ファウストの言う通り 午前で授業が終わり、昼食を食べた後のことだ。中庭の噴水の縁に、ファウストと二人で並んで座ってぽつぽつと言葉を交わしていると、中庭に棲みついている猫が足音もなく忍び寄ってきた。俺たちの足元に丸まって日向ぼっこを始めた。ファウストは顔を綻ばせながら、足元の猫の腹を撫でてやった。ひとしきり撫でてもらって満足したのか、猫はひょいと立ち上がると俺の膝にちょんと前脚を乗せた。
俺たちは思わず顔を見合わせた。
「よくわかってるじゃないか。賢い子だ」
「勘弁してよ」
おまえさ、ファウストに懐いてたじゃん。猫は俺をじっと見つめて、カリカリとエプロンの裾を引っ掻く。
「ふふ、出してやったら」
ファウストは楽しそうだ。
「しょうがねえな」
俺はポケットからソーセージの切れ端を取り出すと、ファウストの手を取って握らせた。
「先生からもらってよ。先生に仁義通せって」
言葉をかけるも、小さな獣は俺に興味などなく、ソーセージのありかを目で追っていた。
「なに、僕はソーセージのおまけに撫でさせてもらっているだけだ」
「ソーセージの方がおまけなんだって」
魔法舎で集団生活をするようになって数ヶ月が経過していた。実を言うと、何もない日の昼食後に食堂横の中庭でファウストと時間を過ごすのは恒例になりつつあった。猫を撫でるのも恒例なので、俺は昼食のソーセージをいくつか失敬しておいたのだ。
俺はファウストが喜ぶだろうと思ってソーセージを準備しておいただけなのだが、猫にとってはソーセージをくれる二人組なのかもしれない。
「君、可愛いね」
ファウストは楽しそうに微笑んでこちらをじっと見た。
「え、俺?」
「うん」
猫じゃなくて俺? なんで? どこが?
可愛いの意味合いが分からなくてめんくらったが、からかわれているだけかもしれないと思ってそれ以上は詳しく聞けなかった。可愛いってなんだよ。俺は別に可愛くなんてねーし。確かに、たまにおこちゃまどもに可愛い見た目のお菓子を作ることはあるけれど。
とはいえ、戸惑ったがそんな事はすぐに忘れてしまった。
ところが、である。もう数日経ってから、東の皆と料理をしている時にファウストが「ネロの言葉遣いが可愛い」と言い出した。
(は?)
変なことを言う奴だと思った。言葉遣いが可愛いだなんて、盗賊団時代にも飯屋時代にも言われたことなど一度もない。飯屋時代は色々な国にいたし、多少親しい客も居た。だがそんな事は一度もなかった。俺は普通か、むしろやや柄が悪い方だと思う。生まれた時から長らく力が全ての世界で奪う側として生きてきた。今はあの頃よりも穏やかな場所にいるとは思うが、任務ですごむことや血まみれの戦闘になることもままある。なのに、そんな俺に可愛いだなんてどう考えてもおかしい。
「先生、可愛いってなんだよ……」
やはりそんな風に言われるのは戸惑う。やや抗議の意味を込めて投げかけてみたが、意味深な微笑みしか返ってこなかった。
俺は大人の男だ。きちんと一人前に、納税だってしてるんだぞ。そう思っているにもかかわらず、ファウストから可愛いと言われる事は増えていった。料理の見た目が可愛い。仕草が可愛い。話した内容が可愛い。可愛い。可愛い。可愛い。
俺は考えた。熟考に熟考を重ねた。どうしてファウストがそんなことを言うようになったのか。
