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    karanoito

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    karanoito

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    仁×新 お題「水たまりだけが知ってる」

    水たまりの上に落ちる影

     突然降り出した雨は見る見るうちに足下に溜まっては靴底を濡らした。梅雨の中休みだから雨雲は素直に休んでればいいのに。新は駐輪場に停めてある自転車のハンドルに手を乗せたまま、上向いた頭を傾げる。
     すぐに止むだろうし濡れて帰ってもどうって事はない、でも何となく足を止めてしまった。風が無いから駐輪場の屋根の下で待っていても問題はない。さて、どうしようか。
    「すぐ止むかな……」
     屋根を打つ雨粒に耳を傾けるでもなく傾ける。屋根が途絶えた地面をじわじわと浸食する水たまり。立ち止まってしまった足を上げるのは億劫で、ハンドルから手を離し、横からサドルにもたれかけた。少し待ってから帰ろう。決まると自然に肩から力は抜けた。
     こういう時、迎えに来てくれる家族がいればと思わなくもなかった。車なんて贅沢は言わない、傘を持って名前を呼んでくれるだけでいい。
     急な雨に困った顔で笑い合える、そんな気を許した家族がいたらよかった。
    「待ったー? なんちゃって」
    「待ってない」
    「いや分かってっけど、たまにはノってくれてもいーじゃん。大方雨宿りとかだろ」
     軽いノリをすげなく切り捨てる。物思いに耽ってたから、仁が顔を覗き込むまで気付かなかった。明るい茶髪を覆う傘が見える。姿が見えなかったからもう帰宅したのだと思い込んでいた。
    「まだ学校に残ってたのか」
    「帰り際、先生に捕まって有り難ーいお言葉と軽く補習を頂いてました」
    「日頃の行いだな」
     二年の遠藤仁と言えば髪は茶色に染めてるし、気まぐれに登校して平気で遅刻する。やる気のない不真面目な生徒である彼の存在は目の上のたんこぶなんだろう。
     彼はへらりと笑って懲りない。おそらく説教をしても右から左へ聞き流して碌に聞きもしない。
     肩に傘を背負った仁が自転車に鍵を差し込むのを見ていると、お前は帰らないの? と訊かれた。
    「雨が降ってるから」
    「マジで雨宿り中かよ。もしかして傘持ってないとか?」
     小さく頷く。どうせ馬鹿にしてくるだろう彼からあっさり視線を外して、灰色のコンクリートを眺める。幾重にも重なった水たまりは未だ増えるばかりだ。
     自転車を二輪挟んだ向こうでは、仁が口元に手をやり、肩に乗せた傘に一度視線を移してから頷いて。
     それから、視界に影が落ちるのと同時に仁の明るい茶髪が間近に映った。
    「じゃあ一緒に入ってくか?」
     端正な顔を軽く傾け、微笑んで傘を差し出す。彼にとっては何気ない提案だったんだろうが、新は違う。
     きっと、ひどく間の抜けた顔をしているに違いなかった。息が詰まるのを制服の胸元を握って誤魔化す。
     ……誰か迎えに来てくれたらいいのに。そんな考えを見透かされた気がして落ち着かなかった。

    2015.8
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