【Afterglow.】すべて焼かれてしまった。
天を、星空を覆いつくしてしまうかのような炎など、見たこともなかった。
かあさまも、とうさまも、優しかった皆も目の前で焼かれ、朽ちて、ただ静かに暮らしていただけの人々の時は蹂躙され、跡形も無く。
耐え切れなかった。
わたしだけは忘れてはならないと、悲しさと苦しさが詰まる息のままで隠れていることなどできず、ただ我武者羅に生き延びなくてはとそれだけが足を動かす。
故郷を奪ったにんげんは、武器を振るい血を撒き散らかし強奪しそれが正義と振る舞うかの如く賤しき心の生き物でしかない。
どうしてなのだろうか。
しかし、それが世界なのだろう。
力を持った生き物はそれを見せ付け、それが誇示すべきものだと奢り醜く変わり果ててしまう。
そのようなものなど、必要ないと思うのに。
ただただ、わたしは家族と共に、ゆるやかに生きていけると信じていただけだったのに。
最早とうさまとかあさまの声も忘れかけていた。
暖かな人の温もりも、隣人と交わした会話も、あの日食べた食べ物の味さえも。
水はもう、数日前に雨溜まりのようなもので得た以来見つかりもしない。
容赦なく降り注ぐ日光は嘗ては恵みとさえ思えていた癖に、今や神さまが自分を嘲笑っているかのようで。
夜が更け何度めの星空を望んだだろうか。
もう既に少年の体力は尽き果て、彼を動かしているのは生への渇望なのか。
それさえも思い浮かばず、縺れた脚につられ身体が冷たい砂漠の砂に埋もれる。
ああ、ようやく。
休んでもいいかなと。
宛ての無い旅など、生きる理由がわからない時間など、さみしいだけであったから。
瞼を開ける力など湧かず、そのまま少年は命を終えようとしていた。
しかし、静寂に塗れた夜に生じたのは金色の光に象られたカードと、その少年を慈しむように見守るドラゴンの姿。
そして、
『どうした、そこで終わるつもりか』
指先に触れる、見慣れないカードのあたたかさが少年――ミザエルへ灯を宿すと同時に降りかかる声。
薄れかけていた視界の先に、膝を付いて自分へと手を差し出す男の手先は透けている。
ただ、その双眸は、銀河を纏いて輝く天空の星のようで。
誰なのか、と問いかける少年の眼を受け、男は「ああ、そうか。……そうだったな」と独り言ちその透けた手でミザエルの頭を撫でる。
肉体も、実体も、ない。
それでも確かに撫でられた場所には不思議な輪郭と温かさがあって、知らぬうちに枯れ果てたはずの涙がぼろぼろと顔を濡らしていく。
『泣くなミザエル。 オレは――天城カイトだ』
遠い先で、お前と友になった人間だよ。と。
どこかで竜の咆哮が響いた。