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    3iiRo27

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    ritk版深夜の60分一発勝負
    第九十二回 お題:「残暑」「無自覚」
    残暑が厳しいとある日の、練習中に発生した一幕のお話。
    前半司視点、後半類視点

    #類司
    Ruikasa
    #ワンドロ

    果たして、無自覚なのはどちらなのか。「……よし、15分休憩にしよう!各自ちゃんと水分補給するようにっ!」


    「はーい……」
    「はーい!」
    「わかったよ。それじゃああれの調整でも……」

    「だから休憩!だからな!?」




    はあ、とため息をつきながら、首元を伝う汗を拭う。








    今年は残暑が厳しいようで、暑い晴れ間がずっと続いている。

    だからこうして、こまめな休憩を挟み、水分補給をしてもらっている、という訳だ。





    「……あ!飲み物なくなっちゃった!司くん、買ってくるね!」

    「あ、わたしも行く。もうなくなりそうだし」



    「お、そうか。……ふむ。」




    それを聞いて、思案する。


    ワンダーステージは森に囲まれていることも相まって、一番近い自販機でも5分。

    従業員用の自販機ともなると、更に距離がある。


    これでは、往復の間に時間がかかってしまい、休憩時間が取れないだろう。

    ならば。




    「なら、休憩時間を少し長くしておこう。ゆっくり帰ってくるといい」


    「わーい!司くんありがとー!いってきまーす!」

    「ん、ありがと……って、えむ!?ゆっくりでいいって言ってるんだから走らないの!」





    オレのそんな言葉に嬉しそうに走っていくえむ。そしてそれを、寧々が慌てて止めながら追いかけていく。

    相変わらず仲がいいな、なんて思いながら、類の元へ歩いていった。






    ---------------------------







    休憩に入り、近くに水筒を置いたまま、機材の配線を弄る。

    少し離れたところで寧々達と話をしていた司くんが、此方に歩いてくる音が響いた。






    「……だから、休憩っていっただろう……」

    「だって、これの調子が悪いみたいだし。早く試したいから」

    「確かにその気持ちはわからんでもないが……」





    司くんに声をかけられても、僕は顔を上げなかった。

    司くんがどんな顔をしているのかは想像に容易いけれど、今はそれどころじゃない。


    残暑の影響も相まって、機材が熱暴走を起こしかけているのだ。
    冷却効果を高めたり、扇風機の用意でもしないと、本番の時に動かない可能性もある。

    演出家にとって、死活問題なんだ。







    「せめて、水分はちゃんと取ってくれ……」

    「んー、少し前に飲んだし、今は手が離せないからなあ」

    「お前な……」





    僕の言葉に、司くんがため息をつく。




    正直に言うと、嘘だったりする。水分をいつ飲んだか、僕も覚えてない。

    司くんも、きっとそれがわかっているんだろう。



    でも、僕は3人と違って日陰での作業が多い。多少暑いけれど、3人ほどじゃない。

    だから、多少水分補給を疎かにしても、問題はないのだ。


    そう思いながら、部品を手に取った。















    その時。





    「っ、ん」

    「ん、んう……!?」




    突然目の前いっぱいに、金色が広がる。







    ……否、これは司くんだ。

    司くんが、僕にキスしている。






    驚きで固まっていた僕が動き出したのを見計らったのか、唇に舌が侵入してくる。

    咄嗟に開けてしまった口に、舌と共に水が入り込んでくる。



    「ん、……ん」
    「んむ……ぅ……」





    司くんの体温でほんの少しぬるくなった水が、僕の口に流れ込んでくる。

    僕は抵抗もしないまま、流れ込んできた水をそのままごくりと飲み込んだ。





    「っ、はあ……。これで、いいか?」

    「は……、え?」



    口元を拭いながら言われた言葉に、思わず聞き返してしまった。

    僕の反応に、司くんもキョトンとしながら首を傾げる。




    「……なんだ、無自覚か?」

    「え、本当になんのこと?」





    「類が言ったんだろう。『手が離せない』って」











    その言葉に、僕はハッとなった。






    ---------------------------






    僕の家で二人きりでいた時。

    なかなか水分補給をしない僕に、司くんはずっと催促をしていた。



    でも僕は、水分補給をする手間が面倒で。

    それをする暇があったら、作業に集中したくって。



    それを伝えても尚、催促する司くんに、言ったんだ。








    『そんなに飲ませたいなら、司くんが飲ませてよ』

    と。








    僕の言葉に司くんは赤くなりながら怒っていたけど。

    結局、僕が全く水分補給しないのを見て。



    作業の合間を見て、口移しでくれたんだっけ。






    ---------------------------






    僕は、思わず頭を抱えた。



    いや、確かに僕はそう言った。

    それに、『手が離せない』って単語も、司くんに催促されてた時に多用してた。

    けれど。




    「あの、司くん」

    「ん?なんだ?」




    「あの、僕ね、今本当に手が離せなかっただけで……」

    「…………え」

    「だから、その。……飲ませてほしいって、催促、した訳では……」














    僕のその言葉に、司くんの顔が真っ赤に染まっていく。



    あ、ヤバい。

    そう感じて、咄嗟に耳を塞ぐ。











    その日、ワンダーステージに響いた司くんの声は。

    帰り途中のえむくんや寧々の耳にまで、届いたらしい。





    その日から3日間、司くんは口を聞いてくれなかった。
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