モブ視点の藍桐彩和保護者会の飲み会に遅れて参加することになった。本当は妻が参加するはずだったのだけれど風邪気味のため欠席。代わりに自分が行くこととなった。
「すみません、遅れてしまって……」
「いえいえ〜、席は空いてるとこ適当に座っちゃってください」
幹事に促されるまま、席に探す。といっても空いてるとこはもう、そうないみたいできょろと見回してしまう。周りはもう酒も入ってるみたいで気を回してくれる人もいない。やはりこういう場は苦手だ。
「こっち隣どうぞ」
「はあ、ありがとうございま、」
声をかけられて、助かったとばかりに振り向く。が、固まってしまう。
新雪を思わせる、染色の傷みの見えない白銀の髪に、春の名残のような曇り色の涼やかな瞳。中性的な雰囲気はどこまでも清涼で。
「お、ミナパパもそうなるかあ〜」
「わ」
がっ、と肩を組まれてフリーズが溶ける。なお、絡んできたのは娘の幼なじみの母親だ。家族ぐるみで遊ぶため自分にも面識がある。
「えー、俺の顔がいいばかりに?」
「そう、小鈴パパの顔がいいばかりに」
目を奪った張本人、花のような顔立ちから出た言葉は随分フランクで、それにも思わず目を丸くしてしまう。相手は慣れているようでからからと笑い、改めて席を勧めてくる。
「あたしだって初めて見た時は人間離れした美形でびっくりしたもの」
「そのわりに写真撮りまくってませんでしたっけ? アイママさんよぉ」
「その節は〜目の保養をありがとう!」
盛り上がりつつ、幼なじみの母は早々に席を立ってしまう。置いていかないでほしい。
「飲み物は?」
「あ、えと、生で」
「あいよ」
「あっ、すみませんっ!」
コップを持たされ、空けたばかりらしい結露をつけた瓶を傾けてくる。こがね色が注がれる様をぼーっとみることしかできない。
「風邪の看病はいいのかい?」
「え!?」
「奥さん」
「あ、はい。むしろこの機会に馴染んでこいと追い出されてしまって」
「なるほど」
「あはは…でもうお母さん方の参加が多いと思ってたのでお父さんが俺の他にいるの、意外でした」
「まぁどうしたって現状しょうがないとこはあるか。でも川田さんちとかは専業主夫だから基本父親だな。今日は祖母の誕生日とかで欠席だが」
「へえ。あのえと」
「ああ、俺は藍桐小鈴の親だ」
「小鈴ちゃんのお父さんはよく出られているんですか?」
「そうさな。在宅でこなす仕事が主だし、出張でもない限り出ている」
ビールの入ったグラスを傾ける姿すら様になっている。
「ご職業伺っても?」
「ん? 占い師」
に、と悪戯に成功した子どものような顔は見目の涼やかさとアンバランスで。
今日はどうやら酒のまわりが早い。手酌でビールを継ぎ足す自分に彼は苦笑しながら水をくれる。
「すみません」
「腹にも入れときな」
「ありがとうございます……」
ずっと夢見心地でその日の飲み会は終わった。
その後あった保護者会もその飲み会にも自分は参加するようになり、慣れることはないまでも普通に喋れるようになった。
ただ、年の差結婚なこともあり、この保護者会では恐らく自分が年長。のはずだ。そして明らかに目の前の彼は年下のはず、なのだが。
華奢な体躯と纏う空気。フランクな口調も相俟っていつまでも彼の年齢は分からないままだ。