星の在処【星の在処】
「給料(イワシ)倍増」
「世界征服」
「立派なラスボスになりたいデス」
「父上のような魔界大統領になる」
「いい加減主人が血を飲みますように」
色とりどりの短冊がはためく今日。世に言う七夕であるが、魔界から星に祈ってはならぬという決まりはない。それどころか、一流の悪魔ともなれば星魔法を使いこなすのだから、むしろ星の廻りとこの地は縁深いと言えるかもしれない。
短冊の飾りとして指先で小さな星を作る傍ら、「一流の悪魔」へと話し掛ける。
「吸血鬼さんはどんなお願い事を?」
「大の悪魔(おとな)が今更願掛けするような夢など持ち合わせていると思うか」
お前を恐怖に陥れる……それは己の力で叶えれば良いだけの話だしな。なに、すぐに叶えてみせるさ。そう男が笑えば、こちらもつられてはにかんだ。
「お手柔らかにお願いします」
「しかし……年に一度のこの日すら会うこと叶わずとは」
二つの星を探したのであろう吸血鬼の視線の先へと目をやるも、暗い空は雨にけぶっている。朧げな月だけが辛うじて雲の隙間からこちらを見ていた。
「彦星と織姫の逸話ですわね。……可哀想にと、思いますか」
「まさか」
くつくつと男は笑う。この人は、知らぬ間に良く笑うようになった。
「たかが一年ぽっち、会えないことが何だと言うのだ」
なあ、アルティナ? こちらを見つめる悪魔のその瞳には確かに星々が煌めいている。
二人へと、静かに雨が降り続いてゆく。
fin.