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    のくたの諸々倉庫

    推しカプはいいぞ。

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    POIPOI 57

    黎明よ、どうか断罪を(1)/ディルガイ
    現パロ。捏造まみれ。

    #ディルガイ
    luckae

     夢を見る。
     お前は嘘つきだな、と。片目の隠れた男が笑い、白い部屋で目を覚ます。そんな、夢だ。
    「……ここはどこだ。そして、君は」
     夢の中であると分かっているはずなのに、背を伝う汗の感触すらリアルだった。いつの間にか座っていた椅子の上、目の前に佇むのは青い髪の男。
    「俺か? 俺はガイア、ガイア・アルベリヒ。この部屋の主を始めて大方300年くらいだ。そしてお前はディルック。俺の、にいさん」
    「僕に弟はいないはずだが」
    「まあまあ、言っただろ? 俺はこの部屋に300年住んでるって」
     言いながら、広げられた両手が白一色の室内を示す。その中央に向かい合う形で、やはり白い椅子がひとつずつ。それらに僕たちは腰掛けていて、僕をにいさんと呼ぶ彼以外には何も、本当に何もない部屋だった。
    「言いたいことはいくつかあるが……窓ひとつない部屋なのに、時間の経過なんて分かるのか」
    「そこらへんはまあ、なんとなくだから間違ってるかもな。いわゆるフィーリングってやつだ」
    「……それ以前に、君は人間なのか? 300年もこんな、何もない部屋に閉じ込められて……退屈だとかそれ以前に、人間としての寿命はどうなっている」
     言えばにこり、と彼は笑った。嘘つきに教えてやることはないな、なんて満面の笑みで、しかし僕を徹底的に拒む口調で。
    「……ここまでは話してくれていただろう。つまりそれは、僕には教えたくない、ということでいいんだな?」
    「そういう考え方もできるなあ。まあ好きに解釈すればいいさ、俺だってお前のことが嫌いなわけじゃない」
     ……本当に、調子が狂う。
    「そう怒るなって。仕方ないからひとつ、いいことを教えてやるよ。
     ……ここは牢獄だ。そして俺は罪人、つまりはそういうことなんだよ」
    「言っている意味が分からない。その場合ここにいる僕も罪人になるじゃないか」
    「はは、憶えてないってのは罪だねえ。事実がどうであれ知覚できなけりゃ『無い』もんな、パブロフの猫とはよく言ったもんだ」
     ぺらぺらとよく動く口が並べ立てるのは、口調こそ柔らかいものの僕への非難ばかりだ。そのことが少しばかり、気に食わないと思う。
    「……ガイア」
    「なんだ、にいさん」
     名前を呼べば兄と呼び、笑みを向ける。それらが示す意味も、そうなった理由も知らないけれど──そのとき不意に、体が寒さでぶるり、と震えた。
    「……寒いんだが」
    「ああすまん、定期的に室温が氷点下レベルまで下がるんだこの部屋。嫌なら帰ってもいいぞ」
    「どういう……ことだ、それは。大事じゃないか、君は辛くないのか」
    「もう慣れたよ」
     ……なんなんだ、なんなんだ。分からないけれど今、彼は表面上でしか笑っていない。どうにも不可解かつ不快な夢だが、このまま彼を切り捨てることはできそうになかった。
    「はは、唇真っ青だぜにいさん。帰った帰った、また会えるといいな」
    「嫌だ」
    「……夢の中で死んだ人間ってのはな、現実でも死ぬらしいぜ?」
     眉をひそめる。言われてみれば以前、そういう話を読んだことがあった。
    「というわけだ、命が惜しいなら帰るんだな。なあに、そんなに言うならまた会いにきてもらうさ」
     言ってひらりと彼が手を振り──視界がホワイトアウトする。そうして次に目を開けたのは、珍しくもベッドではなく床の上で。
    「……落ちた、のか」
     寝相はいい方だと思っていたのだが、なるほどこれは寒いわけだ。吐く息が白い。
     凛とした朝の空気をそっと乱しながら、重いため息がこぼれる。なんだったのだろう、あの夢は。
    「ガイア……ガイア・アルベリヒ、か……」
     どうしてかひどく、唇に馴染む名前だった。けれど久しく呼んでいなかったような、妙な強張りを伴う響き。
    「……今日も仕事だ、起きよう……」
     だからあえて口にした。日常に戻るために。少なくとも今、僕にできることは何もないのだから。


