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    primulayn

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    りゅうくろ
    (九郎くんHAPPY BIRTHDAY!)

    事務所での誕生日会はとても楽しいものだった。華村さんと猫柳さんが私の好物をたくさん取り寄せてくださって、スケジュールの合った皆様にお集まりいただき簡単なパーティーを開催していただいた。こんなにも沢山の方に誕生日を祝ってもらえることなど普通に暮らしていたらなかなかないことだと思うと、こうして315プロダクションで仲間に会えて、アイドルをしていてよかったと強く感じる一日だった。鞄の中身はいただいたプレゼントでいっぱいになっていて、それ以外にも紙袋をいくつか持たされている。皆様からのありがたい贈り物が暖かくて、嬉しさで胸が一杯になっているところで、華村さんに肩を叩かれた。

    「九郎ちゃん、今夜は予定ないのかい?」
    「予定は……ええと、あります」

    この後は仕事で事務所のパーティーに来れなかった木村さんと合流する手筈になっている。お仕事終わりに申し訳ないと思いながらも、木村さんがどうしても会いたいと仰ってくださったのだ。

    「そっか、それなら安心サ」

    ふふ、と華村さんは口元に手を当てて笑った。華村さんと猫柳さんには私が木村さんとどういう関係であるかはお伝えしてある。気を使ってくださったのだな、と頭が下がる思いだ。

    「いっぱいお祝いしてもらうんだよ!」

    からっとした笑顔で送り出されて思わず口元が緩んでしまう。理解のある仲間で本当に恵まれているなと感謝の念に堪えない。スマートフォンで待ち合わせの時間と場所を確認して、私は事務所を出ることにした。




    待ち合わせはターミナル駅の改札前。大勢の人が行き交うその場所で帽子とマスクという最低限の変装をして彼を待つ。仕事の後だから約束したとはいえ時間どおりとはいかないだろう。気長に待とうと鞄から文庫本を取り出した。最近読み進めているミステリー小説だ。先が気になって仕方ないので移動時間などは専らこの本のお供になっている。ぺらぺらと頁を捲っていると、遠くから駆け寄ってくる音が聞こえてきた。

    「清澄、お待たせ!結構待った?」
    「木村さんお疲れさまです。さきほど来たばかりですよ」

    にっこりと微笑むと木村さんは安心したように息を吐いた。走ってきてくれたのだろう、息が切れて額には汗が滲んでいる。

    「ここのところ暑い日が続いていますから無理に走ったりなさらないでくださいね」
    「へへ、少しでも早く清澄に会いたくて」

    悪戯っ子のように口元に三日月を浮かべるものだから、わたしは恥ずかしくなってしまって少し目を逸らした。

    「夕飯、いけそう?」
    「はい、大丈夫です」
    「じゃあ行こうか」

    木村さんと連れ立って人混みの中を移動した。この駅は昼も夜も変わらずに人が行き交う。慣れているとはいえやはり東京とは不思議な街だなと思うのであった。

    木村さんが案内してくれたのは駅から少し離れたところにあるうどん屋さんだった。今年は初夏とは言えないほどすでに暑い日々が続いているので、冷たいおうどんは非常に魅力的だ。
    彼が引き戸を開けて店内にエスコートしてくれたのだが非常にモダンな店内に驚いてしまった。番傘が至るところに飾られ、洗練された和風のデザインの什器が至るところに置かれている。想像していた店内と異なり、現代的でお洒落な雰囲気に圧倒される。

    「ここ、すごく美味しいうどん屋さんなんだ」

    女性の従業員の方に案内され半個室のような部屋に案内される。履物を脱いで小上がりの掘りごたつに腰掛けると、非常に居心地が良く驚いてしまった。

    「なんだかとてもお洒落ですね」
    「最近は若い女性に人気なんだって。メニューもたくさんあるんだぜ!」

    確かに店内を見渡してみると女性の友達グループやカップルなどが目につく。若い方に人気な流行りのお店を選んでくれるなんて木村さんらしいな、と小さく微笑んだ。
    メニューも種類がたくさんあってものすごく悩んだ。二人でああでもないこうでもないと相談して、お互い一口ずつ交換することにした。作務衣をモチーフにしたような制服を着た店員さんに注文をお願いすると、しんと一瞬静かな空間が訪れた。

    「改めてお誕生日おめでとう。清澄がこうやって俺と一緒に過ごしてくれてすっごく嬉しい」
    「わたしも、木村さんとご一緒できて嬉しいです」

    夕暮れの色が優しく欠けてゆく。目線から送られる感情があまりに熱くて、私は思わず目を伏せてしまった。木村さんの瞳は雄弁なのだ。

    「プレゼント、用意したんだ。もらってくれたら嬉しいんだけど」

    木村さんの手元には百貨店の紙袋。なにか高いものでも買わせてしまったかと一瞬焦ってしまう。私は気持ちだけで十分嬉しいのだ。
    差し出された紙袋を受け取る。中にはラッピングされた薄い箱のようなものが入っていた。

    「開けてもよろしいですか?」
    「うん、見てみて」

    するっとリボンを解いて紙箱を開封する、そこには鮮やかな橙と赤を混ぜたような美しい色の布があった。

    「これは…もしかして袱紗ですか?」
    「当たり!さすが清澄だなあ」

    広げてみると非常に品質の良いものだとわかる。手触りがなめらかできめが細い。わざわざ百貨店に行って調べてくれたのだろう。きちんと家でも洗濯ができる、使い勝手の良い袱紗だ。

    「日常使いできる素敵な贈り物ですね。ありがとうございます」

    そう言って微笑むと、木村さんは少し背筋を伸ばして改まったように喋りだした。

    「俺の色、だから……いつでも身につけていてほしいな、なんて」

    見れば顔を真っ赤にして頭を掻いている。自分で言っておいて思いっきり照れている木村さんが愛おしくて仕方がない。
    思わず頂いた袱紗をぎゅっと握りしめてしまう。こんなに大切にしてもらえているなんて、私はなんて幸せ者だろう。
    近いうちにこの袱紗で木村さんにお茶を点てて差し上げたい。ありがたいことに仕事も増えて二人なかなか会うことができない日が続くけれど、どうにか空けて木村さんにお茶を振る舞いたい。貴方からどんなに幸せをもらったのか、彼に実感してほしいから。

    「今度、野点にでも行きませんか」
    「いいな!最近天気いいし!」
    「頂いた袱紗で木村さんにお茶を点てたいのです」

    そう言うと彼は嬉しそうに口元を緩めた。わたしも嬉しくなってしまって、思わず木村さんの手を取った。

    「楽しみにしてるね、清澄」
    「はいっ!」

    袱紗と同じ色をした大きな瞳にはきらきらと目を輝かせた自分が映っていて、少しだけ恥ずかしくなってしまったけど、受け取った幸せのほうが何倍も大きくて、私は思わず微笑んでしまうのであった。




    2022/7/3
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