中庭で毎日猫を撫でていることからよくわかるが、意外にも彼は可愛いものが好きだ。猫が好き。子どもが好き。俺がおこちゃまどものために焼いた猫型のクッキーは「可愛くて食べられない」のだそうだ。
俺はひらめいた。つまり、先生は汎用的な褒め言葉として無意識に「可愛い」という単語を採用しているのだ。その時、何かしら俺を褒めたかったのだろう。褒めたいというほどでなくても、一言コメントをしたかったのだ。だが、先生は生粋の引きこもりである。400年も人に会わないでいれば、谷の猫に対する「可愛い」以外の語彙力が失われていても不思議ではない。何か肯定的な気持ちが「可愛い」という言葉になって、くちびるからこぼれた。そう考えれば全て合点がいく。俺は、可愛いわけじゃない。先生がその瞬間引き立てたいものが「可愛い」ものになるのだ。俺はそう結論づけた。なるほどなるほど。ならば、俺も暖かい眼差しで、引きこもりの社会復帰を見届けてやりますかね……と、今までの困惑や焦りを笑いに変えてしまえるほど心に余裕が出たわけである。
「おはよう」
「珍しいじゃん、こんな時間に」
「うん、シノに起こされて。今日の朝食はガレットだって言うから、部屋から出ないわけにいかないだろ」
いつもよりかなり早く食堂に顔を出したファウストは落ち着かない様子で、ガレットが焼けるまでキッチンに身を隠しに来たようだ。
「あ、可愛い」
「は?」
「それ。跳ねてる」
「何? 油?」
服が汚れているのかと思って焦ってシャツを見たが、それらしいシミは無い。
「違う。髪の毛。気付いてない?」
ファウストは魔道具の鏡を取り出し、俺の顔を写してみせた。
「あ……」
はねてる。今日の寝癖は結構手強かったようで、直したと思ったのに耳の後ろのあたりがぴょこんと跳ねていた。
「可愛い」
ファウストはいたずらっぽく笑ってから呪文を唱え、寝癖を直してくれた。
(うん……?)
その後は、何事もなかったかのように焼けたガレットを食堂で食べてファウストは自室に帰っていった。
(別に寝癖くらい自分で直せるし……)
翌日は授業で変身魔法をやった。俺は変身魔法は苦手だ。俺は俺なりに課題の猫になろうとしたのだが、首から下だけ着ぐるみを着たみたいに毛むくじゃらになってしまった。その時も、失敗を嗜めることもなく、ファウストは笑い混じりに「可愛い」と言った。
流石の俺も、ちょっとばかり戸惑い始めた。
極めつけは、任務先で早朝並んで歩いていた時だ。寝起きにちょっと機嫌が悪くて、俺はむすっとしてしまっていた。メンバーは大人が多かったし、目をこすっている者も少なからずいた。ファウストは寝ていないのかいつもと変わらぬテンションで、静かに俺に雑談を振ってきていた。そこらへんに生えている草の話とかである。申し訳ないが、俺はそういう気分ではなかった。なので雑に相槌を打っていたのだが、ファウストが俺の顔をひょいと覗き込んで言った。
「眠たくて機嫌が悪いか? 可愛いな」
その時のファウストの顔は忘れないと思う。ほんとうにかわいいものを見た、という顔を彼はしていた。ふわふわのねこだとか、覚えたての曲がった文字だとか。柔らかくて、ちいさくて、愛おしくて、簡単に壊れてしまうものだから掌で包んで大事に懐に抱えるみたいに。お世辞じゃないことはもう明らかだった。
しかも、どちらかというと上の空な相槌を打っていた俺に怒るところなんじゃないだろうか。なのにおかしそうに笑っている。
……なんで?
