は……何だったかしら………ええと…そう、「プロシュート」さんよ。……フフ、何だか暗号みたいね……』

    そして彼女は友人である『ペッシ』との出会いから順を追って話し始めた。
    大学で同じ回期生として知り合い、妙に気が合い仲良くしていた。お互い地方からの進学ということもあって、何かと助け合いながら過ごしていたという。
    出会いから程無くして、『ペッシ』が「兄貴」と呼び慕っている男性、『プロシュート』を紹介された。歳は幾つか離れていて立派な社会人として働いている、との事だった。本当の兄弟では無いがお互い実家が近く、昔からの幼馴染みらしい。
    『ペッシ』は『プロシュート』の家に居候しているという。
    それからは『プロシュート』も含めてよく3人で過ごすようになった。女の勘、とでもいうのだろうか、彼女には2人の間に幼馴染み以上の感情があると察した。
    思いきって本人に聞いてみれば、真っ赤になり泣きそうになりながら恋人同士であることを認めた。彼女は「素敵じゃない」と2人との付き合いを変えることは無かった。
    家に招かれたり、ドライブへ連れ出されたりと、更に楽しい日々が続いていた。
    『プロシュート』は傍目にもよく出来た男性であり、彼女も都度『ペッシ』を羨ましいと感じていた。
    優しくて穏やかで気が利き、責任ある仕事をきちんとこなし、更には容姿も人の目を惹くという完璧さだ。
    2人の生活は至って順調かに思えていたが、ある日『ペッシ』から思わぬ相談をされた彼女は血の気が引いた。

    『プロシュート』が毎夜毎夜うなされているというのだ。同じ寝室、1つのベッドで寝ているのだから『ペッシ』は異変に直ぐに気付き、その度に『プロシュート』を起こして伺うが「何でもない」「悪夢を見た」とはぐらかされていた。
    しかし、しつこく聞いてくる『ペッシ』に根負けしたのか正直に話してくれたという。

    毎晩、うつらうつらと起きているのか寝ているのか意識が定まらなくなると、寝室の天井に上半身だけの化け物が張り付いているのが見えるという。
    しかもその体中には無数の目が着いており、その瞳がギョロリと動き『プロシュート』と『ペッシ』を交互に見たかと思えば何事かを叫ぶらしい。何を叫んでいるかは分からないが、「早く…!」という部分だけがハッキリと聞こえる。その後は気を失う様に浅い眠りに落ちてしまうとの事だった。
    人一倍怖がりな『ペッシ』を案じて話すのは憚っていたと告げられたのだった。

    「オレ、怖かったけど…兄貴より先に寝ないようにして天井見てたんだ……でも何も見えなかった……兄貴、疲れてんのかな……」

    すっかり気落ちして黙りこんだ『ペッシ』へ彼女は怯えながらもある可能性を伝えた。

    「家に何か問題があるんじゃない?ほら、最近よく聞くじゃない…事故物件だとか……」

    「そう……なのかな?でもオレまだ働いてねーし、仕送りじゃ兄貴の足しにもならねーし……軽く引っ越ししようなんて言えねーよォ…でも兄貴きつそうだし……」

    「それでも相談してみたら?」という彼女の助言を受け、ペッシは本人に問うてみたが「心配すんな。もう慣れた」と返されるだけだった。
    それから2人の間では朝のお決まりの挨拶が出来た。
    「兄貴、昨日どうだった?」
    「まあな、相変わらずだ」
    『ペッシ』も疲れなどでぐっすりと寝てしまい『プロシュート』の様子に気が付かない日もある。自然と寝起きには「おはよう」より先にこの問答が出てくる様になった。それは都度彼女にも伝えられ「どうしたものか」と悩む2人を置いて、『プロシュート』はいつもと変わらずの生活をこなしていた。

    大学生として試験だ何だと忙しい日々が一段落した頃、青い顔をした『ペッシ』からある話が彼女にもたらされた。

    『プロシュート』と同じ会社で働く、同郷で『ペッシ』同様、幼馴染みのある男がいる。赤髪の坊主姿で軽いノリだが、とても頼りになる同僚でもあるらしい。家にもよく遊びに来ていた。何の気無しに『プロシュート』が毎晩うなされている事を話せば、思わぬ返事が返ってきた。

    「アイツまだそんなもん見てんのかよ…体中目玉だらけの化け物だろ?子供の時からだぜ」

    『ペッシ』は家が悪いせいだとばかり思っていた考えが外れた事と、昔からの事を隠されていた事実に大きなショックを受けた。赤髪の同僚は更に詳しく語る。

    「一度病院にも行ってる筈だぜ……聞いてねーか?年々酷くなってるとか言ってたな」

    そこまで聞いた彼女が「そんな…」と言葉を発する前に『ペッシ』は「居なくなった」とポツリと呟いた。

    「……何?……誰か居なくなったの?」

    「その人、次の日から会社に来なくなったって……もう3日も連絡取れなくなってる……行方不明になっちまったって」

    赤髪の同僚は姿を消した。
    警察へ失踪届けも出され『プロシュート』もすっかり気落ちしてしまっている。最後に会った人物として警察からの聞き取りにも疲弊してしまっているとの話だった。

