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    karanoito

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    POIPOI 207

    karanoito

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    仁×新

    人質を取った時点で負けフラグ

     手の中には彼の大事な鍵が握られている。多分、これが失くなったら困るだろうと思われる大事なもの。それを気を失った彼の首から外して仁は嗤った。
     からかうだけじゃ物足りない、もっと追いつめて貶めたい。みすぼらしいボロ雑巾になるまで傷つけて、自分から離れられないくらいに優しくしたら突き堕とそう。膨れ上がった歪みを実行に移す事にした。
    「俺の言う通りにしてくれたら教えてやってもいいけど?」
     チェーンに通した鍵を見なかったかと問いかける新にこう答えて、どうする? と仁はおどけて笑う。
     逆らっても事態は変わらないだろう。頭を頷かせる新を連れて保健室に移動する。
     ベッドに腰掛けて、手始めに下脱いでと命を下す。返ってくるのは渋面と疑問だ。
    「何のために?」
    「意味がなくちゃいけない?」
    「からかってるだけなら教室に帰って探す」
    「そう。見つかるといいな?」
    「…………」
     いつもと変わらない筈の明るい瞳が薄ら寒くて、どう動くのが最良か解らなくなる。どこかに落とした可能性はゼロじゃない、でも教室に一緒にいた彼が一番疑わしくて。
     俯いた口が開くのを焦る事なくベッドの上で待つ。どうせ答えは分かりきっている。
     ベルトの金具を外してズボンからするりと素足が覗いた。靴下を脱ぎ床に揃えて立つ両足。
    「物分かりがいいね」
    「それで鍵は……」
    「こっち来て」
     愉しげに手招きして腕を広げる。
    「はい、次はキス行ってみよっか」
    「教える気ないだろう」
    「それはお前次第かなー」
    「……目、閉じてくれ」
     これでいいかと机にあった人形を鷲掴み、唇を湿らせたそれを押し当てる。その間に胸ポケットを探り、ズボンのポケットを弄った。
     探り当てたチェーンを掴んで中から引き抜いた。そこにはハズレと書かれた輪っかがぶら下がるのみ。
    「残念でした」
    「……っ、人を馬鹿にするのも……!」
    「お前も騙したんだからお相子だろ」
     低い声が新をぶつ。瞼を開いた中の瞳はまっすぐに非難をぶつけて、人形を新に押し返した。それは受け取られないで床に滑り落ちる。
     振り上げた腕は彼に届かない。指輪を握り締めて、歯を食いしばる。
     何でこんな嫌がらせをされるのか分からなかった。その辺にある鍵にしか見えなくても新にとっては代え難い大事な物なのだ。失ったら生きていけないほどの。
    「大事な物って言ってもお前にとってその程度のものなんだな」
    「……君に何が分かるんだ」
    「身を削りもしないで取り返せる程度の物なんだろ? 大事な物なのに大した事ないのな」
    「そんな事……」
    「本当に大切なら何をしても取り返そうとするもんじゃないの? したくないってことはつまり」
     唇を塞ぐ。無理矢理押し当てただけの唇は不躾でキスとも呼べない代物だったが、腰を抱く仁から不満は沸いてこなかった。
     放した後も頭に上った血は冷めなくて、静かに怒り続ける新の眼前にチェーンがぶら下がった。慌てて引ったくったチェーンにはちゃんとあの鍵が付いていて。チャリン、と指から抜け落ちたハズレのチェーンが床に転がる。
     ご苦労さん、と労う仁の言葉に耳を貸さずただそれを握り締めた。
    「じゃ次は」
    「……もう鍵は見つかって」
    「そんなのお前の都合だろ。こんな中途半端で終わらせる訳ないって分かんない?」
     ベッドに乗り上げたままのふくらはぎを撫で上げて、仁の手は直に腰に行き着く。
     彼が何を考えてるのか分からなくなって、瞬きを繰り返す間に細い体は腕の中に閉じ込められて。
    「屈辱だ」
    「まだ何もしてないのに」
    「止める気なんかないくせに」
    「その為に脱がせたんだし」
    「だから屈辱なんだ」
    「諦めたら」
    「断る」
     強がっても力比べは明らかに分が悪いし、他に抜け出すいい方法も浮かばない。視線を巡らしても警備帽しか見つからなくて、帽子なんか今は何の役にも──
     ……警備帽?
    「お前たち、そういう事は向こうに戻ってからにしろ」
    「先輩」
    「……誰?」
    「月曜に助けてもらった事覚えてないのか」
    「月曜って何かあったっけ?」
    「いや、何でもない。 ……あの、誤解ですから勘違いしないで下さい」
    「……何でもいいが怪異には近付くなよ」
     仁を押しのけて先輩に駆け寄って説明しようとするが、一瞬目を向けただけですぐに逸らされる。後、ちゃんと服を着てから外に出るようにと言いつけて、警備帽の少年は廊下に消えた。
    「なあ、続きー」
    「すると思うか」
     チェーンの付いた鍵を首に下げて冷たく呟く新。すっかり拘束する雰囲気では無くなっていた。

    2015.5
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