俺の困惑をよそに、それから繰り返して「可愛い」は言われ続けた。何度も何度も言われていると感覚が麻痺して、特段珍しいこととも思えなくなってくる。そればかりか、最初にあった違和感なんてすっかり忘れてしまう。段々、俺には可愛いところがあるのかもしれないと思い始めた。
恥ずかしい話なのだが、本当に俺には自分というものがない。悲しいくらいにぐにゃぐにゃだ。だから、俺は潔く先生の評価に自己認識を寄せることにした。そう。結論から言うと……俺は可愛い可能性がある。
一度そう思ってしまえば、可愛いと言われることは嬉しいこと以外の何物でもなかった。先生が、本当に微笑ましい物を見ているとありありとわかる、優しい表情で、俺を見つめ、とろけそうな笑顔を浮かべる。
うん。俺は可愛い。何も違っていない。
すこし正気に戻って言わせていただくが、先生以外に可愛いと言われることは本当に全くない。世間的な評価では俺は単なるむさくるしい成人男性である。間違いない。ただ、ファウストと俺の間でのみ俺は可愛い。だから、ブラッドやシノ君に対して「俺って可愛いよな?」などと下手に言わなければいいだけのことだ。そんなことを俺は天地がひっくり返っても言わない。よって、万事問題はない。
そんなわけで、この時点で俺はもうすっかり恋に落ちてしまっていた。そりゃそうだろう。自己認識を書き換えてしまうような相手に、自分のない俺が惚れないわけがない。それこそ当たり前のことではないか。
そんなこんなで、好きな人に可愛いと褒められ嬉しいやら恥ずかしいやら、ほわほわした日々を俺は送ることになった。
そんな折、晩酌中に飲みながら喋りながら翌日の仕込みをしながらツマミを作り足していて、ちょっとばかり鍋を焦がしてしまった。ファウストとの話に夢中になったのが主な原因だが、料理人たる者火から目など離すなという話である。にもかかわらず、先生は「君も失敗することがあるんだね。可愛い」と言った。失敗したのに可愛いといってもらえた。非難したり、笑ったりせずに。なんだかそれにひどくほっとして、思わず俺は先生を抱きしめた。嬉しくて、気持ちがほわほわして、たまらなくて。先生もぎゅっと抱き返してくれて、ぎこちないが抱き合うことができた。それから、なんて言ったのかあまり覚えていないけれど、恋人になりませんか、とかそんな話に持ち込んで、今に至る。
***
今日の任務は結構な人数が駆り出された大きな依頼で、それぞれが誰しも手こずったように思う。帰るころには俺も先生もへとへとになった。
魔法舎に戻って俺の部屋にふらっと現れた先生の顔には疲労が滲んでおり、扉の前で腕を組む姿にも覇気がなかった。先生は俺とは別の持ち場にいて、怪我人を誘導したり手当をしたりしていたので精神的にも気を張って疲れたのだろう。
「お疲れさん」
労って、そっと抱き寄せる。
「ネロ」
名前を呼びながらぎゅうと抱きついてきた。
「はあ、ちょっと疲れたね。それに、あの時はありがとう。あまり手が回っていなかったから」
怪我人を手当てしていたファウストの方に魔物が行ったので、俺が仕留めたのだ。他個体の相手もしなければならなかったが、先に体が動いていた。まだ距離も遠かったし、俺が手を下すまでもなくファウストなら自力でなんとかできたと思う。そんな手助けは不要と怒られるかもしれないと思っていたが、そうではなくてほっとした。
「余計なことしたかと思った」
「いいや。君が危なくならないか少し心配したくらいだ。余計じゃないよ」
その声は優しくて、胸がいっぱいになる。
「というか、すごくかっこよかった」
「あ、そう……?」
へへ、先生の役に立ててめっちゃ嬉しい。ていうか、かっこいいって思ってくれることもあんだな。それはそれで嬉しいかも。
などと、俺はその時呑気に思っていた。
恋人になってからというもの、先生は本当に俺のことをよく褒めてくれた。俺はそんな先生にすっかり夢中だ。決して完璧ではない俺を、可愛いといって受け入れてくれる。嬉しい。毎日一緒にいるだけで満たされる。いいね、可愛いね、嬉しい、頑張ったね、もっとちゃんとしなさい。そのどれもが俺のからだに馴染んで、ゆっくりゆっくり染み込んでいった。
そこに、「かっこいい」が追加されただけだ。そのはずだった。だが、それ以来ファウストから「かっこいいね」と言われることがグッと増えた。はじめて言われた時は確かに嬉しかった。そりゃそうである。好きな人に褒められているのだから。だが、それも3度までだ。「かっこいい」と言われることは爆増し、「可愛い」に取って変わってしまった。
もちろん、「かっこいい」はまごうことなき褒め言葉だ。先生が言うのだから本気であって世辞ではない。それが分かっているのに、胸の中でもやもやが渦巻いた。
(かっこいい、か……。可愛いじゃなくて?)
