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    primulayn

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    primulayn

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    りゅうくろ

    「そうだ清澄!」

    自室に木村さんを招いて、ゆったりとした時間を過ごしていたところ、突然彼が立ち上がった。徐ろに鞄の中身を漁り、大切そうに紙袋を取り出す。彼はそれを慎重にこちらに差し出して、瞳をきらきらさせた。

    「これ、受け取ってほしいんだ」

    木村さんからの期待の籠った視線がなんだか擽ったい。両手でその紙袋を受け取ると、ずしりと重みを感じた。
    なんでもない日に贈り物をすることは、私と木村さんの間ではよくあることだった。お互いがそれぞれ別の場所で生活していて、相手に合うかな、とか、これ喜んでくれるんじゃないかな、とか、いろいろな理由で贈り合うことが、いつしか当たり前になっていた。出掛けた先でたまたま見かけた物を通して相手を想うとき、胸のあたりが少し暖かくなって思わず笑みが溢れてしまう。そんな瞬間も愛おしくて、いつしか二人の間で定番のやりとりになっていた。
    紙袋の中を覗くと、黒い長方形の紙箱が入っていた。そろりと慎重に箱を取り出す。両手に乗るくらいの大きさの箱はしっかりとした造りで高級感があった。

    「開けてもよいですか?」
    「うん、もちろん」

    ゆっくりと箱を開く、そこには美しい模様の入った陶磁器が二個並んで収まっていた。

    「お椀、ですか?」
    「うん、ご飯茶碗なんだ」

    ひとつ取り出して眺めてみる。温かみのある薄茶色の地に紫のグラデーションが入っていて、小さな桜の模様が付いている。とても可愛らしい一品だ。

    「素敵なお茶碗ですね」
    「そうだろ!」

    木村さんは満面の笑みを浮かべている。そんな彼を見ると私も嬉しくなってしまって、思わず口元が緩んでしまった。

    「清澄に似合うかなって思って買ってきたんだ。でも……」
    「でも?」
    「買おうとしたらこれ、ペアの茶碗なんですって店員さんに言われてさ」

    確かに箱の中にはもうひとつ茶碗が入っていた。そちらを取り出して見ると、グラデーションが緑の色違いで、あとはお揃いの柄になっていた。なるほど確かにペアで作られたものなのだろう。

    「最初はどうしようって思ったけど、よく見たら紫と緑で俺たちにちょうどいいし、お揃いであってもいいかなって思って」
    「それでセットで購入されたんですね」

    二つの茶碗を並べると確かに隣りにあるべき品物であることがわかる。所属するユニットのイメージカラーを纏ったそれは、まるで私達の手元に来ることがわかっていたような顔をしてそこに佇んでいた。

    「それでさ、いつか俺と清澄が一緒に暮らせたら、この茶碗を使いたいなって思って」

    思わずぱちぱちと瞬きしてしまう。
    一緒に、暮らす。
    そんな未来があるなんて考えたことがなかった。実家で暮らしていて、今まで事務所に通うことも可能であったし、木村さんも同様だ。なにより私には清澄の家でやらなければならないことがある。茶道を広め、若い人にも気軽に楽しんでもらうこと。そのための活動は実家にいてこそだと思っていた。でも、今以上にアイドル活動が忙しくなったら、もしかしたら実家から通うことが難しくなるかもしれない。夜遅くに帰ってきて、家族を心配させることがあると木村さんも以前仰っていた。何れは都心に部屋を借りることも考えなければならない、かもしれない。そのとき、彼がそばに居てくれたら。

    「……だめ、かな?」

    いつもはきりりと上がった眉尻が下がっている。夕焼け色の瞳は微かに不安を滲ませて、それでも真っ直ぐに私を見つめていた。

    「いいえ、だめではないです」

    そっと木村さんの手を握る。思わずぎゅっと力が籠もってしまった。

    「いつかその日が来たら、その時は私を側においてくださいね」

    ゆっくり瞬きをしてふわりと微笑む。木村さんがそんなことを考えてくれているなんて思わなかったけれど、私は素直に嬉しかった。未来のことはわからないけれど、木村さんと一緒にこのお茶碗を使う日が来るかもしれない。そう思うと胸がどきどきして居ても立っても居られない気持ちになってしまう。

    「よかった……」

    気が抜けた風船のように彼は畳に崩れ落ちた。その様がなんだかおかしくて、思わずふふと笑ってしまった。

    「笑うなよもう!」
    「すみません、あまりに可愛らしかったもので」

    ああもう!と木村さんはがしがし頭を掻く。照れ隠しをするときの彼の癖だ。
    お茶碗を綺麗に箱に戻して蓋をする。これは私が預かりますねと言ってテーブルの脇に下げた。

    「木村さんの言葉、まるでプロポーズのようでしたね」

    そう言って顔を覗き込むと、彼は見られたくなかったのか私の身体を抱きしめた。木村さんの腕の中は熱くて、触れたところから溶けてしまいそうだった。そっと背中に手を添えるとぎゅっと力が籠もって、愛しさでいっぱいになってしまった。

    耳まで真っ赤にしていたのは、見なかったことにしてあげましょう。
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