気づかれない好意
「なあ、逢坂先輩。アンタのこと好きになったんだけどいいか?」
荷物を持って廊下を歩いていた先輩に後ろから追いつく。気づいた肩が振り向いて、静かに立ち止まった。
「遼」
昼間の学校で会うのは初めてだけど、やっぱり小さくて細いな。
ああ、ありがとう。先輩から返ってきた言葉がそれだった。利かん坊の後輩に懐かれてうれしいとしか思ってない横顔。駄目だ、ちっとも伝わってねえ……
「驚かねえのな」
「出逢った時に言っていただろう、君が気にしていた彼と俺が似ている、と。好意を抱く理由には十分だ」
その言い方だとアイツの代わりみたいじゃねーか……全然違うっての。ちっと小さく舌打ちが出る。
先輩がアイツに似てる? どこがだよ。確かに、初対面の印象はそれだけだった。けどあの水曜日を経た今、そんなこと微塵も感じるはずないだろうが。
会ったばかりの一後輩でしかない俺の言うことをあっさり信用して、心細そうだからと傍にいる奴がそうそう居てたまるか。アイツの話を聞いて、無意識にモヤモヤしていた胸の内を晴らしていったのは逢坂先輩、アンタしかいないんだよ。
背中を預けてくれたあの一言がどれだけ頼もしかったか。あの夜は散々だったけど、丸眼鏡をすっ飛ばした瞬間は最高に気持ちよかったからな。あの時だけはアンタもスカッとしたんじゃねーの? 伸びた丸眼鏡を見て笑い合うくらいには愉快になったよな?
貸せ、と腕に抱えていた何かの箱を取り上げる。中身が詰まっていてそこそこ重い。どこに向かっていたかは知らないが、多分これを片付けに行く途中なんだろ。
「助かるが重くないか?」
「ああ? これくらい重い内に入らねーよ」
「そうか、頼もしいな」
それじゃ倉庫まで頼む、と先導するように歩き出す。先輩面は相変わらず。
「一人で片付けとかよくやるな。アンタ本当にパシられてねーの?」
どうせ片付けを押し付けられたんだろうと決めつけて隣に並んだ。違う、仁に逃げられただけだと呟く端から不愉快さが滲み出る。ジンってよく一緒にいるあのチャラい奴か。いかにも笑って押し付けそうな顔してるしな。
相性がいい風にはとても見えないのに、何でかいつも隣にいる。あれか、悪友って奴か。丸眼鏡みたいに一方的に絡まれたりしてねえだろうな?
「困ったことがあるなら言えよ、助けてやる」
「そうだな。ありがとう」
細い指が戸を横に引く。また、ありがとうか。けど、さっきより気分は悪くなかった。
2020(R2).9.23