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    ろどな

    左右相手非固定の国

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    9/19 たいみつ
    仲良くなってちょっとあとくらいの付き合ってないたいみつの少女漫画(漫画ではない(色々捏造))

    #たいみつ
    ##rd_9月ひとり創作フェスタ

    機嫌のバロメーター 朝焼けの中、自室。三ツ谷隆は携帯を手にその画面を眺めていた。『今日学校終わりに迎えいく』。そんな文字の書かれたカラーとも白黒とも言い難い画面。色がついているのは確かなのに、どうにも色がないのだ。
     隣の部屋で眠っているだろう妹たちを起こさないよう、三ツ谷はその文字に対して返信を打つ。『わかった』。そんな短い文章を打って、それから枕に沈んだ。緊張する。面と向かって話すのは緊張などしないのに、文章となるとどうも良くない。
     それは対『彼』にだけ発動する問題だ。嫌なわけではないが、友人になったとはいえやはり馴染みのヤツらよりも、わからない。もし機嫌を損ねたら。ヤりあった記憶はそう簡単に消えはせず、その経験があれば彼の拳に恐怖を抱いた八戒のことを笑うことも罵ることもできるわけがない。もとより、する気もないが。
     つまり、だから、文章に気を使う。面と向かって語り合えば機嫌を損ねたとき、すぐに弁解ができる。だがメールはそうはいかない。もし返信が遅かったら。ただ遅いのか怒って返したくないのかがわからないのだ。前者ならば、こちらから動くのはそれにより機嫌を損ねてしまうことだってある。これは、ある人物から学んだことだ。
    「……はぁ……」
     三ツ谷はひとつ、大きく息をついて自らの居住スペースを出た。朝飯と弁当でも作るか。少し伸びた髪をすいて、台所へと向かう。


    ***


    「よォ」
    「おつかれさん」
     ほら、面と向かえばどうということはない。周りの人間が怖がるような容貌をしている男とでも、なんてことのない顔で、なんてことのない声で話すことができるのだ。
     今日はもともと予定を合わせていたわけではない。ちょうど用事がなかったため誘いを了承したが、聞けばファストフード店の新作が気になるというのだ。そんなジャンクなものを食うのか、と問えば、家を出てからはそういうものも食うようになったという。ああそうか。三ツ谷はすぐに納得した。
    「大寿くんには似合わねえなあ」
    「そうか?」
    「見た目がいかついから。制服着てても回らない寿司屋とか行きそーじゃん」
     くく、と笑いながら三ツ谷は言う。彼、大寿はなにも言わないが、その身にまとう雰囲気から、別に怒ってはいないだろうと感じる。その証拠に、大寿は三ツ谷の腕を引いてこっちだ、と店に誘導してくれる。怒っていたらきっとすぐになにか、それ相応の行動をするはずだった。
     大寿と並んで買った新作は悪くなかった。大寿はどうも、食べると言うよりは研究でもするかのように一口ずつ味わって、中身を確認しているようだった。もしかして料理が好きなのかもしれない。
    「随分熱心だな」
    「……まあ」
    「自分で作ンの?」
    「いや、どっちかっつーとマーケティングだな」
     なるほど、三ツ谷は本日二度目の納得をした。どうも彼は経営者に興味があるようで、それはすごくしっくりくるな、と思っていた。自分たちが壊滅させた黒龍をまるで軍隊のように統率の取れた組織にしたのはこの男だと聞いていたから。支配し、上に立つのが得意ならば、経営者に向いているだろうと思うのはきっと当然だ。
    「じゃ、ほら。これ、人気だぞ」
     ふと思い立ったように三ツ谷は自分が個人的に注文した季節限定のパイを差し出した。今シーズンの発売から数週間経っているが店によっては品切れるほどの人気だと、クラスの女子が盛り上がっているのを小耳に挟んでいたのだ。
     たしかに、一口食べてみて人気が出るのはわかった。しょっぱめのバーガーに合う、程よい甘さだ。これだけを目当てにしてもいいし、サイドとして頼むのもいい。つまりは、人気である。
    「もう食った?」
    「……いや」
    「じゃあ、ほら」
     もう一度、大寿に向けてパイを差し出す。小分けにできれば一切れ、なんてできたかもしれないが、ひとつしかないのだからどうしようもない。三ツ谷はそれを差し出したまま、大寿が口にするのを待つだけだ。
     少しの間をおいて、大寿がようやく身を丸めてパイに食いついた。一口がでけえな。そんな感想をいだきつつも、一口と言ってすべて食べ尽くしてしまわれるよりは何倍もマシだ。「うまい?」と尋ねて、残りのパイを口に運んでしまう。
    「ああ。人気が出るのもわかるな」
    「だよな、半信半疑だったけど、食ってみたらオレもそう思ったワ」
     セットで頼んだドリンクも飲み干して、混み合う店内を後にした。悪くなかった、今度は仲間たちと来よう。などと考えながら。