    「オレ……怖くて…聞いちゃいけねーこと聞いたんじゃあねーかって……」

    彼女は何とか、泣く『ペッシ』を宥め励ましたが、翌日から『ペッシ』は大学に姿を見せなくなり、一切の連絡が取れなくなった。
    胸騒ぎを覚えた彼女は2日と待たずに2人の家へと向かったが、部屋はもぬけの殻だった。大家に聞けば「夜逃げだよ!」と怒鳴られ、大学の事務局に『ペッシ』の事を訊ねれば「退学した」とだけ告げられた。半月後には双方の家族から捜索願いが出され、一月も経てばまるで最初から2人は居なかったかの様に話題に上がることも無くなった。






    喪失感と恐怖を思い出した彼女は震える手でギュッとレコーダーを握りしめる。

    『一昨日……『ペッシ』から電話があったわ……失踪した理由や今どこに居るかは教えてくれなかったけれど……失踪前日に起こった出来事だけを話してくれたの』

    更に震える声を絞り出し彼女は続ける。




    一昨日、携帯電話に「公衆電話」と表示された着信が届いた。何故か『ペッシ』だと確信した彼女は直ぐに電話に出る。

    「どこに居るの!?皆心配して…!」

    「ごめん、兄貴には止められたけど…どうせいつか思い出すから」

    彼女の言葉を遮り『ペッシ』は「兄貴が見てた化け物、オレにも見えたんだ」と説明が始まった。
    同僚の男から話を聞いた日、『ペッシ』は『プロシュート』本人に言及出来なかった。ただ、その夜はいつもと違って『プロシュート』の頭を胸に抱き、何かから守る様な形で眠った。
    そして、その晩もうなされている声に起こされ「大丈夫だよ兄貴!」と抱える腕に力を込める。
    化け物なんて幻覚だ。
    何も居ないはずの天井を睨み付けながら見上げたペッシは、その瞬間全身を強ばらせた。

    居る。

    聞いていた通りの多眼がギョロギョロと動き、その全てが『ペッシ』を捉える。
    叫んでいるはずなのに声がでない。金縛りで指の一本も動かせない。
    上半身から下にブラブラと揺れる幾つかの管の様なものが、一度大きく振りかぶられ腕が天井から離れた。

    落ちてくる
    そう認識したと同時に声が聞こえた。
    『早く……か、……れ……!』
    今にも異形のものが自身へと被さってこようとしているのに『ペッシ』の唯一動く目は掻き抱く金髪の頭へと向かった。
    確かに今その声は『プロシュート』が発した。
    寝言の類いでは無くハッキリと。
    (兄貴、何て言った?いつもアイツが言ってたこと?)
    ドサッ!と確実な質量をシーツ越しに感じた時『ペッシ』は気を失った。

    目を覚ませば朝だった。
    隣に『プロシュート』は居らず、共用のクローゼットが荒らされ、床やベッドに服が散らばっている。『ペッシ』は慌ててベッドから飛び起き、隣の部屋へ移動した。
    奥にある洗面所から『プロシュート』がそこへ現れたが、何か様子が違う。
    いつもはサラリと下ろしている髪を、つんのめる程に結い上げ、冠婚葬祭用に仕舞ってあったスーツを着ているが、胸元はシャツと共に大胆に寛げられている。

    「あぁ、ペッシ!やっと起きたか」

    「ぺ、ペッシ…?誰のこと?……何言ってンだよ兄貴……どうしたんだよ…」

    困惑する『ペッシ』の頬をスリスリと両手で撫でる『プロシュート』は、ただ笑みを湛え更に顔を近付ける。そして真っ直ぐに目を見て、昨晩うなされながら…しかしハッキリと発していた言葉を再び言い放った。

    『オメーも早く代わってやれッ!』







    「……どうして私にそれを聞かせたの?」

    彼女は『ペッシ』から一連を聞いた後、ただその質問だけをした。

    『……早い方がいいから』

    「何が」と質問しようとした合間に、遠くから「行くぞペッシ!」と聞こえる。
    「分かったよプロシュート兄ィ」と答える声に彼女は「待って!!」と叫んだ。

    「あなた誰なの!?ペッシって誰なのよ!?」

    『オレはペッシだよ…』

    ブーッ!というブザー音の後、電話は切れ、その後『ペッシ』からの連絡は無い。






    『…………これが居なくなってしまった友人とそのパートナーの話の全部よ。何故私にあんな話をしたのか分からないけれど……あれから…おかしいの』

    『ずっと視界の端に人じゃない何かが見えている様な気がするわ……昨日はモールで急に声を掛けられたの。知らない男の子に「トリッシュ」と呼ばれたわ……私は…トリッシュなんて名前じゃあないわ……きっと……』

    『聞いてはいけない話を聞いてしまったの?……もうすぐ、私も居なくなってしまう気がする……でもこの話を誰かにしたくてたまらないのよ!してはいけないと思っているのに…分かっているのに!……だから、こうやって残すわ…………お願い。誰か、聞いて』

    再び赤いボタンが押され録音は終了した。



    そう広くない街で起こった連続失踪事件。
    15番目の失踪者となった女性の自室から見つかったレコーダーは『聞くと見えてはいけないモノが見える』という噂があるらしい。
    その所在は、今は誰にも分からない。




    おわり
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