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    karanoito

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    karanoito

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    ユリカロ

    怪我にご用心

     宿の食堂で、はい、とカロルがスプーンを差し出し、レイヴンの口に運んだ。 咀嚼して飲み込む合間に自分も食事を進める。
    「おいし♪」
    「本当? よかったー」
     レイヴンが頷いて微笑み、カロルは安心したように頬を緩めて笑った。二人でニコニコと笑い合ってる様は親子か夫婦のそれにソックリだった。
     その仲良し加減にあてられて、向かいに座るユーリが動いた。
    「……おっさん、オレが食わしてやるよ。こっち向け」
     ほらよ、とフォークをレイヴンの目の前に突き出した。フォークの先に突き刺さってるのはどう見ても、レイヴンの嫌いなホットケーキ。わざとらしい嫌がらせに顔をしかめた。
    「あのねぇ、青年……」
    「ユーリ、レイヴン甘い物はダメだってば」
    「気合いで食え」
     現在、レイヴンの左手には包帯が巻かれ、完治するまでは動かせない。戦闘中にカロルを庇って負った怪我だ。
     戦闘する上で怪我は免れないのでそこは別にいい。問題は、カロルが責任を感じてレイヴンの食事の介添えを買って出た事だ。
     ぴったりと隣に寄り添い、甲斐甲斐しくスプーンを差し出し、食事をさせてくれる。しかも笑顔付き。
     ……何て羨ましい、おっさんのくせに。
     独占欲の強いユーリは嫉妬して目が座っている。鼻先にフォークを突きつけ、そのまま鼻の穴に突っ込んでやりたい。
    「ボクのせいで左手、怪我しちゃったんだから、ボクがやるって決めたの! ユーリは黙ってて!」
     レイヴンを守るようにカロルが立ち上がり、フォークを退ける。ユーリの一方の眉がつり上がって、おもむろにカロルにフォークを向けた。
     きょとんと、ユーリとフォークを交互に見つめる。
    「ほら、あーん」
    「……えっ? 何でボクが食べるの?」
    「お前が食べないと、またおっさんが苦しむ事になるぞ?」
    「何でそうなるの、意味分かんないよ!? みんな居るのに恥ずかしいよ……」
    「誰も気にしないから、とっとと食べたら? 冷めるわよ」
    「ユーリにはうちが食べさせてやるぞ♪ あーん、なのじゃ」
    「だったらレイヴンさんは僕が……」
     好き勝手にみんなが騒ぎ出す。当のレイヴンは放ったらかしだ。
     どうするんだ? と、ユーリはフォークを振って見せた。
    「……もうっ! 一回だけだからね!? ユーリのバカっ」
     恥ずかしそうに耳まで赤く染めたカロルが、覚悟を決めてフォークをくわえる。ニヤニヤとユーリは笑みを浮かべ、ジュディスが微笑ましく見守っている。
    「……ごちそーさま。これでいい? もう邪魔しないで、よ……」
     甘いホットケーキを飲み込んで顔を上げたカロルの前にユーリの姿は無く、いつの間にか側にいたユーリに唇を拭われていた。舌を使って。
     生暖かい感触が、唇の上から甘いホットケーキの跡を舐め取っていく。
    「お粗末さん。またよろしくな」
    「あ〜〜っ、ズルイのじゃ! ユーリ、うちもうちも!」
    「アンタら、うっさい! 部屋に戻ってやれ!」
    「ヒドイよ……リタだってやれって言ったのに……」
    「そこまでやれなんて言ってないわよ、あたしは!」
    「レイヴンさん、どうぞ」
    「いやその〜人目もあるし、出来れば嬢ちゃんやジュディスちゃんがいいな〜…なんて」
    「私、ラピードに食べさせてあげたいです……」
    「いい案ね。ラピードも一人じゃ退屈でしょうし、差し入れに行きましょ? きっと喜ぶわ」
     騒いでいるレイヴンたちを置いて、ジュディスとエステルはさっさとテーブルを離れて行ってしまう。
     横にはニコニコと満面の笑みで、フレンがスプーンを握っている。
     もうカロルに助け舟は出せないし、逃げ場もない。
    「何この仕打ち、おっさんが何したって言うのよ……」
     この後、レイヴンがどういう選択を取ったかは想像にお任せ。

    2012.1
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