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    kky_89

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    kky_89

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    mzqsの宋嵐の話の没です

    宋子琛は諦めない!※この小ネタの9割9分9厘が捏造。
    ※小説寄り設定。ホラー、グロテスクの描写があります。R―15

    温氏の横暴は悪化してゆき仙門百家は自領の対処に追われ、白雪閣のような一般人まじりの道観が彼らの頼みの綱となっていく、憂いのまま出奔同然に宋嵐は遊歴に出ることにした。若すぎると自覚はあったが、その頃には道閣で宋嵐に剣で勝てる者もおらず、これほどの力を賜りながら僻地寒村の民を見捨てろというのか、と青い義侠心を叫ばれては誰も彼を引き止めることができなかった。かりに、いつでも戻ってくればいい、疲れた時でも、安らぎが欲しい時でも、理由など何もなくたって構わない、と声をかけるのが精一杯だった。

    旅に身を置くうちに、温氏が滅び、乱葬崗でも戦いが起こったが宋嵐は淡々と邪祟を退けることに従事していた。噂を頼りに赴いた地で他の修士と鉢合わせとなり手柄で揉めたり、依頼されたというのに難癖をつけて報酬を減らされたり、仙家の領地の問題に勝手に手出しをしたとして罰を受けたりするうちに、散々からかわれた堅物さが潔癖症にまで悪化したが幸い彼は一人旅をしていたので宿に戻るか町を出れてしまえば不快に感じる相手もいない。誰もいない方が帰って快適だ、というのはただの強がりだけではなくなっていた。
    14、5の子どもだからと見くびられることも多いが、一方で志しを讃えられることもある。嘲笑でも揶揄でもない素朴なねぎらいは身分の貴賤や貧富を問わずに人の心に咲いていた。
    その日、宋嵐に寝床を供してくれたのは行商の一団だった。街に着くまでしばらく護衛をするうちに身の上話を交わし、宋嵐が損得を抜きに夜狩をしていることをひどく心配して志しは大事だが金がなければ世は渡れないと説得をしては頑な様に苦笑をこぼした。
    「金を蓄えるのも適当な報酬を要求するのも、ケチなやつと富豪からちょっと多めに貰っておくのも恥じることはない。あんたくらいの若さじゃまだ実感も湧かないだろうがな、金で解決できない問題のほうが厄介だし、余裕があればこういうこともしてやれるんだ」
     行商の頭領は鍛えられた腹筋の上にうっすら積もった贅肉を震わせて宋嵐のための一部屋を用意した。彼らは粗末な広間でぎゅうぎゅうに押し込まれているにもかかわらずだ。
    「俺たちはいいんだよ。そういうつもりで生きているし、十何人いるんだ。一人一部屋なんてとってたら部屋も足りないし勿体無い。長旅で薄汚れている者同士でちょうどいい。だが道士様なら綺麗な格好をしてもらわなきゃ示しがつかないだろ」
    「…それは、あなたたちだって清潔なほうがよいのでは」
    「飾り立てるのは好きだよ。派手なのもな。でもそういうのは際限がなくてダメだ。俺たちの贅沢は飲んで食って騒ぐことなんだ。道士さんも一緒にどうだい。この街で折り返しになるから送別がてら、飲んでいかないか」
     頭領すでに一杯呑んだ後なのか、いつもより大きな声で上機嫌に宋嵐の背中をバシバシと2度3度叩いた。そう強い力ではないのだけれど不意をつかれた宋嵐はごほり、と咳込みながら断りの言葉を探した。良くしてもらったのなら報いたいが酒宴は苦手だ。酒も飲めないし、肉も味の濃い料理もあまり好きではない。
    「……私は、」
     気にしなくていい、と言いかけたところで遠くから、おぉい、と呼ぶ声が聞こえた。声を辿れば行商団の数人が広間の窓から身を乗り出し、中庭で立ち話をする二人に手を振っている。早くこないと酒も無くなるし料理は冷める、だとか、2人がいなければ盛り上がらない、だとか口々に捲し立てられては宋嵐はすっかり逃げ場を失った。
    「道士さんの席、張延の隣に作っておいてくれ。あいつはちょっとに酔わないからこういう時の客人の扱いが一番巧い」
    頭領が怒鳴るように返すと、嗯、と答えて彼らは体を引っ込めた。身軽ではないが連帯の取れた仕草はなんとなく、そういう草木のようだった。

    酒宴の後も行商の一団はしばらくのあいだ新たな商品を仕入れるためしばらく滞在するという。宋嵐は一人旅に必要なものをいくつか買い足すと一行に別れを告げ先へと進んだ。
     この先にも大小の集落があるのだが、近頃は妖魔が出ては車を牽く牛や馬、若い人間の臓腑を食らうという。ちょっとやそっとの用心棒では歯が立たないし、都市というほど栄えた場所もないため行商たちは、混乱冷めやらず自領のことで手一杯の仙門を頼るでも遊歴の修士に依頼するでもなく、すっかり諦めている。
    隠の気を帯びる妖魔が活発になる日暮れを待ってから宋嵐は街道を進んだ。
    話によればそれは巨大な狼か、野猪か、熊ではなさそうだが禍々しい色の毛皮をした獣だという。遠く近くに荒々しい岩肌の峰が真っ黒な夜闇のなかでなお黒々と佇み、谷間には強い風が吹きおろしてくる。道の脇に走っている用水路みたいな細い川は数年に一度この谷間も下流の農地も水浸しにする暴れ川らしい。土壌も豊かとは言いづらく人里には夜通しあるいても一日半かかる。たしかに、悪鬼魔物の好みそうな地質だ。しばらく人通りが途絶えていたせいで街道には草が生え始め枯葉が積もり落石が目立つ。こうなってくると、人の知覚では獣の足音は捉えにくい。それが唯の獣よりも悪知恵をつけた魑魅魍魎とあらばなおさら。a
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