     この世界を歪だと思うようになってしまったのは、果たしていつ頃だっただろうか。
     世間一般の意見──要するに大多数が口を揃えて言う「普通」に疑問を抱いてしまった、僕の中ではそれだけの話なのだが。結局のところそれは「普通」からはみ出てしまった「変人」もしくは犯罪者予備軍という扱いを意味していて。
     浮かない気分のまま、玄関をくぐって外に出る。朝の空気がひどく、肺に刺さるような錯覚。
    「あ、おはよう……ってディルック、大丈夫? 顔色すごく悪いよ」
    「ああ、蛍か……おはよう。動くのに問題は、ない」
     思えば物心ついた時から、炎の揺らぎが好きだった。一度認めれば目を閉じても残る輝きが眩しくて、ぱちぱちと爆ぜる音が心地よくて。しかし周りからすれば炎というものは、基本的には恐れるべきものであり──その中で炎に対するプラスの感情を、口にすることは憚られた。
     だって炎が好きだと言えば、きっと放火魔もどきの扱いを受ける。ワインだって基本的には燃えやしないが、僕が酒造業に関わっているということを知った上でその話をされたら、きっと誰もが怪訝な顔をするだろう。
     だからずっと、口を閉ざしている。蛍はたまたま近所に住んでいただけの高校生だったが、たまたま知った僕の趣味を「いいと思うよ」と笑顔で受け入れてくれた数少ない友人だ。
    「……今日はお仕事休んだら? 動けるとはいっても、なんだかすごくつらそうだよ……」
    「とは、言ってもな。僕がいなければ始まらないことも多い、行くだけ行って考えるさ。
     それに君も学校だろう? 遅刻しないように行くんだよ」
    「……だってさ、お兄ちゃん? どうしよっか、ちょっとさらっちゃう?」
    「ああ、蛍の友達に無理はしてほしくない」
    「は……」
     なんのことだ、と思った瞬間、近くの曲がり角から蛍そっくりの少年が現れる。それじゃあごめんね、と蛍が手をかざし──星座のきらめきが見えたと思った瞬間、僕の意識は闇に落ちていた。


    「あの双子に捕まったか、腐れ縁だなあお前たちも」
    「……また、君か」
    「君、じゃなくてガイアって呼んでくれよ。なあ、にいさん」
     言いながら、ガイアは脚を組み替える。相変わらず僕を兄と呼ぶらしい。
     ……頭がひどく重かった。
    「なら、ガイア。どうして僕の夢に、こうやって君は現れる」
    「残念ながら……俺にも原因は分からない。ただお前の夢と俺のいる場所が、何かの拍子で繋がった。だから暇つぶしも兼ねて呼んでるんだ、お前は憶えてないようだが……俺たちには縁もあったしな」
    「……その言い方だと、君はもう死んででもいるのか」
    「さてな? ただ言えるのはもう、体は残ってないってことだ」
     それを一般的には死んだと言うんじゃないのか、と言いかけて。それは僕が最も嫌う言葉だったはずだと、喉元まで出かかったものを押し戻す。
    「……僕と君は、どういう関係だったんだ」
    「嘘つきに教えることはないって言っただろ?」
    「じゃあ今言ったことも、嘘か」
    「それは本当だ。なに、俺は拗ねてるんだよにいさん。お前が約束を守ってくれなかったことに、これ以上ないほど苦しんで……肉体を失った後もこうして、この場所で自我を保ち続けているくらいには」
     相変わらず、ガイアは笑顔だった。けれど僕は、その笑顔が仮面のそれであることを「知っている」。
    「……頭が、痛い」
    「おっと、思い出してなんかくれるなよ。お前たちから見た『現代』に、あんな世界の記憶なんかいらないんだ」
    「君、は」
    「ガイアだ」
    「……ガイアは、それでいいのか」
    「ああ、もちろん。これは全て俺の意思だ」
     ……嘘を、つかれている。
     いっそ完璧な笑みであるが故に、そんな笑顔で紡がれる言葉が嘘くさくなるのはどんな皮肉だろう。だって僕はずっとそれを見て、それを、ずっと──
    「だから」
     びくん、と。
     朗々と通る声に、肩を跳ねさせると同時に。僕はその完璧な仮面にヒビが入るのを、どんな顔で見ていたのだろうか。
    「俺はお前を許すつもりはないよ、にいさん」


