だってあなたは、じまんの。アタシは、誰にも信じて貰えないけれど、ちょっと変わった特技がある。
そして今日。その特技を持っていて、本当によかったと、心から思えた。
「すみません、類さん!お茶菓子を切らしていたからって、お兄ちゃん大慌てで出て行っちゃって……」
「いやいや、気にしてないよ。お気遣いなく」
不安げに差し出したお茶を受け取りながらにっこりと笑う類さん。
アタシはそれに安堵して、一緒に入れたお茶をテーブルに置いた。
「でも、ちょうどよかったです!アタシ、類さんとお話してみたかったので!」
「おや、そうなのかい?」
「はい!……あの、ちょっと信じられないような内容もあるんですが、大丈夫ですか?」
不安げに言うアタシに、類さんは首を傾げながらも頷いてくれた。
それを見たアタシは、お茶を一口飲んでから、口を開いた。
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お兄ちゃんはいつだって、アタシのことを一番に考えてくれました。
お見舞いの度に考えたショーを教えてくれたり。最近流行りのこととかを学校でクラスメイトに聞いて、教えてくれたり。
自分の身体のことで、当たっちゃう時もあったけど。泣きながら謝るアタシに、お兄ちゃんは笑顔で気にするなって、いつも言ってくれました。
だから、アタシにとっても、お兄ちゃんはとても大切な人で。
でも、だから、なんですかね?
アタシ、ちょっと不思議なセンサーを、持っているんです。
お父さんにもお母さんにも、お兄ちゃんにも話したことがない、不思議なセンサーが。
それに気づいたのは、一時退院して、家に帰ってきた時でした。
家のテーブルに、1つのキーホルダーが置かれていたんです。
ありきたりなデザインのそれは、上の紐の部分が切れていて。
劣化で切れてしまったものをリビングで落としてしまったのを、家族の誰かが置いた。
そう考えるのが自然でした。
でも、アタシは。
それを見て、何故か悪寒を感じたんです。
理由もわからないまま、リビングから離れて。
その日帰ってきたお兄ちゃんに、あれが誰のなのかを聞きました。
あれは、お兄ちゃんの彼女からのプレゼント、だったみたいです。
……え?ああ、お兄ちゃんは彼女が好きだった訳ではないみたいです。
お試しで付き合ってほしい、って言われたらしくって。
アタシは素直に、よくわからないけどそれから嫌な感じがすると、そう伝えたら。
お兄ちゃんはそうかと言って、それを捨ててくれました。
それからも、お兄ちゃんがその人からもらうものに、悪寒を感じて。
もらうことでアタシの身体に不調が出たらと、不安になったお兄ちゃんは、彼女と別れたそうなんですが。
その後、偶然知っちゃったんです。悪寒の正体を。
お兄ちゃんは、彼女さんにはアタシの写真は見せなかった。
でもアタシはお兄ちゃんから、彼女さんの写真を見せてもらっていて。
だからこそ、偶然聞こえたそれが、お兄ちゃんの彼女さんであることが、すぐにわかって。
あっちは、アタシが家族だって、気づくことはなかったんです。
お試し、なんてものは建前で、お兄ちゃんを駒扱いしていたこと。
色んなものを奢らせようとしていたけど、お兄ちゃんはお見舞いのためにお小遣いをセーブしていたから、
ATMとしても使えないなんて言われていたこと。
もっと強請ろうとしたタイミングで別れを切り出されたから、タイミングもいいし捨てようとしていたこと。
全部、全部聞こえてきて。
怒りで、どうにかなりそうなのを、一生懸命抑えました。
そして、お兄ちゃんが、あの人の駒になる前に離れて、本当によかったと思う反面。
もしかして、悪寒の正体はこれだったのかなと、気づくきっかけになりました。
「お兄ちゃんに害があるものに対して、反応するセンサー」なのかな、って。
お兄ちゃんは、あの後に例の彼女の話を聞きつけたそうで、それ以来彼女を作ることはありませんでした。
たまに友達として、家にくる人の中に、女の子はいたけれど。
アタシの反応を見て、少しでもアタシは嫌な反応を見せたら、すぐに帰したりしていて。
中学時代はしょっちゅう「シスコン」だなんて、言われていたらしいです。
でも実際、アタシが反応を見せた人は、お兄ちゃんがいないとこで悪口を言っていたり、マナーを守れていなかったりするような人ばかりで。
アタシは、このセンサーのお陰で、お兄ちゃんを守れているんだって、誇らしく思っていました。
