しとしと、雨が降る。
春はお天気が変わりやすい。
ぽた、ぽた、と落ちてゆく雫を、窓際で清澄がぼんやりと眺めていた。
「清澄、なに見てるの」
「今日はとても雨が強いな、と思いまして…」
雨が屋根を打つ音が耳に入る。
空は灰色に曇って、どこか陰鬱な空気を纏っていた。
「この雨では桜は散ってしまいますね」
「そうだなあ」
遠く窓の外を眺める清澄の横顔は、憂いを帯びて物悲しげに映った。
桜は散るからこそ美しいって言われるけど、もっと咲いていてほしいなって俺は思ってしまう。
桜が咲くと、清澄が笑顔になるから。
なんとなくスマートフォンのアルバムを開いて、先日清澄と公園でお花見したときの写真を確認する。
まだ蕾が多い枝、見事に開花した花、長く続く桜並木、桜の写真を嬉しそうに撮る清澄の後ろ姿。
1枚だけ撮った、俺と清澄の2ショット。
うん、俺はやっぱり、清澄に笑顔でいてほしいや。
地面に落ちているであろう桃色の花弁を思うと胸がきゅっとなる。
淋しげな目をした清澄を笑顔にしたくて、俺は背後から彼をぎゅっと抱きしめた。
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