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    karanoito

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    karanoito

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    鬼+狐+白

    甘過ぎるお祭り

     変わり映えのしない夜店が立ち並ぶ祭りの参道の筈だが、何だかチョコバナナの店が目立つ。この店で四つ目だ。チョコの甘い匂いに狐面の下で顔が歪んだ、散策しているだけで漂ってくる匂いが正直きつい。
    「チョコバナナの店、多いですね」
    「そうかい? 他の店の事は知らないけど、ウチは普段からコレー本だよ。お祭り(?)らしいから便乗してる店も多いんだろね」
     お祭りって、ここは年中祭りなのにどういう意味だろう。
     と言う訳で食べてきなよ、とバンダナを頭に巻いた青年が、バナナを差した割り箸を鼻先に突きつけてくる。丁重に断って狐面の少年は再び祭りを散策する。
     よく見るとあちこちに女性の姿をした怪異が集まって、笑い合い、熱心に何かを語っている。みな楽しげで祭りが華やいで見える、そんな彼女たちの横を通り抜けて飴屋の前に辿り着いた。
    「やあ、坊ちゃん。塩梅はいかがかな」
    「こんにちは。あの、何の話でしょう」
    「ちよこれいととか言うお菓子はもう食べたかい、女性から男性に贈り物をするお祭りらしいね」
    「……もしかしてバレンタインですか」
     そう言ってたね、と飴屋の青年は貰ったチョコバナナをくわえてかじった。祭りではなく記念日なのだが、どことなく楽しそうだったので黙っておいた。
     暦も知れないデタラメな世界でもそれは許されるのか、彼女たちはチョコレートを手に楽しく祭りを練り歩いて、男女動物問わずに配っている。
     この逢魔ヶ時の祭りが何の神を祀っているかは知らないが随分と女性に甘い神だ。
     りんご飴を買ってから道を引き返す途中で、少年の甚平の裾を引く細く白い手。出会った白い少女は、もじもじと背中の後ろで手を組み合わせ、白い頬は仄かに染まって少年を見上げた。
    「どうしたの?」
    「あの……これ、受け取って……」
     渡されたのは手のひら大の四角い包み。こんな場所で義理チョコを買う事になるとは。食べられるかは別として、有り難く受け取っておこう。
    「ありがとう。よかったらお返しに何か贈るよ、ほしい物はある?」
     あのね……と少女が背伸びして耳打ちする内容を聞いて、分かったと頷く。また今度ね、と少女は微笑んで去って行った。
    「随分と微笑ましい光景だなーと見守ってたらそのまま別れるのかよ、この朴念仁。ここはあの子と一緒に周る選択肢一択だろ、やり直し。ほら追いかけろ」
    「デバガメか君は。てっきり姿を見せないと思ってたのに」
    「せっかくアドバイスしてるのに無視るなって。相変わらず冷たいなー」
     おもむろに肩を抱く、鬼の字が入った目隠しの少年からは酒の匂いしかしない。甘ったるい匂いよりは幾分ましに思える自分はどうかしている。
    「一人か。女性を侍らしてないのは意外だった」
    「偏見良くない。いや侍らすのはいいけど、何かノリが違うんだよ。日時が合ってるかも知れないのによくやるよなってのが素直な感想、遠巻きに傍観してたわ。貰える物は貰うけど」
    「そうか」
    「女の部分が強く見えるからかな? 甘過ぎる匂いは毒なんだよなあ。
     と言う訳でまだまだ終わりそうにないし、追いかけないなら校舎の方に避難しようぜ。お前も浮かない顔してるし」
     面で隠れてるのに何で判ったんだろう。祭りから出ればさすがに匂いも届かないには同意だ。
     鬼の手に引かれて甘過ぎる匂いを後にした。

    2015.2
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