よるのいとま。
あくまで主観だが吸血鬼の吸血はエロい。
吐き出す息は熱く熱っぽく、艶やかに頬は紅潮してやけに色っぽい。
ガキですら見てて発情しそうになるくらいヤバイのだから大人だとどれくらいになるのかと考えるだけでヤバイ。
「……何か視線が不愉快なんだけど」
その辺の動物から貰った血を舐めながら、カロルがじとー、と冷たい目を向けてきた。
しまった、顔に出てたか。
口元を隠して適当に誤魔化して笑うと、ますます胡散臭いと言われてしまった。
「どうせヘンな事考えてたんでしょ」
「そうだな、吸血鬼って女もいんのかなーとか」
「勿論いるに決まってるでしょ。血を貰った人は仲間になるんだから逆に多いくらい。最初から吸血鬼の女(ひと)もちゃんといるよ」
唇を血で汚した子供はあっさりと答え、口元を拭った。まだ付いてる血を舐めとるついでに軽く口付ける。
「……どうせユーリも美人のおねーさんに血を吸ってもらいたいとか考えてたんでしょ? 人間ってみんなそうなんだね」
「コラ、勝手に予想して幻滅すんな。誰基準で話してんだ、それ」
「吸血鬼(ボクら)の天敵のエクソシストのおじさん。ボクは会ったこと無いけど、女性には滅法弱くてあしらうのも簡単だけど、男には容赦無いんだって聴いたよ。飄々としてて胡散臭いけど凄腕で、結構仲間やられてるし……会いたくないなぁ、コワイもん」
あのおっさんか。牧師(仲間)内でも目立つ存在だが、敵(アッチ)にも有名だったとは。
仕事は人が変わったように淡々とこなすせいで別人だの、首席だの言われてるベテランだけど。
確かにあのおっさんだと女吸血鬼にはデレデレしてる姿しか浮かばないな。
「恐がらなくても、きっとアメくれる気さくなおっさんだと思うぜ」
実はしょっちゅう会ってる顔馴染みだが、カロルには伝わらなかったようで首を傾げるだけだった。
「そのおじさんは強いからいーけど、ユーリがノコノコ出てったらすぐに血吸われてヘロヘロになるんだからね! 瞬殺されるんだから」
「何でオレが弱いって決めつけてんだよ」
「子供のボクにやられそうになったの何処の誰だっけ」
不手腐れたように、近くで眠るラピードを抱き寄せて顎を乗っけるカロル。
「……それは惚れた弱みというか、お前に手出せるワケねーだろ。何拗ねてんだ」
「……だって女の人がいいって、ボクじゃ役不足なんでしょ?」
や……、意味解って言ってんじゃないんだろうがすごく不健全に聞こえる。
キスだけじゃ物足りないのは事実だけど色々ヤバイだろう、まだ子供なんだし。
「ボク色々と迷惑かけてるし、ユーリには救けてもらってばかりだから恩返ししたいんだ。だから出来る事があったら何でも言ってね?」
「じゃ血……」「それはダメ」
ピシャリと言い捨て、大きく頭の上に×を作る。
何でも言っただろーが、コノヤロウ。
「お前が出来ることで一番うれしくて、一番簡単なことだぞ?」
「諦めてよ、それ! ユーリは自分にもうちょっと誇り持って。カンタンに人間やめない! 他の人間に失礼でしょ」
「別に普通だっての。そーだな……ほら。おいで」
ナイフから血の粒が指を伝い、雫が地面に弾けた。
ピク、と餌をちら付かせた犬のようにカロルの瞳が反応する。ふらりと立ち上がり、両手を広げた中に吸い寄せられたように収まる。
「自分の体を傷つけるのは感心しないよ?」
「こんなもん傷の内に入らねーよ。どうぞ、美味しい内に召し上がれ?」
「……何か引っかかるけど、取りあえずいただきます」
傷付けた指先をくわえ、赤い舌で血を掬い舐める。
喉を鳴らし血にしゃぶりつく姿が食事、ヤバイ想像しか頭に浮かばない。
熱い吐息と漏れ出る声が性的な何かを彷彿とさせて眼前でオナってるのを見ているように錯覚して、血を与えるのが止められない。
「……やっぱエロいよな」
こんなヘンタイめいた目で見ていると知られたら間違いなく嫌われるので秘密にしている。
2011.3