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    karanoito

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    POIPOI 205

    karanoito

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    黒うさぎと狐、鬼、白

    どこでもいっしょ

     窓の外は満月。
     空に浮かぶ月があまりに綺麗だったのでもっとよく見える場所に行こうと彼は歩き出した。のそりと大きい足をゆっくりと動かし、階段を降りていく。
    「ぶどう飴はいらないかい?」
    「おや、随分と体が大きいですね。それでは小屋に入らないので形を変えて差し上げましょう」
    「寄ってらっしゃい見てらっしゃい、見せ物小屋間もなく開演でこざいます。今宵のお供に如何? ぜひお入り下さいまし」
    「雛(ひよこ)は要らねぇかい、一匹百円だ」
    「お散歩? 今晩はいい月夜だものね……」
     途中、幾人もの怪異や人間とすれ違いながら廊下を進んで、現れた祭りを抜けていく。白い月を横目で追いながら、黒い姿は校舎から体育館の渡り廊下へ。さしかかった所で、きゃ、と小さく上がった悲鳴に足を止める。白い少女が真正面から見上げて、ごめんなさいと謝った。
    「どうした?」
    「あの……うさぎさんにぶつかっちゃって……」
    「へー、うさぎね……って、うお、デカ!」
     少女の声につられて二人の少年が顔を出した。白い狐面を被った小柄な少年と黒い目隠しをした長身の少年。ああ、君かと狐面の少年が声を和らげて黒いうさぎに近付いた。知り合いの少年と彼は小さくこんばんは、と挨拶を交わす。
     どこへ行くのかと訊かれた彼は満月と答えた。
    「うさぎだけに餅つきに?」
    「彼はうさぎだけど怪異だろう……そうか、お月見か」
     俺たちと一緒だと少年は月を仰ぐ。三人もこの渡り廊下に月見に来ていた。見晴らしのいい場所を探してたどり着いた先は同じだったらしい。お団子食べてたの……と少女が串団子を彼に見せる。
    「君ならここでもよく見えると思う」
    「お団子、あげるね」
    「月見っても団子食べてだべってるだけなんだよな」
     三人の隣に立って空を見上げる。彼の肩に乗った白いうさぎと同じ、白い満月がそこにあった。
    「綺 麗 な 月」
     君のように白くて綺麗な満月だから二人で一緒に見たかったのだ。
     呟くと君の白い耳が動いた気がした。君たちはいつも一緒だな、そう言った狐の少年の言葉には少し羨ましそうな響きが混じっていて。
    「なに、羨ましいの? お前が寂しいなら一緒にいてやるけど」
    「私も……いるよ?」
     寂しいなんて言ってないだろう、とうさぎの隣で年は顔を背けた。今のままで充分だと思ってるのが判った。
     それでも偶には寂しくなる時もある訳で。
    「えっ?」
     ひょいと小柄な少年の襟首を掴んで肩に乗せる。慌てふためいた少年が思わず垂れた黒い耳を掴んで、それを見た目隠しの少年が指を差しながら笑った。
    「チビだからって落ちるなよ~」
    「……身長は関係ないだろう」
    「んな上から刀向けるなよ! コワイわ!」
    「うさぎさん、もふもふ……」
    「み ん な 一 緒」
     渡り廊下に楽しそうな声が木霊した。

    2015.4
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