     ──自分の声と伸ばした腕の反動で、目が覚めるなんて初めてだった。
    「ディルック、ディルック!? どうしたの、大丈夫!?」
     目を開けてまず、見えたのは蛍と先ほどの少年だ。近くにある高校の制服姿だが、どうにも違和感が拭えないのはなぜだろうか。
    「……僕、は」
    「うなされてたんだよ、やっぱり体調悪いんじゃ……」
    「それは大丈夫、だが」
     ここはどこだ。どうにも見慣れぬ部屋の中、横たわっていたベッドから起き上がる。
    「ここはね、ちょっと他とは時間の流れが違うところだよ。少しは休めたかな」
    「君は……」
    「俺は空。蛍の双子の兄だ、いつも蛍から話は聞いてるよ」
    「……時間の流れが違う、とは」
     触れたシーツの質感も、どうしてか見慣れぬものだった。蛍と空が少し、顔を見合わせた後──「ざっくり言うとね」と。
    「むかーしね、とあるおばあちゃんから譲ってもらった箱庭みたいなところだよ。昔から、嫌なことがあるとここに逃げ込んで気持ちの整理をつけてたの」
    「……よく、分からない」
    「うん、分からなくて大丈夫。ただ言えるのは、外と違う時間が流れてる場所だから、あんまりいると時差ボケしちゃうってところかな。
     でもさ空、テイワットから出ても力が続いてるって、ほんとにピンさんすごいよね……」
     話の後半は余計に意味が分からなかったが、少し眠ったおかげか体調は回復していた。しかしあの夢は、とひとり考え込む僕に、蛍はそっと眉を下げる。
    「……ねえ、ディルック。やっぱり私たちのこと、分からないかな」
     言った直後、彼らの纏う服がファンタジーめいたものに変わる。どこかで見たことがある、と思うのはなぜだろうか。初めて見る衣装のはずだというのに。
    「……すまない、既視感がある、という程度だ」
    「そっか。大丈夫、気にしないで。
     ……それで、差し支えなければでいいんだけどさ。どんな夢を、見てたのか教えてくれる?」
    「……ガイアと名乗る男が、白い部屋の中で僕を兄と呼ぶ、夢だ」
     口にした途端、ずしりと胸が重くなる。どうしてだろう。そのことについて思い出そうとするたびに、頭の芯が引き絞られるように痛んだ。
    「……蛍、もう隠すのは無理だよ」
    「そう、だね。ちょっと話しちゃおうか。ガイアには怒られちゃうかもしれないけど」
    「彼を……知っているのか」
    「うん、なんならディルックのことも……ずっと昔から知ってるよ」
     言って向けられた二対の瞳。再度僕の前にかざされた、蛍の手が淡く光って──そこには赤く丸い石がついた、アクセサリーのようなものが握られていた。
    「これはね、君のものだよ」
     言われて手に取ったそれは、僕が触れた途端ふんわりと光る。ああそうだ、僕はこれを知っている。いつか手に入れ手放して、それからまた僕の元に戻った……
    「……結論から言うとね。ディルック、君は昔……ガイアさんを庇って、命を落としたんだ」
    「僕が……ガイアを?」
    「うん。でもどうしてか、君のこれ……神の目って言うんだけどね、持ち主が死ぬと砕け散るはずのこれはずっと、変わらぬままに存在してたから。みんな君が生きてるんじゃないかって、ずっとずっと探してたんだけどね」
     結局見つからなかったんだ、と申し訳なさそうに告げる蛍。何も、分からない。
    「それで、ガイアさんはね。君がいなくなった後、ふらっとどこかに消えちゃってさ。結局帰ってこなかったんだ」
    「ではなぜ、僕は」
    「……これは俺の推測なんだけど。君の魂が然るべき場所に還ることなく……次元の狭間にでも落ちたとしよう。そうなれば君の魂は、輪廻転生の輪から外れ……どこかで消えるのを待つだけになっていたはずだ」
     分からない。分からないが目の前で起こっていることは全て現実のはずだ。蛍とよく似た、けれど確かに兄の顔で──空は僕に、その事実を告げてしまう。
    「だから、もしかしたら。ガイアはそれを肩代わりして、君を助け……自らは次元の狭間に、落ちていったのかもしれない」
    「何を……言って」
    「その証拠に、ガイアがある日……直前までそこにいたはずなのに、忽然と消えてしまったことがあってね。そのまま二度と帰らなかったし、世界の隅々を探しても……君共々、見つかることはなかった」
    「……そんな、ことは」
    「うん、信じられないよね。ごめんねディルック、混乱させたね」
     息が詰まった。蛍の悲しげな表情と、空の真剣な声色が全て語っている。嘘ではないのだと、僕が忘れているだけなのだと。
     それなのにまだ、思い出そうとするたびに頭が痛んでどうしようもない。どうして僕は、こんなにも重要なことを忘れたままでいる……?
    「……空、僕を殴ってくれ。できれば気絶するくらい、強く」
    「正当な理由がないと、それはできないかな」
    「ガイアに、話を聞きたい」
    「それは無理だろうね」
    「……どうして!」
     予想以上に、悲痛な声だった。ひどい焦燥感にかられ、けれどそれを解決する方法を得られることもなく。けれどあくまで淡々と、「ガイアはそう簡単に口を割るやつじゃない」と。
    「……じゃあ、どうすればいいんだ。このままここで、体を休めていろとでも言うのか。
     身代わりなんてことをするくらいだ、きっと僕と彼は仲が良かったんだろう……? そんなにも大切な相手を、長い苦しみからなぜ解き放つことができない!」
     叫んだ途端輝いた神の目。掴んだシーツがじわりと焦げる。漂う焦げ臭さに慌てて手を離せば、「そういうことだよ」と空が続ける。
    「君がそんなふうに熱くなったまま、ガイアの元に向かってもいなされるだけだ。一度落ち着いて、彼の逃げ場を潰していくといい。俺たちはねディルック、ほんの短い間だったけど……君たちと過ごせた時間を、大切に思ってるんだよ」
     だから、と。その時後ろから声を上げたのは蛍だった。
    「助けてあげて、ガイアのこと。これでいいんだってガイアは諦めきってるけど、それは違うんだってこと……もう伝えられるのはディルックしかいない」
    「……救えるのか、彼を」
    「もちろん。要するにあの部屋を壊せばいいんだ、そうすればガイアの魂は拘束から解き放たれる。
     ……ただし、あの部屋の強度はガイアの決意の強さとイコールだ。それだけの壁を、ガイアはとっくに築いているはずで……生半可な覚悟じゃ、どうしようもないだろう。
     でもねディルック、俺たちはあんまり気が長い方じゃないし……楽ができるならショートカットも厭わなかった。だから一つ、いいことを教えてあげよう」
     そうして空が、僕の耳元に唇を寄せる。応援してるよ、と最後に笑ったその声に、僕はただひとつ頷いていた。



