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    karanoito

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    karanoito

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    鬼×狐

    幻想の寝物語

     怖い話は好きかと目隠しをした鬼は尋ねる。首を少し傾げて、別にと気のない返事をしても、結局は寝物語に聞かされるのだからどちらでも結果は一緒だった。
     二人分の温もりが残った寝床の中で、彼の語る噂とも真実とも言えない怪談話を耳にする。今日は怪異に狙われた一人の少年の話らしい。
    「……ひたひたと足音は付いてくる。怯えながら少年はそれでも前に進むしかなかった」
     訥々と物静かに語る口振りに、聞くともなしに枕に押し付けた耳を傾けて、狐の怪異は欠伸を堪えた。勿論、怪異に追いかけられる人間の話なぞ怖くも何ともないに決まっている。同じ怪異の話の何を怖がれと言うのか。
     それでも眠りに入る直前の虚ろな耳に流れる声は心地よい。話す方も何処となく楽しんでいるのが判って睡眠への導入に丁度よかった。
    「それで少年はどうしたと思う?」
     話の続きを唐突に向けられて狐は微睡んだ視線を鬼へと返す。度々寝床を共にするが、話を振られるのはこれが初めてで若干戸惑った。
     これは続きを催促してほしいのか、いつものように聞いてないでは済まされない空気がありありと伝わって、横になったまま狐の少年は小さく口を開いた。
    「少年が怪異に捕まって」
    「うんうん、捕まってそれから?」
    「……行方知れずになったんだろう? 君が好みそうな展開だ」
     ちゃんと聞いてたんだなと満足そうに頷く鬼の微笑みを容赦なく目蓋で閉じる。たとえ筋書きにまるで掠っていなくても彼は満足した笑みを浮かべたんだろう、と。
     次に開いた時にはもう何もなくなっていた。寝床には一人の姿しかなくて、小柄な少年が寝そべって眠そうに目を擦っているだけ。
    「…………」
     最初から独りだ、何もない。布団に残る温もりも耳に囁きかける声も何も在りはしない。狐はずっと独りきりだったから。独りで眠って、こうして独りで起きる。
     脱ぎかけの甚平が肩から落ちるのを支えて少しばかり期待する。首筋に指を沿えたら有り得ない口付けの跡が残ってやしないかと。
     鏡の中には乱れた寝姿で覗き込む少年の鎖骨が白いまま写って、やっぱりそうかと鏡面を手のひらで撫でた。
     あんなに心地好く眠っていたのに残念だな。鏡の中からそんな声が聞こえた気がして、
    「ああ、本当に」
     あの寝物語がもう聞けないなんて何とも酷い話だ。鏡の向こうの少年が力なく微笑んでいるのが本当に残念だった。

    2015.2
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