魔法の言葉「可哀想な私」
そう、呟けば目の前の私はこちらを向いて、唇を少し震わせた。そこに見える表情はよく分からないけれど、楽しいというものではなさそうだ。
「可哀想、だと、思うの?」
震える声は、今までの疲れからだろうか。それとも、溢れた感情の一部分だろうか。
「そうだね、可哀想だ」
は、と目の前の私が息を飲む。
可哀想という言葉が刃だということは分かっている。茨が嫌がっていたのも知っているし、私自身、言われるのは好きではなかった。言われなかった、同情されなかったその世界を、私はとても安堵の地と感じた。
けれど、可哀想と言うほかない。同情するほかない。それは、私が何より好まないことだから。
座って蹲って、どうして、と嘆く必要なんてない。悪はここにある。背負って生きなくてはいけない過去は捨てられない。だけれど、良くなった未来がある中で、公に断罪することはできない。
英智くんも、日和くんも、つむぎくんも、それぞれの罪の償いを見出しているようだ。そうして前に進んでいる。
見出せない私は、忘れないように、そして許されないようにするほかない。欠陥している体の穴の中に、罪を流して蓋をする。灼ける痛みを伴う熱は、問い詰めに似た罪の現れだ。
私は、私を傷つけることを厭わない。
傷が分からないから、どこまで切り込めばいいか分からないけれど、ただ自分の好まない言葉を投げればいい。そう思って、ゆっくりと言葉を継いだ。
「がんばったね」
刃は私を刻んでいく。目の前の私の瞳から、涙が溢れる。悲鳴が上がる。分かっているはずだ。私は、頑張ってなんていない。日和くんや英智くん、つむぎくんなら兎も角、ただ付き従うように歌っただけだ。頑張ったなんて心にも思わない。
分かっている。
頑張ったよね?という日和くんの言葉を思い出した。彼は、頑張っていた。私は、頑張ってなんていなかった。言葉は、結果を伴っていない場合に投げつければ苦痛の言葉に早変わりする。
「もう、苦しまなくていいんだよ」
やめて、と目の前の私が苦しむように喘ぐ。
苦しまなくていい。苦しむなんて逃げを、得ることなんて許されない。
私は、過去の私を殺した。
過去の、甘えた私は、今もきっと許しを待っているだろう。夢のはしごをまたかけたら、今度はどうすればいいかな。
きっと私は、誰よりも罪深いのだと思う。
今も甘い蜜の中に、体を落としているのだから。
だから、どうか。
私を殺してくれる人が、早く現れるといいと思う。