騒がしい蝉の鳴き声とじっとりした暑さで目を覚ましたコモリ先輩とハザカワくん。畳の匂いがする。寝ぼけた頭を起こしてあたりを見渡した。
「ここはどこだ?」
この家に見覚えがない。どうやってここに来たかも覚えていない。
不安を抱きながら部屋を見て回る2人。古い建物のようで板張りの廊下は歩くたびキシキシと音を立てる。しかし埃はなく、きちんと整備されているようだ。それに生活に必要な道具も服も全て揃っている。だが、この家には2人以外誰もいないようだ。
居間のちゃぶ台に一枚の紙が置かれていた。
『夏休みの間、あなた達はこの親戚の家に預けられました。机の下に置いた宿題をやりながら、楽しい夏休みを過ごしてください。そうすれば無事に帰れます』
「なんだこれ」
「先輩、机の下見て」
机の下にはさっきまで無かったはずのノートや教科書がどっさり置いてあった。
「5教科のドリル……2人分あるな、それに絵日記帳と、朝顔とひまわりの観察セットと……」
「絵画コンクールのお知らせと絵の具セットと画用紙。ザ・夏休みの宿題って感じだな。……これやらなきゃだめ!?」
パラパラとめくった日記帳には既に日付が書き込まれていた。7月25日から8月25日の30日間。壁にかけられた日めくりカレンダーの日付も7月25日だ。
「今すぐ帰らないと、僕たちが居ないことに気付いたらみんな心配するよ!」
「えぇ〜?遊べって言われてるんだしゆっくりしていきましょうよ」
コモリ先輩の不安に応えるように、紙に新たな文字が浮かび上がる。
『長い夢を見ていると思ってください。現実の時間は進みません。夏休みを楽しく過ごしてください』
「なんだよそれ…。つまり、帰れないってこと……?」
「諦めました?折角だし探検でもしてこよっかな」
今にも外に飛び出して行こうとするハザカワくん。項垂れたコモリ先輩は暫く呻き声を上げていたが、何かを決心したように勢いよく顔を上げた。
「遊ぶのは朝顔とひまわりを植えてから!!」
7/25
青いプラスチックのプランターに土を盛る。朝顔のプランターの縁には柵を立て、小さな種を植える。こんなの小学生以来だ。さっきまで早く出掛けようと駄々をこねてたハザカワも、いざ作業を始めたら乗り気になって元気に水を汲みに行った。
……さて、僕にこんな田舎に住む親戚はいないし、この村に全く見覚えがない。恐らくハザカワにもいないだろう。けれど、ジリジリとした暑さや蝉の鳴き声は妙に懐かしく感じる。んーこの既視感多分ト○ロだな。
「玄関にどんぐり落ちてましたよ、あげる」
「いらない」
トト○いるのかな。
種植えが終わった僕たちは、まず家の前の道をひたすら東へ歩くことにした。30分ほど歩いた所で見えない壁に阻まれる。確かに道は続いてる(ように見える)のになぜだろう。やはり30日経たないと出られないのだろうか。集落最東端から村を見渡す。僕たちが目覚めた家の他にも10〜20程の民家があるようだ。
7/26
自称近所のおじさんが家に来た。畑を手伝って欲しいらしい。やけに説明口調だから恐らくゲームのNPCみたいな存在なんだろう。
「この辺りの地名はなんですか?」
「この村は……」
突如天井から紙とペンが落ちてきた。おじさんは時が止まったように動かない。
「RPG的に考えると、多分この村の名前を書けってことだと思う」
「んーーー。シュンテン村」
「本気?」キュッキュッ
「答える前にもう書いてるじゃないですか」
「この村はシュンテン村だよ」
「「わぁーーー」」
NPCの訪問はこの後もちょくちょく起きて、その度に何かしらの用事を頼まれることになる。
7/28
朝顔とひまわりが芽を出した。
7/29
山に行くこもはざ。
NPC小学生の依頼でカブトムシ相撲の出場虫探し兼絵画コンクールの絵を描きに行く。
ハザカワは意外と絵心がある。
8/1
カブトムシ相撲に参加するこもはざ。
コモリ先輩のカブトムシが優勝。
手持ち花火とスイカをもらう。
線香花火耐久勝負はハザカワくんが勝った。
8/3
流しそうめんをやるこもはざ。
NPCおじさんの畑で野菜の収穫を手伝ったら野菜と竹をくれた。午後から竹を割り始めて、流しそうめんの準備が整ったのは晩御飯の時間。明日やることに。普段使わない筋肉を使ったからか身体中が痛い。
8/4
2人でやる流しそうめんは忙しい割に地味だ。でも楽しい。
8/10
海に行くこもはざ。
砂に足がはまって抜けない、と嘘ついてコモリ先輩を海に引きずり込むハザカワくん。
8/12
花が咲いた。
8/15
宿題をやるこもはざ。
「僕、手伝わないからな」
「そんなぁ」
8/23
玄関先に蝉が落ちている。
プランターに元気がない。
夏の終わりが近づく。
8/24
宿題をやるこもはざ。
「あと30ページです……」
「仕方ないなぁ」
8/25
花火大会に行くこもはざ。
近所に住むNPCのおばあさんが花火大会があることを教えてくれた。浴衣を貰う。夕方着付けてもらってお祭り会場へ。
「こんなに近くで花火を見たの初めてだよ」
「音でか!先輩の声聞こえない!」
おばあさんに頼まれたお土産を持ってゆっくりゆっくり帰る。
8/26
いや、7/25。
見慣れた寮の天井。見慣れた仲間たち。
食堂でハザカワに会う。
「おかえり、コモリ先輩」
「おかえりなさい、ハザカワ」
2人の意味深なやりとりに周囲は不思議そうな顔をしている。
みたいな話がいいなぁ〜〜〜!!
ここまで書いて思ったけど、この世界線のこもはざ、恋愛感情なさそうですね。どうやったらくっつくんだこの子ら。