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    ろどな

    左右相手非固定の国

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    9/14 フレユリ
    独りを怖がるユーリの話

    #フレユリ
    ##rd_9月ひとり創作フェスタ

    ミナゾコ それはきっと、夢、だった。フレンはそこにいなくて、オレは一人、海に沈む。息ができなくなって、ああ、死ぬんだと思った。こんな終わりがあるのか、あってもいいのか。罪に汚れた手は、孤独な死を連れてきた。ただ、それだけだ。
     だがそれは夢。何度も何度もくり返し見る、ほの暗く苦しい、夢。


     依頼があって帝都に来ていた。だからそのついでにフレンに会って、近況報告なんてしあってみたりして、それから、少しだけ指先に触れた。
     頻繁に会えないことはお互い承知のうえで積年の思いを伝えあった。もしかしたら積年だったのはオレだけかもしれない。罪人はその隣に似合わないと常日頃考えて、親友としても手を離そうと考えていたくらいだけど。
     フレンは騎士団長として騎士団を立派にまとめ上げている。かたやオレは、ギルドの一員として日々世界中を飛び回ってる。ジュディとのタイミングが合えばバウルに乗ってひとっ飛びだが、普段はそうもいかない。船に乗って馬車に乗って。拠点であるオルニオンはまだ、往来の面で不便だ。
     だから、かもしれない。カロルやジュディ、それからたまに来てくれるパティと、様子を見に来てくれるレイヴン。奴らと顔を合わせることはあっても一番会いたいフレンには簡単に会えないから。だから一人取り残される感覚を覚えることがあって、それがきっと、水の中。
     死にたいと思うわけじゃない。死んでもいいと思うわけでもない。ただ、いい死に方はしないと思うだけ。例えばそれが溺死だったり、転落死だったり、きれいな形ではないと。
     そしてその瞬間、オレのそばにフレンはいない。それも仕方がないと思うし、そばにいてほしいと望むわけじゃない。ただ、独りなんだなと、思うだけ。
     その思考が先か、夢が先か。いつからなのかもわからなけりゃわかるはずもなくて、オレの意識は苛まれる。依頼に支障はない。なにかを考えたら負けだから。ただ、そうしてなかったらオレは、空っぽだった。世界も平和で、まだちょっと面倒はあっても楽しくて、やりがいもあるのに。どうしてもどこか、虚空が住んでる。


    「……依頼? これが……?」
    「そうだよ! いい依頼料もらってるんだから、しっかりお願いね!」
     カロルが渡してきた依頼書。それには確かに『フレン・シーフォ』の署名があった。騎士団としての依頼であれば肩書を添えてあるのに、これにはそれがない。そして内容、簡潔だった。『ニ週間、ユーリ・ローウェルを帝都ザーフィアスまで派遣されたし』。そんなことあるかよ。なにをするかも書いてない、個人的な依頼なんて。
    「なあカロル先生。これ、なにすんの?」
    「ボクだって知らないよ。フレンだから危ないことでもないだろうし」
    「……他の依頼、いいのか?」
    「ジュディスとボクでなんとかするし、過剰には受けないよ。だから気にしないで」
     もちろんカロルもオレとフレンの関係は知ってる。とはいえ、こんなにも意味のわからない依頼に、手放しで送り出すなんて。
    「休暇だと思っていけばいいじゃん。最近働きすぎだよ、ユーリ」
     その言葉に、ああなるほど、と思った。オレは、なにも考えないようにと過剰に依頼を受けてた。依頼で行った先のユニオン派遣員に次の依頼をもらっては、次から次へふらついて。それくらいじゃなきゃ、動けなくなりそうだったから。
    「じゃあ、気をつけて。今日からじゃなくて着いてから二週間だよ! 伸びるときは連絡と、追加報酬もらってね!」
     我等が首領はしっかりとした男だ。例え気心のしれた仲間でも、容赦はしない。ま、三人しかいないギルドじゃ、一人いなくなるだけで稼ぎは一気に減るんだから当然だが。
     そんなカロルが許可を出すほどの報酬を払ってまで、フレンはオレになにをさせる気なんだろうか。騎士団の訓練要員か、それとも溜まった書類の後片付けか。なんでもいい。働ければそれでいい。フレンのそばにいればなにか変わるかもしれないが、そんな確証はない。少し会ったくらいじゃ、どうしようもなかったから。


     数日の船旅を経て、帝都についた。オレは下町には寄らず、まっすぐと城へ向かう。いつもなら下町の宿に部屋を用意してもらうが、こんなに長期の滞在を求めるんだからもしかしたら部屋の準備もあるかもしれないからだ。フレンは真面目だから、そういった手筈は抜かりないと思うし、なかったらその時、下町に行けばいい。
     入り口を守る騎士たちに挨拶して、オレは顔パスで城の中を歩く。まっすぐと、迷うことのない道を歩いて目的地へ。丁寧にノックをしてから、返事を待つことなく部屋へと入ってやる。
    「今応えようと思っていたのに」
    「オレが来るってわかってて鍵開けっ放しにしてるやつがよく言うよ」
     オレは勝手知ったる部屋の、ベッドに座る。騎士団長なんだからソファーくらい置いてもらえばいいのに、ここに座ってもらう必要のある人を入れることはないからとバッサリ切り捨てられる。まあ、そのほうがイイんだけど。オレだけは入れてくれる部屋、ってのも。
    「で? 騎士団長様が一介のギルド員になんの用だって?」
     とにかく今は、仕事だ。二週間もの長期間に及ぶ仕事がなんなのか、想像すらできないけどな。
    「……コレは僕個人としての依頼だ。君に二週間、……」
     フレンはそこで言葉を止めた。まさか恐ろしいほど過酷な仕事なのか。オレはその間に息を呑んだ。
    「ゆっくり休んでもらおうと思って」
    「……は?」
    「この間、ひどい顔をしていたからね」
     フレンは、気づいていた。オレがなんでもないふりをして、なんでも、あることに。机に向かってた体がオレのそばに寄って、それからそっと抱きしめる。それだけでオレは、ひどく心が揺れた。落ち着かない心と、落ち着く心の間で。
    「話してもいい、話さなくてもいい。動きたいなら騎士たちの訓練に混ざってもらってもいい」
    「……ん」
    「僕がそばにいるから」
     髪を撫でる手は、確かにフレンがそこにいる温もりを感じられた。決して水の底なんかじゃなくて、温かい、ひだまりのした。

    「……オレ、さ」

     話して、なにかが変わるというのだろうか。いや、変わってほしい。いつまでも水底にはいられないんだから。
     孤独などないと教えてほしい。そう願うように、オレはフレンに、そっとキスをした。
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