二人の好き嫌い
アレから庇ってくれてありがとう。うれしかったと新と同じ顔をした相棒が微笑む。
「おれたち相棒だからね、当然だよ! 相棒のピンチは助けなきゃ」
「でも君の友達はあっちの方で」
「君もあらたで、おれの相棒でしょ? 両方助かったんだからこれでいーの」
ところで君は食べないの? と千隼が指を指した先は食べ物屋の屋台。フランクフルトに焼きそば、たこ焼きまで選り取り見取りだ。
「いや、俺は別に」
「最後だし一緒に食べようよ。トマト食べれる? ピーマンは?」
「…………俺は人形だし、食べれなくても……」
「うん。あのね、君も嫌いなものが食べられるようになったら、あらたの味覚が戻った時、君の分も好き嫌い減ってるんじゃないかなあと思って」
「なるほど、二人だから二倍かあ。ちーちゃん賢いね~」
「……っ、ちょっと待ってくれ、ちはや」
血相を変えた新が隣で振り返る。手にした焼きそばのピーマンはまだ手付かずのまま。新が焦るのも無理はない、この理屈が通るなら嫌いなものを一度に二倍味わうことになるから。
試すだけ試してみようよ、ね? さりげなく逃げようとしていた相棒の首根っこを掴まえる。どれがいいかな~、と笑顔で検分を始める千隼の横で青ざめていく人形の新。
「焼きとうもろこしは平気なんだっけ? ピーマンの肉詰めとかないかな?」
「ひっ」
「さすがにピーマンの屋台はないと思うよ、ちーちゃん」
「千尋兄さん、笑ってないで止めてください。お願いですから……」
「ごめんね、これも新くんの為だから」
「う……」
弟に激甘な千尋が反対するはずもなく、肩を叩いて慰められるだけ。
「あ、じゃがバター! おいしそうだよ、これならどう?」
「……チャレンジしてみる」
涙目になっているが相棒には逆らえないらしい。どうしよう、違う意味で外に出たくなくなってきた……
あらたんもそろそろ食べようか? という優しい催促に応じたいが、なかなか喉を通らない。
「甘いものもたくさんあるから、二人共頑張ろ?」
はい……と二人揃って項垂れる。
味覚が戻っても、どうか嫌いな味が二倍になったりしませんように――。観念して、口を開けた。
2021(R3).1.7
愛しい君の手とまた会えますように
「少しの間だけど楽しかったね」
「ああ」
人形の二人が欠伸を噛み殺す。生前と変わらないちはやの笑顔とももうすぐお別れだ。
「新の味覚、ちゃんと戻るといいな」
「それはアレ次第だろう。千尋兄さんも付いてるからきっと大丈夫」
またアレって呼んでる……どうしてあらたって呼ばないの? 相棒が口を尖らせる意味が分からない。この身体は理性の部分を預かっている器に過ぎない。人形だけど、中身は新だ。自身を名前呼びするのは、せいぜい小学生までだろう。
「うん、兄ちゃんがいるなら大丈夫だよね」
最後に四人で祭りを回った時、本当に怪異の世界なんだなぁ……と戸惑ってはいても、表の祭りと同じように楽しんでいた。千隼と新を気にかけながら。これからもあの人が近くに居れば大丈夫な気がする。
「眠りにつくけど、また揃って遊べる日が来ないかなぁ」
「……寿命を全うしたらまた会えるかもしれない」
「新が?」
「ああ。俺たちはずっと一緒にいるから、彼岸でちはやと再会出来たらまた一緒だ。今度は四人で遊べるかも」
「そっか、向こうでまた会えるんだ……あ、千尋兄ちゃんもいるから五人だよ。仲間外れにすると寂しがって泣いちゃう」
「そうだな」
何十年後になるかな? とちはやが人形の手を取る。待ちきれないように、ちはやの冷たい手が楽しそうに揺れ始める。
次に目覚めるまで、君の手がずっと側にありますように。
2022.12.21