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    karanoito

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    karanoito

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    仁×新+先輩 診断メーカーのお題より「初めて会った時似てると思った」「素直じゃないとこもかわいいけれど」

    勘違いジェラシー

     異界の端で聞く仁の昔話。彼の願いはただ一つ、幼い頃に迷い込んだ楽しい世界をもう一度。おぼろげな記憶に惹かれ、この高校に辿り着いた仁にまんまと手掛かりを与えてしまった。異界の生き証人である逢坂新という最大の手掛かりを。人嫌いの彼が執着するのも無理からぬこと。
     似てると思ったよ。紐解いた記憶の中で出会った白い少女と警備帽を被った男の子。祭りを懐かしむ声に胸がざわざわと苛立つ。君は寂しそうに笑いながらも、諦めの中に見出だした希望のひとかけらを隠しもしないんだ。
     警備帽を被った男の子、というのがあの人を指すならとんだ人違いだ。君は先輩に会っていないから、同じ空気を持つ俺を身代わりにしているだけだ。人のことを人間じゃないと散々言っていた根拠が勘違いなんて、つくづく救われない。
    「一つ訊きたいが、もし俺と異界が全然関係なかったら……」
    「わざわざ近づかなかったと思うけど? 人付き合いとか面倒だしな」
     やっぱりそうか。
    「話はそこまでにして今すぐ鳥居から離れてもらおうか」
    「あんたは……」
     鳥居に現れた先輩を見た仁は目をしばたかせ、俺と彼を見比べる。結果、先輩の方に軍配を上げた。
     ざわめいた胸元を握り締める。そっちが正しい思い出の人なのは解るが、仮にも友達として一緒にいた日々より、たった一度の祭りの方が彼の中では上だったのだ――
     そんなのは……ああ嫌だな。
     この時初めて警備帽の少年に嫉妬を覚えた。
     ――ノックの音に顔を上げる。苛々していると決まって兄さんが部屋にやってくる。今日もいいか? とクッキーを乗せた皿と数冊の雑誌を小脇に抱えた彼を見上げて、頬を緩ませた。
     ノックの音が聞こえるとほっとしてしまう、ドアの向こうから聞こえる柔らかい声は確かに兄が存在する証だから。
    「悩み事か?」
     胸と膝の間にクッションを抱え込んだ俺の向かいで兄さんが雑誌を捲る。彼は日がな、いなかった七年間を知りたいとテレビや雑誌に目を通し、弟が過ごした日々の話に耳を傾ける。あの頃から現代までを少しずつ振り返るように。
    「違うよ。兄さんには関係のないことだから」
    「いいから話してみなさい。吐き出すだけで気が楽になることもある」
    「……」
     文化祭前日、金曜日の話をすると納得したように頷いた。
    「だからまとわりついてきたのか」
     駄々をこねる仁を無理矢理引きずり、こっちの世界に戻した先輩。むこうへ飲まれることなく帰還した後から彼はよく兄さんに懐いている。
     先輩に幼少の仁を、仁に兄を取られたみたいでちょっと面白くない。
    「教えてやらないのか」
    「なにを?」
    「遠藤の話に出た警備帽を被った少年というのは俺じゃない。新、お前のことだろう?」
    「……さあ」
    「眉間にシワが寄っている」
    「知らない」
     クッションに顔を埋める。素直じゃないな、と机を挟んだ向こうでため息をつく兄さん。
     九月の文化祭を終え、月を跨いでもまだ逢魔ヶ時の記憶は鮮明に、頭から消え去らない。先輩だったはじめ兄さんも、継ぎ接ぎの怪異に追われた少年Hだった仁もしばらくしたら忘れるのだろう。それを寂しがるべきか喜ぶべきか判断は付かない。
    『……さようなら、元気で』
     手を振って送ってくれた少女とももう会えない。助けられなかった君をこのまま忘れるのは卑怯な気がして心苦しい。でも、仁や兄さんには早くむこうのことを忘れてほしい。そう願わずにはいられない。子どもじみた二律背反。
    「兄さん」
    「何だ」
    「折り合い付けるの……もう少しだけ待って」
    「ああ、お前の好きにしたらいい」
     もう少しだけ兄の大きい手に撫でられながら不貞腐れていたい。



    『昔の文化祭のこと? よーく覚えてますよ』
    「むこうの世界で子どもに会っただろう」
    『会いましたね。でもアレ先輩じゃなかったんでしょ? 最初はあの子が大きくなったんだって勘違いしたけど白い子はそのまんまだったし。いや、知ってた訳じゃなくて話してる内に違うなって気づいたって感じ』
    「あの子どもは……」
    『あんまり似てたからおにーさんだと思ったんですけどね、年の頃も近いし。雰囲気とか背格好とか色々こう……ね?』
     携帯の向こうで笑った気配がした。遠藤という少年はいつでも笑みを絶やさない、最早癖になっているのだろう。人懐こく笑う反面、口を開けば嫌味の応酬では弟でなくとも堪ったものではない。それでも新とは馬が合うらしく、何だかんだと一緒にいる。弟がいいと言うなら兄としては見守る他ない。
    『間違えたことまだ根に持ってるのかな? 何をヤキモキしてるんだか……素直になればいいのに意固地なんだよなアイツ。そんな所もかわいいけど』
    「気づいてるならそう言ってやったらどうだ」
    『やだなー先輩、俺がこんな面白いこと見逃すタイプに見えます?』
     ……面倒くさい男だ。新も頑固な方だがどっちもどっち。思春期の男子高校生とはこんなものだろうか。二人共全くもって素直じゃない。

    2016.7
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