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    karanoito

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    karanoito

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    仁&新 30日CPチャレンジ

    Shopping ─ショッピング

     誕生日をお子様ランチで祝われて数日後、そう言えば命令がまだだったなと思い出したように新が呟いた。あの屈辱が蘇って頭を抱える仁を一瞥し、一瞬間を置いた後、彼はよしと軽く頷いた。
    「明日の休みに買い物するから付き合ってくれ」
    と命令を口にする。それが荷物持ちだと知ると露骨に仁の顔が緩んだ。どんな嫌がらせが来るかと思っていたから安心もひとしおだ、荷物持ちなら慣れてるしと易々と引き受けた。
     まず彼が荷台を持参して待ち合わせに現れた所で引き返すべきだった。訝しげな視線を落とす仁にそれを手渡して、軽い足取りでデパートに向かう。
     開催されていた物産展の入り口を眺めつつ、ここは後にしようと踵を返す。最初は軽い物からと決めていたらしく、タオルや洗剤、スポンジ等の消耗品を無表情でカゴに詰める彼の後ろを付いていく。取りあえずここはこれだけと袋を二つ下げて、次に向かう。
     熱心にメモと見比べながら品定めをする彼の横で、何気なく覗き込んだメモの量に思わず声が出た。
     売り場の地図を引用して何をどれだけ買うかまとめて、回るルートの順番まできっちり練り込まれた完璧な計画書。それがメモ帳五枚に渡ってびっしりと書き込まれていた。
    「……まさかそれ全部回る気なの?」
    「当たり前だろう、何の為に朝から出かけたと思ってるんだ」
    「オーブンや電子レンジもメモってあるんだけど」
    「冷蔵庫も見たかったんだがさすがに運べないから止めておいた」
    「配達使えよ……じゃなくて、オーブンやレンジも無理だから!」
    「大丈夫、君なら出来る。……待て、どこに行く気だ?」
    「ちょっとトイレに」
    「別に逃げても構わないが……そうだ、また君の好きなアレを作ろうかな。作ったら今度は天気のいい日に公園にでも持って行くとするか。橋本と貴文も誘ってみんなでピクニックしよう」
     恐ろしい提案を淡々と述べるその顔が悪魔に見える。
     どうした、行かないのかとまたカゴに一つ山が増えた。
     分かったよ、最後まで付き合えばいいんだろ。
     苦虫を噛み潰したような顔で、カゴを横取りした仁を満足そうに見上げて微笑んだ。
     オーブンやレンジは冗談だったにしても、鍋やフライパンはあった。最後に夕飯と思しき食料を乗せた時には、冷房の下でうっすらとかいた汗を拭うくらいには疲れた。運べる程度には重く、崩れる事なく高さを保つその采配振りに舌を巻く。一晩でどれだけ綿密に計画したんだと恐れ入った。
    「ほら、君の分だ」
     最後にすると言っていた物産展で買ったソフトクリームを新が突き出した。デパートの中を上に下にと連れまわされて、疲れた体には有り難いが両手が塞がっている。あそこで食べるかと通路脇の備え付けのベンチを指差した。
     あー、疲れたと後ろに腕を伸ばして寛ぐ仁の隣で新は黙々とソフトクリームを舐めている。一仕事終えた気になっていたが、まだこの荷物の山を家まで運ばなきゃいけないのかと思うとどっと疲れが蘇る。
    「溶けるぞ」
    「ああ、うん。頂くよ」
     手の中の半分溶けかけたソフトクリームに口を付ける。
     さすが本場のミルクを使ってるソフトクリームは美味い。視線は目の前に向けられて、隣で新がどんな顔をしているか気にしなかった。先に食べ終わった新が仁の方を向いて、小さく笑った。
    「口に付いてる」
    「えっ、どの辺」
     ここ、とポケットティッシュで拭き取られて。やっはり小さい子供みたいだな。と常套句になった言葉を繰り返し、おかしそうに笑う。そういうお前は主婦だよな。と積み上げられた日用品の類に目をやるとそれは仕方ないと口を尖らせた。
    「普段買えない物を選んだらこうなったんだ」
    「オーブンやレンジとか?」
    「あと冷蔵庫や乾燥機、掃除機も。……掃除機なら何とか乗りそうだな、やっぱり買っていいか?」
    「止めろ。だからそのチョイスが主婦の発想なんだよ」
    「しかし必要な物だろう」
    「もっと何かあるだろ、健全な男子高生ならさ」
    「たとえば?」
    「……オカズ用の写真集とかDVDとか? 可愛い彼女がいればそれでいいけど」
    「駄目だ、軽い物だと荷物持ちにならない」
     やっぱり重いのばかり選んでやがったなコノヤロ。
     食べ終わったソフトクリームの包み紙を捨てて立ち上がった。無事に帰るまでが命令だ。荷台を押そうと持ち手を握る前に先に新がそれを握った。
    「今日は助かった。ありがとう」
    「お前それ一人で運ぶ気?」
    「俺の買い物だから」
     そう言って運ぼうとするが荷台はびくともしない。さては自分で運ぶの計算に入れてなかったな。
     俺が運ぶからとハンドルを奪うが新は手を放そうとしない。
    「無理だって。諦めろよ」
    「いや、持って帰る」
    「どうやって?」
    「…………」
    「いいから。命令だから最後まで運ぶって」
    「これ以上は君に悪い」
     そう言ってくれるのは有り難いけど一人じゃ運べないだろ、と言いかけた代わりにハンドルを外側から握った。
    「だったら二人で運べばいいじゃん、それで解決。な?」
     名案だろと斜め後ろから覗き込んだ仁に、渋々ロを結んで頭を垂れる。よし、今度は言い負かしてやったと得意げに笑う。
     結局、二人で荷台を押すのは歩きづらいからと、袋を両手に抱えた新の隣で仁が荷台を押して。
     すっかり日が落ちた夕焼け空の下を二人並んで帰った。

    2015.4
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