    「今日は大荷物だなあ、どうしたんだそれ」
    「枕元に置いて寝た。君さえよければ使うといい」
    「……前回俺に言われたこと憶えてるか……?」
     知ったことか。まさか本当に持ち込めるとは思わなかったが、持参したもののうちのひとつ──厚手のブランケットを彼に渡す。
    「冷え込むんだろう、それで少しはマシになるはずだ」
    「……双子に何を言われた?」
    「どうしてそうなる。これは僕がそうしたいからしたことだ」
    「いやだって、なあ? お前が双子に捕まってから、姿が見えなくなったもんだから……何か吹き込まれたんだと思うのは自然だろ?」
    「……君に嘘はつかないよ、と言いたいところだが、君からすれば僕は嘘つきのようだからね。君の好きなように考えればいい」
     しばしの沈黙。ガイアがブランケットを肩にかけた。
    「……あったかいな」
    「ならそれでいい。次はこれだ」
    「ワイン……か?」
    「ああ、僕の会社で作ったものだ。温めてある、飲むといい」
     そしてそれから、ガイアの体を温めるためのアイテムをいくつか提供したところで──その表情が分かりやすく曇っているのが見えた。
    「思ってもいないことを表情に出すのは、やめた方がいい」
    「本当に困ってるんだよ。どういう心境の変化だ、可哀想な俺に慈悲をくれてやるとでも?」
    「……兄が弟を気遣うのは、そんなにも妙なことなのか?」
    「は、理由も知らないくせによく言うぜ。俺がお前をにいさんと呼ぶのだって、ただの気まぐれかもしれないだろ」
    「別に血が繋がっていなくたっていい。君が僕を兄と呼び、僕が君を弟と思えば……その時点でもう僕たちはきょうだいだ。
     そうだろう、ガイア」
    「……はあ、お前はほんっと変わらないな。いっそ残酷なくらいにさ」
     そこでようやく、諦めたように首を振り。まっすぐに僕を見つめ、ガイアは「久しぶりだな」と。
    「ああ、久しいな。憶えていなくて、すまないと思っている」
    「別にいいさ、そうなるようにしたのは俺だ。
     ……お前の記憶の大半は、俺がこの部屋に閉じ込めてるからな」
    「そうか。ならば今日は、このまま帰ろう」
    「もう来なくてもいいんだぜ」
    「最初に呼んだのは君だろうに。
     ……僕は急がない、これからゆっくり話をしよう。君とやりたいことも、話したいこともたくさんあるんだ」
    「そりゃまたご苦労なことだ。いつでもやめていいからな」
     言いつつも、手を振るガイアはブランケットを手放すことはなく。白んだ視界が見慣れた僕の部屋になるのを、僕は微笑みながら見つめていた。