そんなある日。
このセンサーが今までとは全く違う、始めての反応をしたのは、今年の夏のことでした
高校に上がってからは、ほとんど反応することはなくって。
それが久しぶりに反応したのは、今年の夏。
しかも、それは悪寒ではなかったんです。
心が温かくなるような、幸せな気持ちになるような。
こんなことは初めてで、初めはセンサーが反応してると、全然気づかなくって。
同じ人からのもらい物だというものを見たのが、3つ目に達した時、漸く気づきました。
これは、センサーが反応しているんだ、って。
でも、悪寒がきたときと違って、理由は全くわからなくって。
お兄ちゃんと話していても、それを特定することはできなかった。
でもきっと、悪寒ではないから、嫌なことではないんだなと。
それだけは、断言できました。
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お茶をまた一口飲んで、前を見据える。
こんなスピリチュアルな話をしているのに、類さんは茶化すことなく、真面目に聞いてくれている。
それが、何よりも嬉しかった。
「……そして。今日やっと、その理由がわかったんです」
「……そう、なのかい?」
「はい。……類さん」
「幸せな、温かい気持ちになったのは。……全て、類さんからのプレゼントでした」
「…………え」
「ショーのお土産も、お揃いで買ったものも、アタシに上げるために買ったお菓子まで。全部、全部温かかった。
そして、お兄ちゃんとお揃いで付けている、リングが通ったネックレス。それが一番、温かいです」
「……これ、が……」
「お兄ちゃん、それのことを教えてくれた時、本当に嬉しそうでした。大切なものなんだって、言っていて。」
「…………」
「そして、その顔は。……類さんとお話しているときと、全く同じ顔でした。類さんも。」
「……僕も、かい?」
「はい。……とても、幸せそうな、顔をしていて。」
「私のセンサーは、教えてくれているんだなって、気づいたんです。」
「類さんが、お兄ちゃんを幸せにする人なんだ、って」
「っ、それ……!」
「ふふ、お兄ちゃんは何も言ってませんよ?アタシが自分で気づいたんです!」
ふんす!を胸を張るアタシに、類さんは驚いた顔が泣きそうな顔に変わっていった。
「そ、うか。……ふふ、司くんは、わかりやすかったかい?」
「はい!お兄ちゃん、すぐ顔に出ますから!」
ニコニコと笑うアタシとは対照的に、類さんは本当に泣きそうで。
アタシは、顔を引き締めて、類さんに向かい合った。
「類さんは、アタシのセンサーのお墨付きの人ですから。……自慢のお兄ちゃんを、どうぞよろしくお願いします」
「……ああ。任せておくれ。絶対に、幸せにするよ」
ポロポロと涙を零す類さんに、そっと下げていた頭を戻して、笑いかける。
目元を拭きながら、類さんはそっと笑いかけた。
「……流石、自慢の妹さんだね」
「……え?」
「っ当然、だ……!」
聞こえてきたその声に、慌てて後ろを振り返る。
そこには、袋を抱えたまま、類さん以上に涙を流している、お兄ちゃんの姿があった。
「お、お兄ちゃ」
「咲希も!」
アタシの言葉を遮るように、お兄ちゃんの声が響く。
「っ咲希も!オレ達を受け入れて、幸せを願ってくれる咲希は、自慢の妹だ……!」
「…………あ」
そこで、ハッと気づいた。
もしかして、ずっと気にしていたのかな。
女の人じゃなくて、男の人を好きになって。
普通じゃない、おかしいって言われるかもしれないのを、ずっと怖がって、いたのかな。
「お兄ちゃん」
未だに泣くお兄ちゃんが手に持っている袋を下に置いてから、そっと抱きしめる。
「当たり前!どんな形でも、お兄ちゃんの幸せが、アタシの幸せなんだから!」
この言葉で、更に泣き出したお兄ちゃんを、類さんと2人で宥めて。
2人の馴れ初めに関して質問責めして、2人を盛大に照れさせるのは。
また、別のお話。
おまけ
「類さんをお義兄ちゃんって呼んだらどっちかわからなくなるね!?」
「おお……どっちも「おにいちゃん」だな……」
「なら、お兄ちゃんとお義兄さんって呼ぶのはどうかな?」
「おー!流石お義兄さん!」
「幸せすぎて心臓が痛い」
「わかる」
「もー!お兄ちゃんもお義兄さんも返ってきてってば!」
心臓がもたないとのことで、「お義兄さん」は封印されました。
おわり。