貴方の色に、寄り添いたい。ずらりと並んだ、大量のコスメ。
総額は一体いくらに…と考えようとして、止めた。これに関しては、考え始めたら何もできなくなる。
何度見ても、この光景は慣れない。
「…それじゃ、やっていくか」
「うん、そうだね」
意を決して、そのうちの1つを手に取った。
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僕らワンダーランズ×ショウタイムでは、公演時に各々メイクをしている。
女性であるえむくんや寧々に比べ、僕と司くんはメイクに関して問題を抱えていた。
僕は、目元へのメイクはするけれど他はほとんど経験がない。
司くんは咲希くんと一緒に道具を見漁ったりお互いにメイクしたことがあるそうで技術はあるが、基本的に同じ色しか使ってこなかったそうなので、色に関する合わせ方がてんでわからない。
初めてワンダーランズ×ショウタイムとして公演を行う時に、気づいた問題点だった。
それを見かねた着ぐるみさんが、あることを持ちかけた。
それが、目の前に広がるコスメの数々。
代金は全て向こう持ちで用意をするから、是非それを使って練習をしてほしい。
公演に向けたメイクをここで試してもらい、本番でもここにあるものを使って良い、とのことだ。
それだけ、えむくんの為に。しいてはワンダーステージのために。離れて欲しくなかったんだろう。
今となっては離れるつもりは全くないが、新しい脚本となった時に色味を試すのが習慣となってしまい。
今日もこうして、大量のコスメと向き合おうとしている。
(…ふむ。僕の役どころはサポートでたまに現れる謎の存在。暗めの色でやっていくのが一番かな?)
今回の脚本は、あるゲームを参考に作ったものだ。
空高くの王国に住む、世間知らずだけれど優しい星の王子様が、ある日襲撃にあって王国から落っこちてしまう。
落っこちた先は、豊かな海。そんな海に住む人魚や謎の存在の力を借りて王国に帰り、襲撃してきたラスボスと戦う、というお話だ。
黒や濃い紫といったコスメを手に取っていくと、類、類!と声がかかった。
「…ん?司くん、どうかしたかい?」
「ああ!アイメイクなんだが、類に意見を聞いたほうがいいと思ってな!これを合わせるのって難しいか?」
そう言いながら、持っている道具を見せてくる。
その色味に、僕は思わず固まってしまった。
薄め目の紫に、濃い目の黄色。
これは、どう考えても。
「…司くん。これは流石に無理があるかな…」
「う、そうなのか…?」
「うん、流石にね。星の王子様だから、星と夜空を連想する色を選んだ、というのはわかるんだけれど。やるとしても、どっちか片方になるかな」
「う、そうか…」
あからさまにしょんぼりとする司くんに、僕は首を傾げた。
「…司くん、あの色が使いたかったのかい?」
「えっ?え、えと。なんでだ?」
「いつもなら「ならばこれならどうだ?」って次の案を持ってくるから。それをしないってことは、使いたかったのかなって…」
しょんぼりする理由があまり浮かばなかったのも相まって聞いてみると、司くんは恥ずかしそうに顔を赤らめて背けた。
「……その。夜空と、星だったから」
「うん」
「………………類の色と、オレの色。一緒に使えるかなって…」
声に出して余計に恥ずかしくなったのか、司くんは腕で完全に顔を隠してしまった。
僕はというと、司くんに言われたことを頭で反芻していた。
僕の色と、司くんの色。
反する色だったとしても、それを組み入れたかったという、司くんの気持ちを、じわじわと理解してしまって。
気づいたら、思い切り司くんを抱きしめていた。
「わっぷ!?い、いきなりなんだ!?」
「司くんが愛しいのが悪い」
「いとしっ…!?」
びっくりしたり顔を赤くしたりと百面相をする司くんに、僕は笑いかけた。
「僕の色と一緒に使いたかったんだろう?嬉しくないことなんてないよ」
「…や、でも……使えないんだし…」
しょんぼりする司くんの頭を撫でながら、それなら、と声に出した。
「アイメイクじゃなく、ネイルはどうだろう?」
「…ネ、イル?」
「うん。紫をベースに、大きめのラメを入れるんだ。僕の色と司くんの色が共存できる、夜空の出来上がりだよ」
「…っ」
「あと、アイメイクは紫でいかないかい?」
「…ん?まあ、いいが…なんでだ?」
首を傾げる司くんに、僕は笑いかける。
「共存はできなくても、僕の色に染めることはできるからね」
公演後、いたく気に入ったそれをずっとつけるために
2人でお揃いのペディキュアをするようになったのは、また別のお話。