Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    のくたの諸々倉庫

    推しカプはいいぞ。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 57

    ※現パロ
    ディルガイ遊園地デート話

    兄弟喧嘩のその後的な。書きたいところだけ書きました!!!!!!!!!!!!!!

    #ディルガイ
    luckae

     ……視界がぐるぐる回っている。
    「ガイア、大丈夫か? 酷いようなら職員を呼ぼう」
     言われて顔を上げた先、さも心配そうに俺の背をさするのはディルックだ。大丈夫だとも離してくれとも言えず、呻く羽目になった原因は分かっている。
    「……何か、飲み物が欲しい。買ってきてくれるか」
     だからあえて、遠ざけるために笑顔を向けた。ほんの数秒迷ったようだったが、頷き駆けていく義兄を見送る。そうしてひとつ、深いため息をついた。
    「帰りたいなあ……」
     遊園地のペアチケットをもらった、一緒に行こうだなんてディルックが言い出したとき、俺はどんな顔をしていたのだろう。断りきれずに来てしまったが、俺の三半規管はジェットコースターを前に無力だった。
     別に吐きそうなほどひどいわけではないが、心は存外めちゃくちゃで。ああ俺にもまだ、こんなにも悩めるほど執着するものがあったのか、と。
     分かっている。あの義兄だ。
     それなりに長い間、すれ違って傷付け合った。それでもずっと抱えてきた恋心だけは、墓まで持っていくつもりなのに死んではくれない。俺のことはどうせ、チケットの期限が近くてもったいなかったから、勘違いなんかしそうにない相手を選んだだけだろうし──悲しいかなディルックの読みは当たっているのだ。
     だって今更、勘違いなんかできるほどあいつについて無知じゃない。一度は刺されるかとも思うほどに険悪な仲に陥り、落ち着いてからも付かず離れず、けれど決して近くない位置にいた俺を。彼がどうして愛するなんてことがあるのか。
     はあ、ともう一度息をつく。自販機はすぐそこだろうに、やたらと時間がかかっているような、と。のろのろ顔を上げた先、そこには数人の女性に囲まれるディルックがいた。
    「──っ、はは」
     そうだ、そうだよな。それが「正しい」んだ。分かってはいるがさすがにこたえた。立ち上がり、歩み寄れば困ったように笑うディルックが見える。
    「すまないね、連れにスマホを任せたままで……」
     嘘つけ、お前ちゃんと持ってるだろ。しかしやっぱりかっこいいよな、お前らも自分のものにしたいよな、わかるよ。
     喉がつかえた。心臓の鼓動すら気持ち悪い。それでもいつもの笑顔と共に、俺はディルックの腕を掴んだ。
    「おいおい義兄さん、あいつら待ってるぜ。逆ナンされてる場合かよ」
    「……ああ、すまない。行こうか、『ガイア』」
     そうして少し、ディルックが強めに俺の名を呼んだのは気のせいだろうか。残念そうな彼女たちから遠ざかり、ざわめきが耳に戻ってきた頃。
    「……僕のことはディルックと呼んでほしいと、あの日言ったじゃないか」
    「そうだなあ、『仲直りした』もんな俺たち。けどなあ、さすがにお前だって男2人で遊園地に来てるなんて思われたくないだろ?」
    「……僕を待っているのは君じゃなかったのか」
    「そりゃあなあ。もしかしてあの場にいたかったか? なら悪いことしたな」
     ディルックの顔を見ることができない。すれ違う男女は幸せそうに腕を組むなり手をつなぐなりで、俺たちはきっと異質な2人組だろう。
     ……こうなるから、来たくなかったんだよなあ。
    「ガイア、観覧車に乗ろう」
    「……は?」
     だが直後、聞こえた声の意味を理解するより早く。ぐいと引かれた腕と共に、ちょうど回ってきていた個室に押し込まれる。
    「ほら、飲むといい」
    「……どうも」
     そうして向かい合って座り、渡されたスポーツドリンクをちびちび飲むだけの時間がゆっくりと過ぎていく。ジェットコースター前にも大分遊んでいたせいか、世界は静かなオレンジ色に染まっていた。
    「……ガイア」
    「なんだ、義兄さん」
    「どうしてそう、僕から距離を取る」
    「……気のせいだろ。確かに喧嘩はしたが……いつまでもそれを引きずるほどガキじゃないさ」
    「ならどうして、僕を兄と呼ぶ」
    「お前が義兄さんだからだよ」
     事実だった。暖色の光の中、俺を見つめるディルックの目が真剣なことに嫌気が差す。こうしてこの義兄は、どれだけの相手を夢中にさせてきたのだろう。ならば俺は、義弟としてそれを応援しなければいけないのだ。
    「君が好きだ」
    「……そういう物言いはな、色々誤解を招くぜ。意中の相手にだけ言おうな」
    「君がそうだから、言っているんだ」
    「……はは、冗談。まさかそんなことを言うために、俺をこんなところに誘ったのか」
     まるで悪い夢だった。いつか向けられた憎悪の眼差しを憶えている。そんなお前が今、俺を見つめる瞳にどうしてそんなに真剣なのかが分からない。
    「俺はな、疲れたんだよ義兄さん。誰かに期待するのなんてもう無理なんだ。いつか絶対に裏切られて、つらい思いをするって知ってるんだ」
    「……ガイア」
    「違うだろ、お前はいつだって俺を呼び捨てになんかしなかった」
    「ガイア」
    「……やめてくれ。さすがに、怒るぞ」
    「ガイア!」
    「……っだからそれが! 嫌なんだって何度言えば分かるんだよ!」
     絶叫していた。ゆっくりと遠くなっていく景色が他人事のようで、目の前の義兄は俺の腕を掴んでいて。いやだと首を振られるけれど、それが何に対してなのか分からない。
    「こりごりなんだ、もうあんな思いしたくないんだよ! ちょっとでも俺のこと好きだって思うなら、もう放っておいてくれ!」
    「嫌だ、君がいくら拒んだって離すものか!」
     ああ、こうなったディルックがどれほど頑固なのかを俺は知っている。知っているがこんなところで流されるわけにはいかない。
     ……だってどうせ、お前も俺に背を向けるくせに。隣なんか歩いてくれないくせに。俺よりもずっと、お似合いの相手がいるくせに!
    「……もう、嫌なんだよ……」
     涙がこぼれた。だってもう拒絶されたくない。だから最初から、期待も誤解もしたくなかったのに。
    「……僕は、君との未来が欲しい」
     年甲斐もなく泣く俺を抱き締め、言うその声も震えていた。ろくに景色も見ないまま、静かに降下が始まったのが分かる。
    「僕と生きてくれ。ガイア」
     もはやもがく気力もなく、顎をすくわれてキスを落とされる。どうしてそう、お前は。一度俺を切り捨てた、くせに。
    「……好き、なんだよ……」
    「僕もだ」
    「……裏切ったら今度は、本気で殺しにかかるからな」
    「構わない」
     そうして静かに日は暮れる。ひとまずは降りた先の職員に、涙目であるのを見られないようにしないと、なんて場違いな考えと共に──地上は徐々に近付いていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖🙏👍💖💗💗😭💖🙏😭🙏💖💖😭❤😭❤😭🙏❤❤❤❤😭🙏☺💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    のくたの諸々倉庫

