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    karanoito

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    POIPOI 207

    karanoito

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    主人公とA

    今日もAの傍にいる

     今日もAとの諍いは絶えなくて、少しずつわだかまりが募っていく。根本的にそりが合わない相手と兄弟をやれというのが土台無理な話だった。まとわり付く弟が鬱陶しくて堪らない。
    「何を怒ってるんですか」
    「お前が小煩いからだ」
    「夕飯のおかずを聞いただけなのに、ひどい」
     別に夕飯のおかずが気に入らなかったとか小さい事で腹を立てたりしない。目が合えばうれしそうに顔を綻ばせて寄ってくるのが少し煩わしいだけだ。ロに出すと泣かれるから言わないが、頼むからうれしいのは自分だけだと自覚してほしい。本当に。
    「この間の荷物持ちで荷物が多くなって重かったから?」
    「違う。夕飯を作るなら作るで黙って作れ」
    「だったら、この前夕飯の支度を手伝ってもらった時火傷しかけた事ですか」
    「それはお前だろう」
    「その後手当てしてくれましたよね」
     だらしなく頬を緩めて人参の皮を剥く。その隣でキャベツを洗いながら知らない内に口からため息が零れ出ていた。いちいち噛み締めるように人のした事を振り返るんじゃない、そういう所がだな。
     何だかんだ文句が出るのは気を許している証拠だとは決して認められない、人外に絆されて痛い目に遭うのはこちらで、相手は痛くも痒くもない。
     だから近づかれても離れてを繰り返して、情が移らないように。
     いなくなるまでの辛抱だと言い聞かせて、今日も笑うAの傍にいる。
    「すみません、ちょっと焦げ味が残ってますね」
    「このくらい問題ないだろう」
     そうですかと安心したように微笑うAの向かいでスプーンを口に運ぶ。二人きりの食卓は静かなものだったが、思い出したようにAが喋り始めて、それに相槌を打ってる間に食器は空になっていた。
     お代わり装いますね、と食器に伸びた手のひらは軽く握っただけで折れそうな程にか弱くて、易々と触れる事は躊躇われる。
    「……どうぞ」
    「ああ、すまない」
     曖昧に微笑って肩を竦める弟は少し寂しそうに見えたが、気付かない振りをして受け取った。

    2015.5
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