こんなくだらないことで、と思ったが、どうしようもなくテンションが下がる。俺が小さな生き物だったら、しょげて小さく丸まっていると思う。
言われてから気付いたが、俺の自我はファウストによって完全に書き換えられてしまっていた。最初に思っていたような、二人の間だけに通用する甘美なごっこ遊びみたいな軽薄で甘っちょろいものではもはやない。自意識の再定義、不可逆なパラダイムシフトだ。もうこうなってしまっては、俺は完璧に可愛い存在なのである。先生の生徒なのだから、俺は可愛い。うたたねから目覚めてふにゃふにゃしゃべるのだって、酔っぱらってネガティブになるのだって、作ったねこのオムライスだって、寝癖もむくんだ顔も二日酔いも上腕二頭筋も、全部可愛い。
現実を受け入れないといけない時がきているのかもしれなかった。俺は可愛くない。俺はかっこいい。俺なんかとは比べ物にならないくらい男らしい奴が魔法舎に何人もいるので、「かっこいい」と褒められるのは多少据わりが悪くもあるのだが、「可愛い」よりは妥当な評価だと言えるだろう。
だけど。
先生には可愛いと言ってほしい。かっこいいなんて、昔の自分を引きずるみたいであまり嬉しくない。俺は、可愛いねって言って、子猫みたいに膝の上でなでなでして可愛がってほしいのだ。俺はすっかり骨抜きになって、腹を見せて屈服している。先生になら屈服するのもちょっとした快感だ。もうずっとずっとごろごろ喉を鳴らしていて、急に虎に戻ることなんて出来ないのだから。
そんな胸のざわつきを抱えたまま、俺は晩酌のテーブルについていた。先生と過ごす時間は本当に心地よくて、「可愛い」と言われないことを除けば今まで通り楽しい時間だった。
ほろ酔いになったファウストが嬉しそうに俺の顔を見つめた。
「やっぱり君はかっこいいね。いい男だ」
(来た……!)
ちなみに、以前全く同じ場面、同じ流れで「可愛い」と言われたことがある。それをファウストは忘れてしまったのだろうか。ちょっと悲しい。
「なあ、最近可愛いって言ってくんねえじゃん?」
酔いに任せて、大した違いではないといいだけな態度を装い聞いてみる。
「言われてみれば確かにそうだな」
「俺は可愛くなくなっちまったかな?」
小首をかしげて、申し訳なさそうな表情をしてみる。先生が好きな可愛いポーズのはずだ。
「ふふ、君は変わらす可愛いよ」
先生は嬉しそうに微笑んだ。ひとまず、安心だ。何が安心なのかは良くわからないけれど。
「ああ良かった、俺は可愛いままだった」
胸に手を当ててわざとらしくおどけておく。
「やっぱあんたに可愛いって言われると嬉しいんだよ。かっこいい、もいいんだけどさ。なんで最近変わっちまったわけ?」
ファウストの反応をうかがいながら本音を言ってみる。ファウストにはかっこいいから可愛いにシフトしてもらわないと困る。説得できるのかわからないけれど。
「そうか。……なんというか、甘いものを食べたあとはしょっぱいものを食べたくなる、みたいな感覚かな」
「は?」
初手から意味がわからねえ。さすがファウスト。
「出会った時の君はひたすらに優しい人だった。僕はその優しさに甘えていただろう?」
「……そうでもねえよ」
「それから色々な任務に行って、君はすこし柄が悪いしだらしないが、頼もしい皆の兄貴分だと思うようになった」
「ふうん」
自分でいうのもなんだが子どもの面倒はそこそこ見ていると思うし、妥当な印象だと思う。そういえば、かわりに先生役をやって欲しいと言われたこともあったっけ。
「その後、何回も飲んだり授業で顔を合わせているうちに、だんだんと可愛いところもあると気付いた。色々な好みも合うし、君のことを知るにつけて、気付いたら好きになっていた」
「うん、ありがとう」
思わず顔がにやけてしまった。照れてしまう。嬉しい。
「そんなわけで、僕の中には可愛い君ブームとかっこいい君ブームがあるわけだ。長らく可愛い君ブームだったわけだが、最近はかっこいい君ブームが到来した」