     少しの間、会話がなかった。お互いよく話すほうではないが、無言もなんだし、といつもは三ツ谷から話題を振っていた。だが今はなんとなく、彼の機嫌が良くないような気がしたため、話しかけづらかったのだ。なにかしたかなあ。脳内で先程までの行動を振り返る。なにも、した記憶はない。
    「……大寿くん、怒ってる?」
    「どうしてそう思う」
    「なんとなく、だけど」
     そのまま、今の気持ちを言葉にする。メールよりもなにかしたときのリカバリーがしやすいのは、やはり失言したとてすぐにそれを聞けるからだ。しかし今、彼は試すような問いかけで返した。怒ってはいないのかもしれない。
    「新作美味くなかった?」
    「美味かった」
    「パイは?」
    「……美味かった」
     どうも味が悪くて機嫌が良くないわけではないようだ。三ツ谷は悩む。
    「……テメェはいつもあぁやってんのか?」
    「は?」
     なにを、と問う前に、大寿の指先が唇をなでた。少し上から見下してくる瞳は、いつもと違うような気がした。獰猛な肉食獣は鳴りを潜め、大型の草食獣にでもなったような、そんな感覚。
    「食べ回し、とか」
    「……は?」
     重ねられた言葉。彼がなにを言おうと、三ツ谷は意味がわからなかった。なにを指しているのか。そのままそう尋ねれば、「パイ」と短く返答があった。
     パイ、パイ。それはもちろんさっき口にした人気のあれだろう。『ああやってる』『食べ回し』『パイ』。それらの点をつなぎ合わせて、三ツ谷はせっせと答えを探し出す。
    「……あ」
     そしてそれはつながった。いやしかし、だが、それでどうして、機嫌が悪くなるのか。そしてまた考えて、思いついた。
    「……人の口つけたもん食えなかった?」
     世の中には潔癖症という存在がいる。伍番隊の副隊長が正しくそれで、良く怒鳴り散らかしているのを見ていた。もしかして大寿もそうなのか。ならば無理強いしたことは悪かったし断ればいいのにとも思った。悪かったな、そう口にすれば、恐ろしいほど大きなため息をつかれてしまった。
    「なんだよ、誤ってんじゃん」
    「いや、そうじゃなくてだな」
     草食獣の瞳は、珍しく泳いだ。キョロキョロと周りを伺ってから、三ツ谷の髪に触れそして。
     そっと、額にキスをした。見えやしない、見えるわけはないが、正しくそれは、そうだっただろう。
    「……へ?」
    「わかってねえなら、もちっと色々考えて行動しろよ」
    「え、いや、大寿君顔赤くなってんじゃん」
    「うるせェ!」
     見上げる顔は、ほんの僅か赤く染まっているように思う。身にまとう機嫌の雰囲気とは違うポイントに、三ツ谷はまるで初めて赤面した人間を見たように、驚いてしまった。
     いや、それにしても。その行動と言動は一体なんだ。それはまるで、いや、そんな訳はないのに。
    「……間接キス、だったから……?」
     そらされた顔は、答えだと言っているような気がした。そんな、まさか。彼にとってその対象が、自分だ、なんて。
    「……そっかぁ……」
     不思議と悪い気はしなかった。彼の機嫌を伺うのも、損ねないよう気にしてしまうのも、メールでは無難な返答しかできないのも、すべては彼と、これからも親しくしていたいからだ。
    「もう少し、オトモダチでもいい?」
    「ああ……」
     いつかは返事がほしい。ついでのように付け足された言葉は、間接キスひとつでまごついていた男とは思えないほど真っ直ぐで、ストレートな感情だった。
     そもそもコクハク、されてねェけど。三ツ谷がそうツッコむ前に、「もう一件行くぞ」とまるで居酒屋をはしごするかのような言葉を投げつけられてしまった。掴まれた腕はそれは優しくて、嫌なら解けと、そう言っているようだった。
     だが、そうしない。そうしなかったのは、やはりそれに悪い気はしなかったから。三ツ谷は大寿の後を追い、「次はどこ行くの」と尋ねた。
    「……ここらに営業時間の長い手芸屋があるから」

     その言葉に、今日にでも返事をしてやろうか、なんて思った、三ツ谷であった。
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    DONEエアスケブひとつめ。
    いただいたお題は「買い出しデートする二人」です。
    リクエストありがとうございました!
    中央の市場は常に活気に満ちている。東西南北様々な国から商人たちが集まるのもあって、普段ならばあまり見かけることのないような食材も多いらしい。だからこそ、地元の人々から宮廷料理人まで多種多様な人々が集うという。
     ちなみにこれらは完全に受け売りだ。ブラッドリーはずっしりと重い袋を抱えたまま、急に駆け出した同行者のあとを小走りで追った。
     今日のブラッドリーに課された使命は荷物持ちだ。刑期を縮めるための奉仕活動でもなんでもない。人混みの間を縫いながら、目を離せば何処かに行ってしまう同行者を魔法も使わずに追いかけるのは正直一苦労だ。
    「色艶も重さも良い……! これ、本当にこの値段でいいのか?」
    「構わねえよ。それに目ぇつけるとは、兄ちゃんなかなかの目利きだな。なかなか入ってこねえモンだから上手く調理してやってくれよ?」
     ようやく見つけた同行者は、からからと明朗に笑う店主から何か、恐らく食材を受け取っている。ブラッドリーがため息をつきながら近づくと、青灰色の髪がなびいてこちらを振り返った。
    「ちょうどよかった、ブラッド。これまだそっちに入るか?」
    「おまえなあ……まあ入らなくはねえけどよ。せ 1769