     人混みをすり抜けるように歩いて、僕の後ろで笑い合う空と蛍を時折見やる。お互いしか見えていないようで、しっかり周りを見ているので迷子の心配はなさそうだが。
    「それでねディルック、前にお兄ちゃんってばね!」
    「こら蛍、それは俺たちだけの秘密だって言っただろ!」
    「……仲がいいね、本当に」
    「そうかな、私たちからしたらこれが普通だなあ」
    「色々あったけどずっと一緒にいたからなあ、距離感おかしいとはよく言われる」
     そうしてこぼれた僕の言葉に、揃って首を傾げるものだから笑ってしまう。2人の誕生日を祝って、僕と出かけたいというお願いを聞き──散々遊んだ帰り道だ。疲れを見せず、まだまだはしゃぎ回っている辺り若いなと思う。
    「君たちだけでも、よかったんじゃないのか?」
    「えー、ディルックがいるだけで楽しさ3倍くらいなのに! 遠慮しないの!」
    「俺もディルックには蛍ともどもお世話になってるからね、まあまたお世話してもらう側になっちゃったけどさ……」
    「それは一向に構わない、というより嬉しいよ。だがそろそろ帰らないと、君たちも門限があるだろう?」
    「そこは大丈夫! うちの親、ディルックさんのこと全面的に信用してるし」
    「だからっていつまでも連れ回すわけにはいかないだろ……」
    「えー、もっと遊びたいよー!」
     ……本当に、微笑ましいものだ。目を細め、見つめた彼らの姿が刹那ブレて──見えたのは、いつか僕たちが剣を振るっていた日の、こと?
    「……っ」
     人の群れを抜け、しばし歩いた閑静な住宅街。いつかの記憶らしきものが一瞬、よぎったはずなのにうまく掴めない。
     加えて今、目の前を通り過ぎた青い髪の青年。服装こそ違うが、見間違えるはずもなかった。
    「……ガイア!」
     気付けば叫び、駆け出していた。青年がぎょっとして僕を見る。そうして見開かれた瞳に宿るのは、しかし決して歓喜などではなく。
    「……お前、は」
    「僕のことが、分からないか……」
    「……初めて、会うだろうに」
    「嘘だ、僕はずっと!」
     ああだめだ、頭が痛い。崩れ落ちた僕の名前を、空と蛍が呼んでいる。
     今手を離してはいけない、分かっている。分かっているのに意識はそのまま、遠ざかるように深淵へと沈んだ。
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