思いをこめて
木で人形を彫るのは初めてだ。
一回削ってはあなたを思い、一回削る度にあなたの顔に近くなる。
出来上がったら御守りにしよう。
誰にも見せない、悟られない思いを込めながら、ナイフを握るプレセアの足元に削り滓が増えて行く。
もくもくと作業に耽る手の中で木片が人の形に近付いていく度、ワクワクしてきた。
上手に出来るだろうか。
完成したらあの人に少しでも近付ける気がする。
近付きたい。
遠くで見てるだけじゃなく、あの人の事をもっと知りたい。
「プレセアー? あ、いた」
突然声を掛けられて、プレセアの肩がびくりと震えた。手を止め、顔を上げるとギルドのメンバーの一人であるカロルが小走りに駆けてくる所だった。
気取られないように人形を大事に仕舞い、ナイフをベルトに差した。
「お帰りなさい。クエストから戻って来たんですね」
「うん、素材集めて来たんだ。魔物も居るから大変だね、後ろから襲われそうに──」
「カロル。お喋りは後でな」
伝言あるだろ、と彼の後ろから長身の青年が頭を軽く叩く。そうだった、とカロルが思い出して伝言を口にした。ジーニアスが呼んでると。
「探してるみたいだったよ。ホールに来て欲しいんだって言ってた」
「分かりました。片付けたら行ってみます」
「バカ広いからなこの船、人探すのも大変だ」
言ってからユーリは周りを見渡し、プレセアが座り込んでいた甲板から船の端を見た。
「迷子になっちゃいそうだもんね」
「あーそうだな、カロル先生来た時思い出すな。部屋に戻れなくて半泣きだったっけか」
「な、泣いてなんかないってば!! もー、ユーリのバカっ!」
意地悪く、しかし愉しそうでもある笑みを浮かべるユーリにカロルが頬を膨らませた。
仲の良い兄弟のようで微笑ましい。
笑みを含み、削り滓を片付けて立ち上がった。
「お手数おかけしました。私はこれで」
お辞儀をしてプレセアが顔を上げた所で、あ、待って。とカロルが腕を掴んだ。
「ゴミ、付いてるよ。ちょっと待ってね……」
グローブに付着していた削り滓を手の平に乗せ、はい! 取れた、とはにかんで微笑った。
その笑い方があの人と重なる。頬が熱くなるのが判った。
「……ありがとう」
照れたように頬を赤らめ、プレセアが笑顔を返し二人で微笑い合っていると、刺々しい視線が突き刺さった。
視線を辿れば、苛立ったように腕を組んで僅かに眉を勧めて、こちらを見ているユーリ。
……嫉妬八十パーセント、嫌悪感十七パーセント。よって、嫉妬心で睨んでいたと判断。
年の離れた兄弟みたいだと思ったが、カロルはともかく彼の方は少し違うようだ。
その眼差しに含む理由を正確に分析して、
「心配しなくてもいいと思います」
「ん?」
「私は、別に取ったりしませんから」
“お姉さん”の表情で微笑みかけるプレセアにまともに面食らって、ユーリは目をしばたかせる。それでは、と扉をくぐりホールに向かった。
ジーニアスと話しているあの人の姿に目を細め、お待たせしましたと二人に駆け寄って行く。
2011.7