「うん……」
最初は可愛い部分をクローズアップしていたが、最近はかっこいい部分をクローズアップするようになったということか。なんとなく負けが確定している気がしてくる。くっ、悔しい。
「言葉が軽すぎたかもしれない。君には色々ないいところがある」
「お、おう……」
ほめられるとやっぱり照れてしまう。
「僕は君の可愛いところにずっとときめいていた。だけど、最近一周回ってかっこいいところにときめくようになった。わかってもらえるかな?」
ファウストは大真面目だった。誠実な眼差しで真剣に俺の瞳を見つめてくれている。一国の王子様のようでどぎまぎしてしまった。
「あ……そ、そう……」
顔が熱い。ファウストは俺にときめいてるんだ。顔とか、肉体とか、したこととか、作ったものとかに。どきどきして、嬉しい気持ちになったりしてんのかな? だったらめちゃくちゃ嬉しい。
「君が悪い」
「えっ……」
「君が悪いだろ」
「俺のせい?」
「恥ずかしいことを言わせるな。君がかわいくてかっこいいのが悪い」
「へええ……」
ファウストはちょっと眉を吊り上げて言った。全然怒ってない。照れ隠しだ。ああ、やば、めちゃくちゃ嬉しい。歓喜が胸に迸る。
「そっか…わかった」
ならいいのかな。かっこいいだって可愛いだって、先生からの好きだよって気持ちのひとかけらなのだ。嬉しい。愛おしい。甘い感情で胸がいっぱいになる。その一方で、甘えたい気持ちも湧き上がってしまう。先生に、正直に言ってしまいたい。
「あのさ、やっぱ、もうちょっと可愛いって言って欲しい」
「ん?」
「あの、先生には可愛いとかっこいいの波があるのかもしれないけど、俺は基本可愛い多めに欲しいんだよね。可愛いって言われたいブームがずっと続いてるっていうか」
ファウストは俺の顔をまじまじと見た。
「なるほど」
小さな顎に指を添えて、ふむふむと俺の言葉を咀嚼している。賢い頭をなにやら高速で回転させているらしい。何を言われるのかちょっと怖い。彼は一つ頷き、目を細めた。
「可愛いって言って欲しいんだ。可愛い」
ゆっくりと頬に朱がさすのが自分でわかる。
「うう……」
なんて言ったらいいのかわからなくなってしまった。恥ずかしい。でも可愛いって言ってもらえたのは嬉しい。すごく恥ずかしいけど、やっぱり、これがしっくりくる。
「赤くなった。可愛い」
ファウストは心底愛おしそうに笑った。
「ばか」
俺が怒ると、ファウストは吐息で笑う。
「ネロ」
名前を呼ばれて顔を上げると、ファウストがきゅっと抱き着いてきた。
「あのね、恥ずかしいんだが……その、可愛い君はどうにかしてやりたくなるし、かっこいい君にはどうにかして欲しくなる」
「はっ……!?」
驚いてまあまあデカい声が出た。なんて!? ちゃんと聞こえたけどもっかい言ってもらっていい? 肩を掴んで顔を見つめようとしたが、ファウストは俺の肩にぴったりくっついて顔を伏せてしまった。
「そういうこと……ではある……かな」
本当に恥ずかしいらしく、その体勢から頑なに動こうとしなかった。これもまた先生のまごうことなき本音ということだ。嬉しくてたまらなくて、先生を担ぎ上げると、ころんとベッドに二人で寝ころんだ。
「マジか」
驚きと喜びから先生の体に覆いかぶさると、先生はあわてふためいてうつぶせになって丸まってしまった。
「大丈夫、とって食ったりしないからさ」
背中を撫でると。か細い声で「うん……」と返ってくる。
いや、好き。何この人。めっちゃ可愛い。
知らない間に、俺と恋人の関係は新しい局面を迎えていたらしい。そういうことなら、喜んで変化は受け入れたい。彼にいくらでも翻弄されたいし、どこまでだってついていきたいと思う。かわいいとかっこいい、さらにその次にふりそそぐ言葉を欲しいと思ってしまう。
すべて、ファウストの言うままに。