    PROGRESSいつか、その隣で笑えたなら/ディルガイ

    「猫の王国」パロ。1万字超えたのでその2です。前回に引き続き、死ネタ前提やら捏造やらにご注意ください。あと今回はちょっと背後注意かもしれない。
    その3に続きます。
    「天国」4日目
     ガイアの「そういうのはパス」発言により信頼を得たのか、あるいは距離を置かれてしまっているのか、ラグが少し離れて歩くようになった。
     故にようやく、ガイアはクリソベリル・キャッツアイの教室に顔を出すことを決める。昨日までは本当にラグがべったりで、これではどちらが弟子か分かったものではない、という状況だったため──ラグ以外のことは顔もまともに見ていない。
    「アルだ、よろしく頼むぜ」
     だがらしくもなく、緊張気味に告げたその挨拶以降、ガイアが周りと打ち解けるためにかけた時間は一瞬だった。
     相手の顔と名前を覚えるのは比較的得意だ。皆一様に、色とりどりの猫耳と尻尾が生えている以外は確かに顔つきも体格もバラバラで──中にはとても幼い姿のまま、学ぶ者までいたものだから。
    (……俺の半分も生きてないだろうなあ、こいつ)
     ここは仮にも天国で、老人や身体的不自由のある者が猫を助けて死亡した、などという場合は、その不自由を取り除かれて過ごすことができるらしい。つまりはあの少年の中身がとんでもない年寄りである可能性も否めないが、それでもどこか、クレーと重ねて見てしまっていることに気付いて 9398