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    のくたの諸々倉庫

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    POIPOI 57

    ヤンデレ先生の可能性を考える/鍾タル

    タルがモブとの恋愛を仄めかします。捏造など諸々許せる方のみどうぞ。

    #鍾タル
    zhongchi

    窓の外の俺を認めるなり、深海の瞳が見開かれる。寒いから入れてくれ、とジェスチャーで伝えれば慌てたようにドアが開いて、記憶の中と寸分違わぬ青年が現れた。
    「鍾離先生!? 久しぶりだね……!」
    「……ああ、久しいな。ここ50年ほど、会っていなかったか」
    「はは、当たり前だけどあの頃と同じ姿なの先生だけだよ。いや俺も、もしかして変わってない?」
     そうだな、と頷きながらも招き入れられた家の中は、雪国らしく大きな暖炉があって──その上に置かれていた写真立てには、愛らしい女性の笑顔がある。ただ少し、色褪せが始まっているだろうか。
    「まさかスネージナヤまで来てくれるとは思わなかったよ、嬉しいなあ」
     言いながら差し出されたココアを飲みながら、見つめた彼の目はほんの少し赤い。うっすらと浮かぶ寝不足の証も僅かな鼻声も、理由を知っているからこそ問うことはしなかった。
    「……ねえ、先生。俺ほんと、どうしちゃったんだろうね」
     スネージナヤには不老不死の男がいる、という噂話をたどり、彼を訪ねてここまで来たが。うつむく彼の言葉は重く、俺は静かに目を伏せた。
    「……お前は人外に好かれやすいのかもしれないな」
    「はは、冗談。俺のことまで人外にするほど、誰かに気に入られてた覚えはないよ」
     笑いはすれど、言葉が終わればすんと表情が消える。そうしてぽつりと、俺の知らない女性の名を呟いた。
    「……死んじゃったんだ、俺のことを置いてさ。一緒に歳をとっていけると、ずっと思ってたのにさ」
    「そうか」
    「それにさ、家族もみんな死んじゃった。俺はいつまでも若い姿のまま、ずっと死ぬことも、できないまま」
    「……公子殿……」
     そうして初めて、俺は彼の涙を目にすることになる。はは、とこぼれたかすれ笑いが、じわじわ涙に湿っていって──どうして、と頬を流れていく雫を、俺は無言のままぬぐってやった。
    「先生が変わってなくて安心したよ、これで先生まで死んじゃったら……俺、もうひとりぼっちだ」
    「……そうか」
     言いつつそっと目をそらす。その動きに彼はびくり、と肩を震わせた。
    「……え、先生?」
    「いや、お前が心配するようなことは何も、ない」
    「違うでしょ、絶対後ろめたいことあるよね先生……まさか死んじゃうの、俺のこと、置いて」
    「落ち着け公子殿、俺はまだ何も」
    「嫌だ、もうひとりは嫌だよ先生……! いかないで、いやだ、いやだ……」
     そして溢れたその慟哭は、きっと俺が来るまでずっと、どこにも出せず彼が抱えてきたものだろう。俺の胸にすがりつき泣くその姿を、哀れだと思うと同時に──仄暗い歓喜が、音もなく胸中に灯った。
    「……実はな公子殿、今回俺がスネージナヤに来たのは理由があるんだ」
     だから口角が上がりそうになるのをこらえて、彼を「つくり変えた」側として。責任を取ろう、元とはいえ契約の神なのだから。
    「俺の隣で、生きるつもりはないか」
    「え……?」
    「最近俺も、周りの顔見知りが命を落とし続けていて……寂しく思っていたところだったんだ。そしてお前は、俺に置いていかれるのが怖い。利害は一致するだろう?」
    「一緒にいて、くれるの……」
    「もちろんだ。俺もお前を失いたくはないからな」
     言って微笑む俺の姿は、公子殿の目にどう映っているのだろう。原因が俺にあるとも知らず、いつか流し込まれた神の力で変質した体に涙する彼が──どうしようもなく、愛おしいと思う。
     公子殿が頷く。約束だよと泣くその心は既に限界だろう。それでようやく俺は彼にとって、無二の存在になれるのだ。
     だからと彼を抱きしめた。そろそろと抱きしめ返されて、今度こそ笑みを隠しきれない。
    「永遠に、共に在ろう」
     最後にこの手へ落ちるなら、過程はなんでも構わない。だって俺には──否、俺たちには時間があるのだから。
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    hiwanoura

    DONEパティシエのタルタリヤと大学の先生をしてる鍾離先生の現パロ。鍾タルです。捏造しかないので要注意。(Twitterに上げていたものと一緒です)
    パティシエのタルタリヤと大学の先生な鍾離のお話①ふわり、と。
    鼻先を掠めた匂いに思わず顔を上げる。会話も、物音も少なく、かすかに聞こえるのは紙の擦れる僅かな音ばかりの図書館にはあまりにそぐわない、甘い匂い。それは書物へと没頭して、つい、食事を忘れがちな己の胃を起動させるには十分なものだった。壁にかかるシンプルな丸時計を見るともう昼はとうに過ぎ、どちらかと言えば八つ時に近い。なるほど、甘いものを食べるにはちょうどいいな、と。昼食すら食べてないことからは目を背け、手にしていた本を棚へと戻した。
    さて何が食べたいか…足音を飲み込むカーペット素材の床を踏み締めつつ、書籍で埋まる棚の間を進む。平日の昼間なせいか自分以外の人影を見かけなかったのだが、知らぬうちにもう一人、利用者が増えていたらしい。珍しい、と。なんとなしに興味が引かれ、知らず足が向く。こちらの事など気がついても居ないのだろうその人物は、立ったまま手にした本を熱心に読んでいた。赤みの強い茶色の髪の下、スッと通った鼻筋と伏せられた目を縁取る長い睫毛。恐らく自分よりは歳若いその青年は、特に目立つ格好をしている訳でもないのに、何故か無視できない存在感があった。ここまで気になるという事は、もしかしたらどこかで会った事のある同業者か…生徒の一人かもしれない、と。記憶の中で赤毛を探すが残念ながら思い当たる人物はみつからず。知り合いでは無いのならばあまり見ていては失礼にあたる、と無理やり視線を剥いで、青年の後ろを通り過ぎた。
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